2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

前回 ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その6)

古屋
そうですね、採用ですね。自信が無いという話がありましたけど、そもそも日本の大きな会社の人事というのは、人間の評価がそもそも苦手なんですよね。日本的雇用慣行の中では、別に個人個人を見る必要は無いんですよ、一切。何を見ているかというと年次です。入社年次だけを見て、配属を決めればいいんですよ。ですからグローバル目線だと、日本の会社は「評価するという機能」がそもそも弱いと言われているんですね。その最たるものが「面接」での選考。その最先端にあるのがこの「学歴問題」だと私は思っています。

ということでちょっと、会場の皆さんの主張も聞きたいですし、質問のある方は挙手制で参りましょう。

会場質問者①
新井先生に特に質問したいなと思います。私の問題意識の背景と質問したいことをお話しできればと思います。

普段私は、大学の進路選択をもうちょっと解像度を上げてできるように、つまり、法学部って何となく選ぶとか、経済学部って何となく選ぶのじゃではなくてもっと理解度を上げた状態で進路選択すれば、もっと納得いく進路選択ができ、より良い意思決定というものができるようになるのではないか、というのをコンセプトに事業をやっています。

やっぱり現場に入って見ていると、意思決定できる環境がある子だけが大学とかにしっかり行けるかなというように思うんですね。一方で、新井先生がたぶん見られている現場というのは、例えば親がどうしても支援をしてくれないからだとか、自分で決めるしかないから、逆に、何か簡単に意思決定ができると言いますか。簡単と言うよりかは、頑張ってこういうふうにやるしかないから僕はこれをするんだって覚悟があってできる。親もそれを止めないというのがあるから意思決定ができる一方で、たぶんできない何かががんじがらめになっている子たちもいるんじゃないかなと思うんですよ。

私の目にはあまりそれが見えていないんですよね、普段の現場だと。現場で生徒とかにお話しをする時に、この子って凄いがんじがらめになっているなだとか。そういう生徒さんが一歩踏み出すためには、どういうような要素があったら前に進めるのかをお聞きしたいです。

新井
そうですね……。今、接している子たちは経済的な理由で進学の選択ができない子がほとんどなんですよね。自立しなきゃいけないって意識がたぶん強いですね。とにかく働かなきゃいけないという状況にあるので。例えば、清掃業やりたいとか、宅配業やってみたいとか、結構、具体的にポンポン出てきています。

逆にあんまり言えない子というのは、ちょっとやっぱり親の束縛があるとかはしますかね。あとはそもそも何も考えていない子とか、自信が無い子とかがそういうのに踏み出せるように、私は社会人の方を招いています。

やっぱり人間って結構、身の回りの人にめちゃめちゃ影響受けるじゃないですか。自分なんかも、父親が短大卒で、母親が高卒なんですけど、兄貴がむちゃくちゃ頭良くて。塾行かなくても中学で一番頭良くて、進学校入って、東北大学一本で、現役で受かって行っちゃったんですよね。そういうのもいたから、自分もそうならなきゃいけないとか、やりたいと思って。今接している子たちとは逆なんで。逆にロールモデルを示すと、親御さんが片方しかいなくてパートタイマーだったり、いろいろあるんですけど。

基本的に教えている子たちって、ほぼ教員にならないじゃないですか。教員になる子たぶん1%以下だと思うんですよね。だから、僕らはロールモデルになり得ないんじゃないかなと思うので、生で働いている人に来てもらって、ロールモデルになってもらうと、こういう道もあるんだなと思うことで一歩踏み出せるのかなというふうに僕は思っています。

勝山
僕もいいですか。僕の周りでもたくさんいるんですけど、これ解決できるのかできないのかというと、正直言うと、家庭の事情だから解決できないかもしれないよねと思っていることなんです。

周りに中卒、少年院に入っている子たちが結構いるんですけど。少年院の友達の子が出てきて「俺、高校通いたい」というのをお父さんに言った時に、お父さんは「何言ってんのお前。俺、中卒で親方やってきたんやから、お前もそれで行けるねんから、高校なんか行くな」と言う親が結構多かったりするんです。「俺がこうやったから、お前らもこうやって生きろ」と言う人、めっちゃ見てきたんですよ僕。

それによって、自分がやってみたいとか、こういうことやってみたいって思ったとしても、親に全部阻止されてしまうというのを、いろんなところで見ています。そうなった時に、じゃあ何か、親以外の情報とか、それこそ学校でいろんな進路選択ができるような環境があれば、その子が親というしがらみから抜け出して一歩を踏み出すこともできるんじゃないかなと思ったりしています。

会場質問者①
はい、ありがとうございます。もう一回だけご質問したいんですが、今そういう人が目の前にいた時に、勝山さんだったらどういうふうに声を掛けたり行動したりしますか。

勝山
それこそ面白いことしている子が一人いるんです。その子、僕と同い年なんですけど、少年院に入ったりいろいろして、親からも地元出るなとか、お前もとび職で親方になれって言われてたヤツなんです。

「一回海外行ってこいよ」と言って、「カンボジアとか行ってきたらどうなん」と言ったら12月にカンボジアに行ったんですよ。今、何しているかというと、カンボジアで屋台やっているんですよ。

「めっちゃ人生おもろいわ」と言って、Twitterで見たら日本料理を屋台でやってるらしいんです。またちょっと違う選択の仕方なんですけど、今人生超楽しいと言ってて。

ということで、僕はそういう人には、一回カンボジアとか日本と違うところ一回行ってみたらどうなのと言っています。それでめっちゃワクワクしてるし面白いわみたいなこと言って働いている子がいますね。

会場質問者②
キャリアバイトのサービスで、長期インターンの支援を行っているのと、あと、僕自身が地方出身で高校中退して、大学に行って社会人になったので、ハッシャダイさんの授業聞けるのもすごい興味があって、それで参加させていただきました。

一つ皆様にお聞きしたいのが、ちょっと時代の流れとかもあって、22春卒の大学生から数年単位で拡大するというのと、2022年から成年年齢の引き下げというのがあると思うんですけど、課題感もある高卒で就職する人が、「一人一社制」というところのブレイクスルーになり得るものって何なのかっていうところをお伺いしたいです。

米山
そうですね、ありがとうございます。まず、事実として申し上げると、通年採用という方針が報道でも出てますけど、それほど急激には広がらないと思います。

経団連のやつとかも、ちゃんと読むと、これは「卒後通年」という、つまり、通年って本当にいつでもじゃなくて、卒業後でも取りましょうよ、なんです。これはこれで凄い良いと思うんですけど、やっぱり全体としてのパーセンテージがどこまで出るかというと、最悪卒後収入が無い状況というのを許容できるかというところもあるので。事実上のパーセンテージがそんなに増えるかというとそんなに増えないと思います。

僕個人としてはその、3月6月というルールの関係では、当然ながら目安としては非常に必要なものだと思っていますし、一括採用というものの評価としては、正に20代の失業率が日本はかなり低いと。ヨーロッパとかよりかなり低いところも含めて、かなりポジティブに評価しなければいけないところはあると思いつつも、さっき言ったように、どっちかと言うと本当に、インターンという名の下で説明会が行われていたりとかで、実際かなりマッチングとして有効なインターンとかというのが、使われている度合いがまだ低いというので非常に問題意識を持っています。その辺りを3月6月というルールとの関係でもうちょっと整理したいなというふうに思っています。特にこの世界は、裏で行われていることと表の建前っていうのがちょっとズレてきているというのが結構あると思うので、そこの整理も含めてやりたいなとは思っているのが現状としてあります。

正にそういう動きというのが、社会全体としてある程度インターンってもっと必要だよなという声が結構出てきているんです。僕も本当驚いていますけど。その中で本当に必要に迫られてというか、起こっているというのが僕の思っているところで。高卒のところでも同じことが起こる、起こり得る状況にはなっていると思うんです。つまり、さっき鈴木さんからも現状をお話しいただきましたけれども、やっぱり一人の生徒にいろんなオファーが届き始めているというのが現状としてあって。要するに選ぼうと思えば選べるという状況はあると思います。それがどこまで広がるかというところで、というのがブレイクスルーになり得るのかなと思いますね。

鈴木
「一人一社」と成年齢引き下げの話がありましたが、成人年齢引き下げの話になりますと、高校3年生で成人が達成しますので、実は親の束縛無しに就職しようと思えばできるということになっているんですね。ただ、高校生なんですよ、そこは。高校というカテゴリーに入っているというところがあって、やはりそこは進路指導を行っている先生たちがいるし、日々の学業があると。

大学生と高校生でどうしても違うなというのが、高校生は3年間きっちりとしたカリキュラムを全うするんですね。まあ大学生がしてないというわけじゃないんですけど、大学生は単位制というところもあって、大学2年生である程度就職活動ができたりとかというところもあるんですが、高校生の場合3年生までカリキュラムを全うしなければならない、そうしないとやっぱり世に出るのはちょっと難しくなってくるというところがあるので、それを行いながら進路指導というか、就職活動も行うというところに実は「一人一社制」のキーワードがあります。

「一人一社制」、要は一種の予定調和の中で行われているシステムなんですね。企業側も面接の回数を減らしたい、一回で終わらせたい。学校側も就職する子を生み出したいというところのwin-winで。実は厚生労働省と文科省で去年の春から調査したところ、企業側からも学校側からも8割は前向きに捉えられているシステムという事になってはいるんです。

じゃあ生徒、もしくは就職した子たちがどう思っているかというのは、これから調査をしていかなきゃなというところはあるんですけども。そのメリット・デメリットについて、例えば地方で就職をするということは、新井先生もおっしゃってましたけど、親御さんのですね、声が相当大きいんです。学校側も親御さんに対して相当遠慮しますし、それが本人の声なのか親御さんの声なのかというのは、そこら辺はそんなに踏み入れられないという学校側の弱さというところもあると思います。そういったところも「一人一社制」の数字になっちゃっていると。

ただ、自由に就職して自由に転職してという、考え方からすると、何だこの制度は、と。まるで許嫁がある昔の結婚のようなシステムじゃないか、と。確かに古臭く見えるところがある、そういった社会システムというのをどうやってブレイクスルーしていくかというところではあると思います。

ただ、マッチングは上手くいっているので、その後の3年後の離職率4割というのが、高いか低いかというところについても、実はあまりきちんとした研究者が現われてきていないというところが現状です。この4割という中身が問題ですね。なぜ3年間で辞めていくかというと、やっぱり中小企業に勤めていますので、人間関係が狭い。なので、どうしてもその狭い中での人間関係に耐えられなくて辞めるという子たちが結構多い。一方で、やっぱり若いですから、次のステップに行きたいという子も何割かいるというところもあり、清濁あるというのが実情。というのは進路指導の先生方の集まりの中で言われている。

ですが、この4割、離職率というのはどういったものを受けて皆さんも考えあぐねているというのが実は実情だったりするというふうに聞いてはおります。