2019年6月6日(木)埼玉県立上尾高校において特別授業を行ってきました。当日の様子をレポートしていきたいと思います。

前回 【授業レポート】2019年6月6日埼玉県立上尾高校 前編

3.「職業人インタビュー」

「質問に答えるコーナー」のあとは、4つのグループに別れてより深く生徒たちと対話をする「職業人インタビュー」の時間となりました。

講師の工藤さんのグループでは、「社会に出てみてギャップはありましたか?」などの質問がやりとりされていました。

「もっと世の中はうまくいくと思っていた。やりたいと思っていたことが、全てうまくいくわけではなかった。考えが甘かったなと思ったことは多かった。」と工藤さんの回答。工藤さんは生徒1人1人と向き合うため、グループ内全員の名前を丁寧にメモしていました。

今度は逆に工藤さんから「普段の仕事やアルバイトは何をしているの?」と聞くと、新聞配達、介護職、ドーナツ屋さんの店員、ダイレクトメールのポスティング、組み立て作業・バイクの改造など、多種多様な答えが飛び交いました。

すでに様々な仕事に触れている生徒たちが「学歴」について気にしていることを見て「自身が大学を卒業していないことに対して最初の数年はコンプレックスを拭えずに苦しみましたが、今はそれが全く関係なく接してくれる職場の仲間とも出会うことができました。今では“ラベリング”をしていたのは自分の思い込みだったという側面もあるんじゃないかと感じています。」と工藤さんは率直に生徒に想いを伝えます。

また、高校を卒業していない人への待遇や差別に関して、生徒たちからは「割りに合わないなということや、給与などの数字も、理不尽だと思うことも多いです。」、「大卒の人だけが得をしている社会に納得がいかない。」や「17~19歳まではそう思っていたけど、自分は今20歳を超えたが、今は開き直っています。」など、工藤さんと同じように率直に様々な考えを打ち明けていました。

更に一歩踏み込んで、「もっとこんな世の中になった方が良いことは?」という工藤さんの質問に対しては、生徒のなかで熱く議論が交わされ、「非正規の採用者に対する企業の育成の対応などが変わってほしいと思っていました。」という意見も出ていました。

授業に参加していたある生徒は、いじめを受けたことをきっかけに中学から不登校になり、20歳半ばで定時制高校に通い高校卒業の資格を取りに来ていました。

「高校を卒業したらやりたいことはある?」という質問に対して、「特にないが、安定した職に就きたいという気持ちが一番です。夢よりもまず現実的なことが頭に浮かびます。」と答えていました。安定した職に就きたいけど、できるのだろうかという不安を元に、工藤さんやまわりの講師にたくさんの質問をしていました。

講師の森川さんのグループでは、「定時制にきて良かったことは?」と聞いてみると、その意外な答えに驚いたそうです。「普通の学校にいる時は自分はできないと思っていたけど、ここに来ると周りが真面目にやっていない人ばかりだから、自分に自信がついて良かった。」

森川さんは、生徒が「自分は周りより劣っている。」や「自分はなにもしていない。」という気持ちが強いと感じ、「何もしていないと自分で思ってしまっているだけで、立派に仕事を持ったり自分の道を持っているのに。」と振り返っていました。

講師の龍神さんには、生徒から「やってみたい趣味や仕事などはあるんですが、いろいろと考えすぎて1歩を踏み出せなくて悩んでます。」という質問があり、「いろいろと考えすぎての“いろいろ”とは例えばどういうのですか?」と龍神さんが聞いていました。

生徒からは「過去の失敗した時のことを考えてしまって前に進めないです。」とのこと。龍神さんは、「とりあえずやってみよう!しか言えません(笑)。」、「失敗が怖いんじゃなくて他人から変な目で見られるのが怖いのではないですか?だったらまずは、家で1人で試してみたり、他人と関わらなくて良いことから挑戦してみよう。」や「ネットが普及して行動する敷居が下がっていると思いますよ!」と自分の体験を引き合いに、具体的なアドバイスをしていました。

講師の竹田さんは、第1回の授業も参加して今回2回目の参加。今回は、「キャリアのRPG」というワークショップを使い、生徒さんと一緒にキャリアについて考えていました。自分ではない架空の若者がハッピーになれるようにキャラクターの設定を踏まえながらアドバイスを考えるという取組から自身のキャリアづくりのヒントを得るのがこのワークショップです。

今回、出てきたアイデアには、「弟が一人立ちするまで家族を支えつつ、同時進行でお金を貯める。100万円あれば海外行けそうだから、パチンコやめさせて月20万円貯金する。その後海外に留学にいく。」といったワークショップの製作者の想定していなかったような具体的なものが出ていました。

こうしたキャリアを考えるワークショップを用いて、更に生徒たちのキャリアづくりを応援していく取組も続けていきます。

多くの生徒が就職活動スタートの直前の時期である定時制の4年生。今回講師と生徒たちの間で行われた、たくさんの対話は、最初の一歩の不安の解消とともに、「最初の一歩」の後の職業人生におけるアドバイスやアイデアがたくさん含まれていました。講師との対話を通じて、生徒たちの中で自分で自分の人生を切り開いていこうという気持ちを生み出していく活動を続けていきたいと思います。