2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

前回 ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾 「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その2)

古屋
1つ目のテーマは、現状の課題などのお話を伺いたいと思います。このテーマについては最初に、学校の先生の方からお話をいただきたいと思いますので、新井先生お願いします。

新井
先ほど、お客さんの中に「一人一社制ってそもそも何ですか?」というようにおっしゃった方がいたと思うんですけれども、たぶん教員も同じだと思います。

私が最初に働いた私立高校は、大学進学を目指すような学校だったので、自分が受け持ったクラスには就職希望の子はほぼいなくて、その時は「一人一社制」という言葉は知りませんでした。

私が「一人一社制」を知るようになったのは、定時制高校に来た時です。定時制高校は、ほとんどの子が就職希望です。そうすると、進路指導の準備を始めると「一人一社制」というワードが出てきて、そこで初めて「一人一社制」について調べました。基本的に教員になる方というのは、学歴はほぼ決まっています。高卒だと教員にはなれないので、進路指導をする先生は大卒です。なので、高卒就職の仕組みを知りません。

高卒就職の基本的な流れは、7月1日に求人票が来て、夏休み中に1社から3社ぐらい企業見学をして、9月5日に応募が解禁されます。そして、9月16日から面接がスタート。10月以降になると「一人一社制」の規制が緩まる、そういう流れがあることを自分で調べて知りました。職場に20代の先生が多くいますが、おそらく知らない先生が多いかと思います。知るきっかけは、卒業学年になるとか、卒業学年に近づくとか、もしくは進路指導部という部署に行った時じゃないと分からないのが現状です。

制度としての課題もあるかとは思いますが、やはり教員側の知識の無さは課題として挙げられます。しかし、公立教員なので一応研修もあります。初任者研修と言って、埼玉県の場合は1年目の先生が、毎週水曜日に月2、3回ぐらいセンターに行きます。ですが、僕は東京都で受けているので埼玉では受けたことないんですよね。ただ、話を聞く感じだとキャリア教育の研修をやっていないと思います。恐らく、高卒就職の仕組みとかも知らないままなんじゃないかと思います。

ただ、アクティブラーニングの研修はかなりやっています。埼玉県の方で、ジグソー法という東京大学と研究をしているものがあるのですが、それに関してもかなりやっています。そして、その研修については、1回は絶対に受講しなさいという形になっています。

なので、キャリア教育に関しても必須で研修に組み込むとか、そういうことをしないと先生側が、よく分からないまま指導して、よく分からないまま子供たちが仕事に就いて、ミスマッチが起きてしまう。それが高卒早期離職者の4割と、大卒早期離職者の3割、この1割の差はそのように思っています。

古屋
ありがとうございます。定時制の子たちは、今どういうように仕事を感じていますか?

新井
自分が定時制で働き始めた時に、ベテランの先生たちが言うのが、「うちの子たちはすぐ辞めちゃうんだよ」という話をよくしていました。追跡調査していませんが、8割、9割は3年以内に辞めているという話を聞いて、それは変えないといけないと思い、悩み続けていました。色々な方に情報をいただいて、ハッシャダイさんと連携をさせていただいたりとか、スクール・トゥ・ワークさんと連携をさせていただいたりとか。あとは、埼玉県がNPOと連携して自立支援事業をやっていまして、今日も来てくださっているのですが、そことも連携して色々な社会人の方たちを去年の11月ぐらいから呼んでいます。例えば、中卒から起業したとび職の社長さんとか、定時制高校を卒業した後に、大手の葬儀会社に入って、支社長をやっている人、あとはディーラーの営業の方、整備士の方とか、より身近に感じる職種の方たちなど、色々な方を呼んで話をしてもらっています。そのおかげもあってか、今3年生になって、かなりの子たちが進路を絞れてきています。

例を挙げると、1年生の時に薬剤師になりたいと言っていた子が、母子家庭で、進学は難しいという話がありました。ですが、医療系に興味があるという話をしていて、看護師だったらなれるかもしれないとか、準看から行こうとかの相談をずっとしていたら、あまりやる気はないという話に変わって、本当は何がやりたいのと聞いたら、ゲームまとめサイトのゲームウィズというのがありまして、そこのライターをやりたいと本人が志望を変えたんですよね。大きく進路の方向は変わりましたが、でも、本人もしっかり頑張ろうってなりました。

一応ネットで見たら、バイトなんですけれど結構お給料も貰えるみたいで、とりあえずやりたいことをやってみるということになりました。そこからどんどん突き詰めていったら、農業もやりたいという意向とかも出てきて、逆にチャンスだよ、なり手がいないからすごい可愛がってもらえるよとか、生徒自身が自ら仕事について調べるようにもなりました。

他の生徒では、声優のマネジメントをしたいと言っている子がいまして、声優の芸能事務所を調べてみると、やはり、高卒だと厳しいという話になりました。しかし、専門学校に行くお金も母子家庭だから無いと。大学も難しいとなった時に本人が、今は働いて、とにかくお金を貯めると言いました。そこからキャリアを積んで、転職するのがいいかもしれない。なるべくいい会社に入るために今、一生懸命頑張って成績を上げようとか、厳しい中でも色々な話が出てきました。

もし自分が、何も考えずにいきなり4年生の代の進路指導をしていたら、どうなっていたのかなという危機感を最近まではすごく感じていましたが、今は少しずつ安心しています。

古屋
ありがとうございます。生徒さんもそういう話を聞けると、胸が熱くなるというか、そういう気持ちあるかと思います。先ほども申し上げたとおり、今までの在り方自体を完全に否定してもしょうがない部分もあって、日本のマッチングが非常に上手くいっているというのは世界的に一つの特徴ではありますので。その辺の話も含めて、鈴木補佐がどういうように今の高校生の進路選びについて考えられているのかというのを伺いたいと思っています。

鈴木
だいたいの現場の現状は、新井先生に喋っていただきましたので、全体的なお話しで言いますと、先ほど就職率98.5%と言ったのは、正確には98.1%ですね。実は昭和63年の就職率が98.2%でこの数字が最高だったんですね。これは、ちょうど元号が変わる時に、就職率が相当高くなるというところがあって、昨年度から今年にかけての就職率もたぶん同じような現象が起きるかと。なぜか元号が変わった時に98.2%というような高卒者の就職率が相当高いというか、一番高いと言われているのが就職率であるという現状がございまして。

色々な先生からお話しを聞くと、やはり就職率が良いということは、色々な会社からオファーがたくさん来るということ。そうすると、学校の先生たちはそのオファーを整理するんですけども、追い付かないそうなんですね。

昔は、何社かの中から生徒の成績や授業態度などで選べたものが、あまりにも幅が大きすぎて、生徒の選択の幅が逆に広がりすぎる。何が起こるかと言うと、先生の進路指導が追い付かない。要は、「マッチング」が出来なくなるということなんですよね。実は皆さんが思っている以上に高校の先生は忙しくて、大学生は昔、就職氷河期の時に100社面接とか1,000社面接とかありましたが、高校の先生は生徒が高校1年生の頃から、生徒に対する就職活動というものを始めていて、インターンシップだったり職業体験だったり、いわゆる就活指導というものをずっと進めているんですよね。そしてその集大成が実は就職だというところがあるんです。

ですから、生徒の就職までが学業の一環として、その成果として受けられるというように現場の先生から話を聞いて、なるほどと思いました。

では、文部科学省で何が起こっているかと言うと、昔は詰め込み教育とかゆとり教育とかそういう順繰りがあったのですが、今は社会に出られる子供たちを育てようという形に変わっているんです。

今までは知識としての詰込みだったり、心の調整だったりとか色々やってきたわけですけども。今行っているのは、子供たちが社会に出た時に自分の足で立っていられるような教育をしていくしかないよねということす。

こういう進路指導、進路選びは、学習と本来、直接結びついているというはずなんですけれども、それを超えて就職率が上がって来ていて、そして職種も新しいものに変わってくるものですから、なかなかそこに学校現場が追い付いていかないという現状があるというように聞いております。

そういった意味で、先ほど言ったような「一人一社制」などの課題があります。どこかの地点でブレイクスルーが必要なのかどうなのか、少し考えなきゃならないのかというところに来てると思っております。