2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

勝山
皆さん初めまして。株式会社ハッシャダイの勝山と申します。今日のイベントは、高卒人材の就職に関する有職者トークセッションという堅そうな名前になっています。私は、今日札幌から帰ってきて、大通高校という高校でキャリア講演をして、昨日は「ヤンキー母校へ帰る」の舞台になった北星学園余市高校で生徒たちの進路サポートを行ってきました。今日は高卒人材の就職に関するお話しができるので、非常に楽しみに思っております。

今日は最初に、スクール・トゥ・ワーク代表理事の古屋さんから、これからの高卒人材の就職に関することについて、オープニングトークをしていただこうと思います。オープニングトーク、パネルディスカッション、その後はネットワーキングっていう形で、これからの就職に関することをディスカッションできていったら良いなと思っております。本日は、文科省、経産省、川越工業高校の先生、そして株式会社インフラトップの人事の方に来ていただいております。本日はよろしくお願いします。

では、早速ですけれども、古屋さんからオープニングトークをしていただけたらと思います。よろしくお願いします。

古屋
早速ですが、質問をしたいと思います。今日の朝ご飯がパンだったっていう人、手を挙げてみてもらっていいですか。2つ目の質問。結婚をしているという方は手を挙げていただいていいですか。3つ目の質問。今の仕事がめちゃくちゃ楽しいという方は手を挙げていただいてもいいですか。結構な人数が手を挙げちゃったんでつまらないですね(笑)。4つ目の質問。私は中卒もしくは高卒ですという方、手を挙げていただいていいですか。ありがとうございます。

この4つの質問ってそれぞれ全然関係無いんですよ。でも、高卒と大卒の「スクール・トゥ・ワーク」の在り方、学校から職業への在り方というのは、それこそ全然違うわけです。それは良いとか悪いではなく、単なる違いです。朝ごはんにパンを食べようがご飯を食べようが良いも悪いもないわけです。しかし、高卒と大卒は優劣のように感じられてしまっている。ここが私のすごく大きな問題意識で、今日こういうイベントを開催している理由でもあります。

最初に、私はまだwhyが足りないんじゃないかと思っています。人間のキャリア作りって当然産業構造とか雇用実践とかによって作られていくんですけど、皆さんがおっしゃっている通り、現代の産業構造も雇用実践もめちゃくちゃ変わっているわけじゃないですか。そうすると、キャリア作りが変わるのは当たり前ですよね。当たり前のことってもっと疑わないといけないと思っているんですよ。

ということで、今日はみなさんでキャリアづくりのwhyを考えていきたい。大学生の就活、どんな服装でしますか?

聴講者1
ずばりスーツ。

古屋
ありがとうございます。皆さん、リクルート・スーツでやりますよね。これは当たり前だと思われているじゃないですか。じゃあ、なぜ就活はリクルート・スーツなんですか。

聴講者2
文化と企業の戦略じゃないですか?

古屋
ありがとうございます。模範解答は、マナーとか経済的格差が見えないとか、そういうのが言って欲しかった回答なんですけど。答えは、大学生が「学ラン」を着なくなったからなんですね。リクルート・スーツは企業の戦略で伊勢丹が1977年に売り出したものです。それまでは、大学生は「学ラン」で就活してたんですが、「学ラン」を着なくなってきたんですよ。だから皆、大学の応援団とかの「学ラン」をシェアして就職活動を行っていたので「学ラン」がヨレヨレになってきて、ちょっとダサいみたな事案が発生したんですよね。そこにビジネスチャンスを感じた企業の戦略で、伊勢丹が1977年に売り出しました。だから、実際に40年ぐらい前にそういう発想をしたビジネスパーソンがいたっていうだけのことなんですよね。どんなマナーでも、何かすごい背景があるわけじゃないんです。

では、2つ目、企業から採用される時どうやって選ばれましたか。前に座っている方、採用される時に、どうやって選ばれました?

聴講者3
面接。

古屋
面接ですね。実は、面接という採用方法は世界的に見ると、全然スタンダードではないんですよね。では、なぜ日本は面接で採用するようになったか。基本は、高校生も大学生も一緒なんですけれど、一次面接、二次面接みたいな感じで就職活動をする。なぜ日本は面接の採用がスタンダードかといいますと、ものの本によれば、それは「卒業の前に採用するようになった」からなんですよね。どういうことかと言うと、昔は学業の成績で採用していたんですよ。ですが、1950年代に学生の争奪が激しくなった時、今みたいな学生の青田買いみたいな状況になって、結果として学校の成績が見えなくなったんですよね。3年生とか4年生とかで就職すると学校の成績が決まっていないので、それが見えなくなったために面接でその人物の人柄を見抜いて採用しようっていうふうに転換したんです。実はこれもすごい合理的な理由があるわけじゃないんです。

ここからが本題なんですけれど、高卒と大卒の初任給を知っていますか?これが、差があるんですよね。これなぜあるのかと思いますか。

聴講者4
大卒の人が働く業種が増えると、お金も増える。

古屋
職種が違うということですね。実は就職先の企業規模が大卒の方が大きいっていうのがあるんですけれど。もっとすごい具体的な理由があるんですね。

実は調べてみると、国が決めたからです。国が決めたのは1940年、会社経理令という勅令が出てですね。それで、学歴別の初任給を国が初めて法定化したんですね。それより昔は、学校別とか学部別とか個別で決まっていたんです。同じ早稲田大学の人でも、この人は広告効果があるから200円で採ろうとか、普通の人は40円とかそういう風に決まっていたんですね。

昭和15年10月15日、こういう文章、ちょっと薄れて見えなくなっているのですが。大卒も技術系と事務系に別れていて、初任給が分かれているんです。そこは専門学校みたいなところでもあったんですけれど、下の方に高等女学校とかですね、これを国が決めていたんですよ。こういうのを研究されている学者さんによると、これが戦後の日本的雇用システムの中で、学歴別の初任給の差というのに繋がっていったとされています。

当たり前を疑おうということで、最後にもう一つ。ここにいらっしゃる方は、かなりご存知の方も多いと思いますが、高校生は「一人一社制」というシステムで就職活動をしています。高校生が就職活動をする時に、一社しか応募できない、同時に一社しか選考ができない。良し悪しがある制度ではありますが、そういう話ではなくて。なぜ「一人一社制」なのかという質問です。

聴講者5
なぜですかね。

古屋
文科省の鈴木補佐がいらっしゃっているので、今の制度的な話はぜひお話しを伺いたいと思っています。非常に日本の高校生の就職っていうのは、世界的に稀に見るマッチングというか就職が上手くいっているというように言われていて。就職率自体は98.5%という驚異的な数字を出しているんですね。こんな国は日本しかないんですが、一方でハッシャダイさんが取り組まれているように、やはりそこにミスマッチも起こっているというのが現実です。入社した後、3年で4割が辞めているという数字があるので、「一人一社制」はそういう制度です。

なぜ、この制度が始まったかと言うと、かなり面白い理由があって、簡単に言うと「アメリカに勝つため」なんですよね。第2次世界大戦の総動員体制で、1941年12月に労務調整令というのが出ているんですけれど、国民が高卒の生徒全員を国民職業指導所、今でいう、ハローワークですね。そこで、しっかり就職できるようにしたんですよ。理由はシンプルで、ゼロ戦や銃とかを大量に作らないといけないわけじゃないですか、あれを作るために、最適なところに就職させて、すぐに離職しないように国がしたっていうことですね。だから、一社しか受けられないようにしたんですね。本によれば学校と国による、斡旋体制の確立が戦後の中学と高校に残っていて、2019年の現在も高校においてそのシステムが残っているという風に言われています。歴史をたどれば、本当にそれだけのことなんです。びっくりしますよね。だから、「当たり前のことをもっと疑った方がいい」と思うんですよね。私はそういう考えで活動をしています。