2020年代の若者キャリアはどうなっていくのか。今回は、非大卒向けキャリア支援サービスの「サムライキャリア」などを運営する株式会社前人未到の牛島悟さんと対談します。

古屋(一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事、以下略):
2020年代のキャリアについて考えて、いろいろな人とお話する、そんな企画にご参加いただきありがとうございます。私はこの数年でキャリアの考え方が全然変わると思っていて、その中でも一番変わるのではないかと思っているのが「転職がなくなる」ことだと思っています。

どういうことかというと、100%A社から100%B社に移る転職はかなりリスクが高いと思うのです。それは企業にとっても、人にとっても言えること。なので、「コミットメントをシフト」していく方法がいいと思っています。

ベンチャーとかですと最初から人を入れるのが不安なので、夜の時間だけ業務委託をするなど、そういう形が増えてきています。起業するにあたっても、元々やっていた仕事を週2日の業務委託で残しつつ割合を減らしながら、徐々に移行していくのが増えていますよね。

いきなり起業、いきなり転職みたいなのがほぼ無くなっていくのではないかと思っています。結果として「こんなはずじゃなかった」という転職する個人も、そして採用する企業の「こんなはずでは」もなくなっていく。

牛島 悟(前人未到CEO。以下略):
面白いというか、僕がこうなるだろうなと思っているのが、僕は今まで、業務委託とか、副業推進のスタートアップの経営アドバイザーみたいなのをやっていたんですよ。

そこで気づいた話なのですが、一つは、レイヤーによって働き方が変わってくると思っています。業務委託と副業があって、業務委託はフリーランス的要素が強いですよね。会社に行って仕事を行うことが実は結構あるわけですが、その中で、リモートで作業できる人たちは、どちらかというとエンジニア職種なんです。

こういう職種の人たちの数は、マーケット全体で見たときはまだまだ小さい。ただ、個人側のニーズはめちゃくちゃ高いんですよね。自分の会社で正社員で100%コミットではなくて、一応仕事はやるけど土日は違うところで働きたいとか、逆に週3日しか来ないので他の会社と掛け持ちしたいとか、そういうのが本当は多いんですよね。それは僕も実感をしていて、圧倒的に多いんですよ。

古屋
個人側のニーズは私も痛感していますが、やはりそうなのですね。

牛島
ただ、その場合には企業側のネックが圧倒的に多くて、スタートアップでは使われ始めているものの、大企業がそこをまだ開いてくれないという問題点があるんです。

そして、その中でそういう働き方ができる人たちって、力がある人たちなんですね。極論を言うと、9割はエンジニアなんですよ。売り手市場で会社に来てくれなくても、仕事ができバリューが出せる人たちです。

逆に、営業職とかですと、非常に難しいんですよ。つまり「そこにいないと」バリューが出せないのです。なので、先ほどの「コミットメントがシフトする」話は、まず職種という観点から広がっていくだろうと思っていて、まずはエンジニアですが、ゆくゆくは人事、広報、マーケターとどんどん広がっていくだろうと思います。

ただ、もちろん、スキルのレベルという観点も必要で、やはりまずはビジネスレベルがすごく高い人たちになり、この人たちから広がっていくだろうと思います。このハイレイヤーではその動きはどんどん広がると思っています。

古屋
そういった動きのなかで、「働く」のシチュエーションが完全に変わっていますよね。Slack(注:スラック。全世界で利用者数が増えているチームコミュニケーション・ツール)で仕事をすると、例えば普通の会社ですと机の配置とかで課長とか部長とか分かるじゃないですか。

「窓際でペーペーを見下ろす位置にいる人が偉いんだろう」とか「いつも早く帰る方は家庭の事情であまり仕事はできないんだろう」とか、オフィスでは自明であったある種の「了解」がなくなっていく。

そういう点も含めて、2020年代のキャリアづくりは、今とはえらい違いになるのではないかと思います。ただ、牛島さんのお話でもあったとおり、スキルのない層をどうするか。

18歳・22歳で仕事を始めるのが当たり前の時代から、新人で採用された方26歳で初職、そういう人たちも増えてくると思いますし、今までそういう人たちは非正規に行くしかなかったんですけど、これからの時代は働く場があるのではないのかなと思っています。

牛島
そうですね。問題はいわゆる未経験層ですよね。オリンピックとかの景気の変動にもよると思いますが、今、スクール・トゥ・ワークさんとか、ハッシャダイ(非大卒限定の有料職業紹介会社)さんとか、キャリア教育のプレイヤーが入ってこないと、たぶん根本が変わらないと思います。

あとは成人年齢が変わった時にどう動くかという部分だと思います。大前提いきなりは変わらないと思いますが。なので、民間からそこに入っていって、少しずつ、進展、浸透していくと、2020年、僕はもう少しかかるのかなと思っています。

2020年と2030年の間で行くのか、そこの感覚は難しいですね。なので、若年層のところは、まずはあまり大きく変わらないと思います。僕の見立てで変わるとしたら、若者個人側の視野が広がり、民間の僕らやスクール・トゥ・ワークさんのような団体が入っていって、「選択肢を知る」という体験は変わることができる。他方、若者市場の大きな流動化、仕事の仕方の変化は起きないのではないのかなと思っています。

 
株式会社前人未到 代表取締役社長 牛島悟
福岡出身、新卒で大手メーカーに入社。その後スタートアップ、メガベンチャーにてTOPセールス。AI系ベンチャー企業上場を牽引後、起業。

 
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク
代表理事 古屋星斗
1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。

 

2020’sの若者キャリア論シリーズ

2020’sの若者キャリア論 牛島悟(前人未到CEO) × 古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)①
2020’sの若者キャリア論 牛島悟(前人未到CEO) × 古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)②
2020’sの若者キャリア論 牛島悟(前人未到CEO) × 古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)③
2020’sの若者キャリア論 牛島悟(前人未到CEO) × 古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)④