人生100年時代。Society5.0。日本人のキャリアづくりが大きく変わりつつあります。
これまで“新卒一括採用システム”によって支えられてきた若者のキャリアづくりも同様です。「2020年代の若者キャリア論 特別対談」として、今回は慶応義塾大学大学院教授、i専門職大学学長に就任予定の中村伊知哉先生と、スクール・トゥ・ワーク代表理事 古屋星斗の対談が実現しました。

前回 2020’sの若者キャリア論 中村伊知哉教授 × 古屋星斗 前編

ロールモデルの崩壊と「ゴールのないサッカー」

中村
学校が本当に提供できるのって、人だと思うんです。産業界の第一線の方々や成功や失敗しているような方々と、会ってコミュニケーションすることによって得られることの方が数倍大きいだろうと思っています。

それでいろいろ連携してくれる企業も集めたのですが、同時に客員教員を分厚くしようと思い、様々な方にお話ししたところ、すでに100名を超えました。開学までに200名行きたいと考えています。

そうすると世界で初めて、学生より教員が多い大学になると(笑)。世界一を狙おうと思っています。
 
古屋
場づくりというか、授業空間という意味では、大学というのは100%座学で終始できる学校群です。そういう意味では大学生はある種の「ゴールのないサッカー」をやっているんですよね。

そして、突然3年生くらいになるといきなりゴールが現れるのですけど、そのゴールが「サッカーゴールではなくバスケットゴール」なんですね。

学問の世界でゴールはないわけです。就職活動という形でしか出口がないわけですから。だから本当に座学で学んでいる内容というのが、リンクしづらい状況になっていて、同時にそうすると学問の方にモチベーションが行くはずがない。

大学院の時に専門学校の研究をしていてですね、専門学校の先生が授業などをするときに、「ここがテストに出るよ」というのが一般的な学校だとすると、専門学校は「そんなことやっているとお客さんお金くれないよ」と。

これで生徒の目の色が変わるのですね。この空間の構造づくりがそもそもの違いだと思っています。

専門職大学というのは、出口のサッカーゴールが最初から示されていて、もしかすると普通の大学のように座学はやるものの、座学の意味が全然違っているというような設計ができるのではないかと考えています。
 
中村
知識を授けるという点でいうと、ブロックチェーンが入ってきて、自分が学んだ履歴がこのようだとちゃんとできるようになったら、こういう大学のこういう講座を、履修をしましたという時代がそう遠くなく来るはずだと思っています。

それでは足りないプロフェッショナルな知識とか、それより経験とか体験だ、実際にみんなでやってみたこととか、企業の方々と作って売ってみたとかいうようなことを合わせての、その人たちのバックグラウンドになっていくと思うのですね。

それをうまくくみ上げていければなと思っています。
 
古屋
そのお話を聞いて思ったことがあります。パーソナル・ヘルス・レコードという健康データを、健康組合などから吸い出して集めて分析する仕組みが医療の世界では稼働しています。

個人の健康情報が全てわかる、つまりはどういう風邪にどういう薬が実際に効いたかどうか、この薬をやると患者は再受診してない、なども実はビックデータとしてわかってしまうのですね。

これの同じことがキャリアについてもいえるのではないかと。「パーソナル・キャリア・レコード」というのが、今後必要なのではないかと思っているのですね、必要なデータとして、先ほどおっしゃっていた履修履歴、大学だけではなく、高校ですとか、もしくはプライベートスクール、塾で何をやってきたのか、後はボーイスカウトや、部活なども含まれるかもしれませんが、そういう内容をすべて含めて、かつ企業の人事データも入れていくと、実はどういった経験、例えばボーイスカウトやっていた人が宇宙飛行士になりやすいとかですね、そういったことがわかってくるのですね。

日本は比較的トップダウンで教育内容などが決められている部分もあり、履修のデータベースなどが共通化しやすい環境にあります。大学や企業から始めれば、そういった仕組みが比較的簡単にできるのでないかなと思っているのですね。

こういった講義はこんな価値があるんだよとか、わかってきますし、多少年月は必要かもしれませんが。なぜそのようなことを考えているのかといいますと、若者のキャリアを考える上で非常に悩ましいのが、ロールモデルが崩壊しているということです。

昔であれば入った会社の先輩の背中を追いかければ、という非常に簡単な話だったのです。しかし、今は、転職するかもしれないですし、そもそもその会社が持つかどうかもわからない、買収されるかもしれないという世の中で、先輩を追いかける若者というのが存在しづらくなっている。

すると誰をモデルにしていいかわからないまま進んでいくのですが、その時にデータという形でアシストできないかなというのを感じているのですね。
 

TOKYOの力を活かす

 
古屋
さて、i専門職大学はICTでイノベーションを起こす学生に来てほしいとのことですが、学生の起業数は統計上は近年減っている傾向にあります。

東京にいると尖った起業家とか多いので、そういった人たちは都市部に集まっているのかな、というのが私の感触としてはありますが、地方群から東京というのは若者を吸い上げているので、私の一つの問題意識は都市部の若者と地方の若者のキャリアを混ぜ返していくこと。地方の若者にも情報とチャンスを与えたいなと思っています。
 
中村
東京が引っ張る時代は長く続くだろうと思っていまして、だからと言って東京の力をそぐ必要は全くないと思っているので、大学を生かしながら、それをどうやって地方でも使えるようにするのか、これが課題だと思っています。
 
古屋
まったく同意見です。グレータートーキョーは世界最大級の経済圏です。この力が日本の最後に残った武器だと思っておりまして、資源を集中して、イノベーション都市にしていくことによって、人が育つ。育った人たちが地方に戻って、しっかりとネットワークなりを還元すればいいと思っております。
 
中村
そうですね。私たちはかなり東京にこだわりました。東京23区に新しい大学を作ろうと。文科省や政府の地方重視の方針がありましたが、23区じゃないとこの大学は無理だと。

私も古屋さんと同じ意見で、特にICTは東京集中だから、そこでないと、教える側も集まらないし、出口も少ないので。
 
 

中村 伊知哉
i専門職大学 学長(就任予定)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授
1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。
1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。著書に『コンテンツと国家戦略~ソフトパワーと日本再興~』(角川EpuB選書)、『中村伊知哉の「新世紀ITビジネス進化論」』(ディスカヴァー携書)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、 共著)など。

古屋 星斗
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事
1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。