人生100年時代。Society5.0。日本人のキャリアづくりが大きく変わりつつあります。
これまで“新卒一括採用システム”によって支えられてきた若者のキャリアづくりも同様です。「2020年代の若者キャリア論 特別対談」として、今回はi専門職大学学長に就任予定の中村伊知哉先生と、スクール・トゥ・ワーク代表理事 古屋星斗の対談が実現しました。

イノベーションを起こす若者づくり

古屋(一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事、以下略):
本日はありがとうございます。私たちはこれからの時代の若者のキャリアについて様々な方と対話を進めております。先生は「i専門職大学」を開学されますね。既存の大学とは違う新しい教育機関ということで、非常に尖ったユニークな学校になりそうだなと感じていますが、どういった若者を受け入れ、どういった学生を育てていきたいですか?
 
中村伊知哉 教授(i専門職大学学長。以下敬称略):
i専門職大学では、ICTでイノベーションを起こす学生をつくる大学を作ろうとしています。それは既存の大学では無理だと思っていまして、1から企業と一緒に作る、企業と学ぶ、そういう大学にしていきたいと思っております。専門職大学は新しい教育機関です。

大学でもなく、専門学校でもなく、その間、というよりは“二つを足したような”イメージですね。大学のような一般の教養、学術、学問と、プロフェッショナルの専門学校の両方をやります。
 
古屋
それを4年間でやらないといけないわけですから。
 
中村
さらに必修でインターンシップを半年間ほど入れていくのですが、それだけじゃダメだと思っておりまして、学生たちが学ぶためのアライアンスを組む企業をそろえたいと思っております。これが思った以上にたくさんの企業の方たちが一緒にやろうと声をかけてくださって、100社を超えました。

さらに、全員起業というチャンスを与えたり、誰もが学生の間に一回はやってみて失敗する。目指すは「就職率0%」、既存の会社には誰もいかない大学を目指したいですね。
 
古屋
全員が起業家になると。
 
中村
はい、とは言っても今は就職したい人は多くなると思いますが、「チャレンジしたい」と思っている人に来てほしいと思っております。いっちょ暴れたいと思っている人がみんな来てくれるといいですね。
 
古屋
私も常々思っているところがございまして、日本は「ピラミッドが1つしかない社会」だと思っています。東京大学を頂点とするピラミッド、もしくはそれがハーバード大学に切り替わりつつありますが、ピラミッドはやはり一つなんですよね。

それが例えば、ビジネスを学ぶピラミッドですとか、ICT学習のピラミッドといった形でピラミッドがどんどんできていくと、学生の進路選択が多様になります。多様だということは、すなわちいろいろな才能の子たちが評価されるということですよね。先生の取り組みはピラミッドを新しく作り直せるきっかけになるのではないのかと感じました。
 
中村
僕も全く同じように壁を壊したいと思っています。典型図が霞が関で、東大のピラミッドが霞が関のピラミッドとあわせて世の中の頂点になっていたのが昔です。ただ最近は「霞が関行ったってしょうがないじゃん」という色が強くなってきています。それはそれで、いいことがあるだろうと思いますが、それに代わる山やピラミッドができているのかといえば、それがまだできていません。それを僕は作りたいと思っています。

ICTの世界ではアメリカが本場ですから、本当に優秀な人はアメリカをはじめとした海外に拠点を移してしまっているので、日本にも本場を作りたい。でも、1個そんな大学ができて単に学生を集めたところで、どうにもならないと思っています。それだけではなくて、興味がありますという企業が100社、1000社と増えていったら面白いのではないのかなと。教育の場というよりは挑戦する場という学校ですね。教育機関というよりも「挑戦する何かのプラットフォーム」です。


 
古屋
イノベーションのプラットフォームですね。スタンフォードのような。
 
中村
シリコンバレーの真ん中に立ってやっていたものですよね。日本版「墨田バレー」が欲しいと考えています。さらに全国のいろいろな場所に拠点を置きたいと考えています。それから大学という枠も取り払いたいと考えていて、「変な学校コミュニティ」も作りたいと思っているんです。

N高やAPUなどとも話をしていますが、いくつか尖った学校の何かにすごいやつがいて、変な活動をしているので単位が取れない状態でも、別の学校で単位はやるからと。そんな大きな仕組みを作れないかと考えています。
 
古屋
最近尖った高校生や大学生たちに話を聞くと、彼らが学校や企業に求めているのが本当に学歴やネームバリューだけじゃなくなっていると思うところがあります。求めているのは、場というか、空間自体というような気がしていて、得る空気もそうですし、得るネットワークもそうですし。彼らはすごくクレバーに、学校で何を得られるかということを考えている。

学歴という一種の「シグナル」は昔すごく有効で、官僚への就職に直結していた。ですが、いまはそういう社会ではない。本当に得るべきものはなんであるかと考えると、それは単なるシグナルの学歴ではなくて、例えば実際に起業できる経験ですとか、どういう人とのネットワークができるとか、そういったところを冷静にみているなと。優秀な子たちはそういったところを活用しつくしてやろうという、「貪欲さ」をすごく感じております。
 
中村
頼もしいですね。
 
古屋
はい、非常に頼もしいですね。
ただ一方で二極化も進んでいます。これもZ世代の研究とかでよく言われるのですが、「安定志向」と言われるんですね。例えば自分が最初に就職したこの会社にずっと努めたいですか?という質問に対してYESとこたえたのが新入社員は2018年に70%近くいるんです。

ですから、貪欲なグループとはまた、違う群がある。私の大きな問題意識は、その二つのグループがかなりの勢いで分離しつつあることにあります。私のミッションはその二つのグループを混ぜ合わせていくこと、解離していっても社会にとっていいことは一つもないのです。

「自分は挑戦している連中とは違うんだ」となると、足を引っ張りあうだけですから、SNSを見ていればわかりますが。なるべく混ぜ合わせて対話させていくというのが大切なのではと考えています。
 

中村 伊知哉
i専門職大学 学長(就任予定)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授
1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。
1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。著書に『コンテンツと国家戦略~ソフトパワーと日本再興~』(角川EpuB選書)、『中村伊知哉の「新世紀ITビジネス進化論」』(ディスカヴァー携書)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、 共著)など。

古屋 星斗
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事
1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。