「非大卒人材のトリセツ」の第3回は、「非大卒人材の育成方法」について記載したいと思います。少し長くなってしまったので、総論・各論に分けて、前編・後編でお送りします。

前回 非大卒人材のトリセツ(第2回 非大卒人材の可能性)

前回の「非大卒人材の可能性」では、1.若さ ~ 若者の4年間を有効活用できる ~、2.柔軟な対応力を長所として挙げさせてもらいました。また、「長所は短所の裏返し」とも言われるように、これらの長所の裏返しとして、非大卒人材の短所でもある知識不足についても指摘させてもらいました。

これらについては、会社の経営者や人事部の方からすれば、非大卒人材に関わらず、学歴は関係なく若手社員全般の特徴と似ていると感じた方も多いのではないかと思います。私も同様に感じていて、非大卒人材の場合は、大卒人材と比較して、その程度が大きい・激しいだけだと考えています。そのため、ますます就職した会社の育成方法が重要になってくると思います。

私が経営する経営コンサルティング会社のスーツ社では、高卒人材2名を採用しています。今回はスーツ社において、どのように彼らを育成しているのかをご紹介したいと思います。なお、初回に記載したとおり、 “たった2年”、“たったの2名”の採用・育成の経験でしかありませんので、その点についてご留意・ご理解いただければと存じます。

1.正しい現状認識

スーツ社の非大卒人材の育成で1番気を付けている点は、正しい現状認識をさせることです。

私は、非大卒人材に限らず、若手社員は、皆やる気にあふれて会社に就職してくると考えています。しかし、時間の経過とともに、どうしても自分の仕事や職場環境を客観視することができなくなってしまい、入社時には充実していたやる気の低下とともに、若手社員の多くが、会社の文化に必要以上に染まりすぎてしまう、「自分は悪くない。悪いのは上司や会社!」など被害者意識を持ってしまう、自らの可能性に自分で限界を設定してしまうなど、個人の主体性が乏しくなってしまうと考えています。

しかし、正しい現状認識があって、やる気さえあれば、主体性を失うこともありませんし、可能性は無限大に拡がります。

特に非大卒人材は、大卒人材以上に多様なバックグラウンドを持ち、教育年数も短いため一般に知識量が不足しており、スポンジのように吸収するかわりに、染まりやすい特徴があります。また、知識不足から視野も狭くなりがちであり、大人社会と接する機会の少なさから視点も低いため、とにかく客観性を持たせなければなりません。

スーツ社の場合は経営コンサルティング会社のため、非大卒人材の彼ら二人も、日常の業務においては、クライアント企業の社長にアドバイスをする立場にあり、公認会計士や弁護士などの専門家、金融機関・投資家や大企業の幹部と打ち合わせをすることも多々あります。

こういった日常業務を客観的に捉えさせることで、自分の置かれている状況を把握できるように促すのです。ビジネススキルが足りているか、仕事に対するプロフェッショナリズムはあるか、自己成長の定義ができているか、社会性の獲得はできているかなど様々な点を多角的に考えさせるのです。

スーツ社では、この客観性を担保するために、異業種交流会やベンチャー交流会などへの参加を積極的に奨励しています。彼らが人的ネットワークを築くという目的もありますが、何よりも自分の仕事や職場環境を客観視してもらいたいと考えています。

また、自分の比較の対象を、同年代のトップ層に置くように助言をしています。例えば、彼らの年齢ではまだ公認会計士や弁護士の有資格者はいませんので、難関資格の取得を目指している受験生たちの努力などと比較するようにさせています。

2.ポジティブな職業観の確立

スーツ社の非大卒人材の育成で2番目に気を付けている点は、以下のようなポジティブな職業観の確立です。

これは当団体の問題意識でもありますが、非大卒人材の多くの職業観は、学生時代のアルバイトの延長線上にあることが多いと考えています。つまりは、労働の対価という報酬を得るために、決して面白いとは思えない労働をして、自分の時間を切り売りするというような職業観です。

この非大卒人材の多くが持っている職業観を、大きく2つ変えなければならないと考えています。仕事そのものの捉え方を、ネガティブからポジティブに変化させなければなりません。

まず、仕事は生活のためにやむなくする「労働」ではなく、仕事は、他者や社会に貢献することができ、自己実現することができる、なおかつ、報酬までもらうことができる「仕事」であるという考えを知ってもらう必要があると考えています。

次に、近視眼的な考えを変えさせなければなりません。彼らには投資の概念を教える必要があると考えています。投資の概念とは、時間とお金を投資して、お金や幸せなどのリターンを極大化するという考え方です。人生100年時代において、20歳の若者は、少なくとも50年は働く可能性が高いと言われています。それならば、とにかく早いうちに、自己のスキルアップを図って、労働生産性を高めたほうが、仕事も楽しくできるし、報酬も高くもらえる可能性が高いのではないかという事実を教えます。では、どのように自己のスキルアップをするか。それは時間をかけて、本を買って勉強したり、お金をかけて、学校に通ったりすることで、スキルアップすることができることを教えます。

非大卒人材の職業観を、「労働」から「仕事」へ変化させ、そして、1時間あたりの「労働」からそれこそ50年あたりの「仕事」へ変化させて、ネガティブからポジティブに変えることが必要だと思います。

 
小松 裕介
プロ経営者 株式会社スーツ 代表取締役
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社を7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。
2018年9月に一般社団法人スクール・トゥ・ワーク設立と同時に監事に就任。

 

「非大卒人材のトリセツ」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 非大卒人材の可能性
第3回 非大卒人材の育成方法 前編