ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その5)

2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

前回 ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その4)

古屋
今日もたくさんの方がいらっしゃっていますが、高校を卒業して今活躍している、苦労をしながら仕事をしている若い人と話しをすると、好奇心が旺盛なんですよね。とりあえず何かをやってみて、向いていなかったら辞めればいいみたいな。そういうパラレルワーカー、インデペンデントワーカーみたいなかっこいい言い方がされていますが、彼らはそういう感覚ですね。感触を受けていていると思うんですよね。

ある種、何も捨てるものが無いのかもしれません。考えが変に凝り固まっていない。

勝山
大学生ってその学部によって、経済を学んできたからこういう仕事に就かないといけないとか、そういうのがあったりするのでしょうか。

山田
そんなにはないかとは思っているものの、学歴のバイアスとかはあるかと思っています。せっかく東大出たんだから、せっかく早稲田出たんだからみたいな話は割とあるかと思っています。

私の前職が古屋さんと同じ会社だったんですが、それこそ東大卒や早稲田卒がいますが、入ってやることはテレアポや飛び込み営業も普通にあります。だいたい就職のタイミングで面接官に言われることは、この会社に入ればすごいことができるよとか、企業のコア人材になれるよみたいなことを言われて、入社して3日で400件テレアポをやって、これ絶対に繋がってないでしょみたいなこととかは割とあるかなとは思っています。

勝山
そう考えると僕の場合は、大学を出ていないので、基本的なスタンスで言うと面白そうだったら何でもやりますよというスタンスでした。こういうのをやったら成長できる、それだったらやりますよっていうスタンスなんですけど。ヤンキーインターンの子たちもそうなんですよね。

久しぶりに面談をしたんですけれど、半年後とかどうしたいって言った時に、就職したいですと。どういう企業に就職したいのと聞いたら、別に名前がすごい有名な企業や給料がめちゃめちゃ良い企業に行きたいわけではないんですと言っていました。まだやりたいことは正直分からないんですが、5年後10年後に、自分がしっかりと成長できるような会社に行きたいですと言ってました。とりあえずやってみないと分からないんですって言う子がすごく多いんですよね。そうなった時にフラットな考えで、成長だけを追い求めている子たちって結構多いんじゃないかなっていうのは感じますね。

古屋
僕も本業で3月に50人ぐらい、20代の社会人にインタビューしたんですが、振り返ってみるとやっぱり、最初の進路選択の時に、親との関係で大企業に行かざるを得なかったとか、商社に行かざるを得なかったとか、そういうのって振り返ってみるとすごく後悔に繋がっているんですよね。

そのような外形じゃなくて、これを自分がやりたかったみたいな事を追求できているかどうかというファクターは、実は今後の世の中においてかなり重要になってきているんじゃないかなという気がすごくしています。今の話は、僕の中ではすごく腑に落ちました。

企業における活動、人材育成や強み弱みみたいな話をしたんですけれど、もうちょっと思考のレイヤーを上げて、これからどうなっていくかって話をちょっとしたいなと思っています。

今、インダストリー4.0とか、ソサエティー5.0みたいな話がありますが、高校生が就職する先というのは、今8割以上の方が自分の住んでいる県に就職しているんですね。就いている職業としては、40%以上が製造業という訳です。大卒は10%弱ですので、何でこんなに差があるのかよく分からないんですね。

産業構造は変化しているわけですから、情報通信業にもっと行っていいと思うんですけれど、情報通信業に行く高卒の方って1%程度なんですよね。大卒は8%から10%います。高卒人材ってもっと選択を幅広くできるんじゃないかなと僕は思っているというのが、このテーマ4なんです。まさにそのドンピシャの事を考えている米山さんがいるので、ちょっと話を聞いてみたいと思います。

米山
まず、簡単に言うと雇用って両極化ってしているんですね。まさに、低スキル中スキル高スキルと便宜的に置いていて、アメリカなんかではより顕著なんですけど、中スキルと言われるところがかなり人数として減っている。

中スキルで一番減っているところは何なのかと言うと製造業なんですよね。低スキルと高スキルのところが増えているというのが現状です。

勝山さんも工場でも働かれたとおっしゃられてましたけれど、やっぱり高卒の方で、工場に行かれる方はある程度良いラインだと思うんですよね。でもそこってめちゃくちゃ減りますよっていうのが起こるということです。

なので、じゃあどうしたらよいのかというと、この産業構造の変化っていうところとリンクしているんです。先ほど言ったように増えているところは何なのかと言うと、高スキルの方で言うと、技術職、専門職や経営者みたいなところで、これは便宜的に分けているところです。低スキルの方で言うと、医療サービスとか含めた接客のところですね。というのが、ここが増えているところです。

じゃあその産業構造全体として、経産省の立場としてというところも含めてですが、じゃあどうしたいのかと言うと、特にアメリカとの比較で言うと、この低スキルと高スキルのところが伸びています。これあとで見ていただくようになるんですけれど、日本は、高スキルの伸びが弱いんですね。つまり、低スキルの方は正直に言うと同じように伸びていたりするんです。中スキルの製造とかの減りは、アメリカの方が減っていたりするし、事務職のところが違ったりとか細かいところはあるんですが、高スキルの方の伸びが日本は弱い。

そこも伸びの貢献し得るところとしての高卒人材の可能性というのはものすごい。

古屋君が言っていましたが、やっぱりどうしてもまだまだ一人一社制とかもあってかもしれませんが工場なんかがけっこう良いところですよね。という中でいろいろマッチングしていくっていうところで、学校だとかでも紹介されていましたが、どうしてもそこに閉じている世界がまだまだあるんじゃないかと思っています。技術職や専門職とかに繋がっていくようなパスっていうのが、なかなか見えてないんじゃないかと思っています。

ここは大卒も含めて、ここを厚くしていくというのが非常に重要な中で、高卒のところの伸びというのは意義あるんじゃないかというのが、私個人としてもかなり考えているところです。

古屋
米山さんは個人的なテーマとして非大卒人材のキャリアを考えられないかと思っているんですよね。メインは確か高専と言われていると思うんですけれど、その辺ちょっと今どんな検討されているのか教えていただけませんか。

米山
検討というところまで正直まだいっていなんですが、まさに今目を付けているところとしてそういうところは高卒なんかと似ているところがあると思っています。まず、高専のデータで言うと、こういう人たちって私大文系卒の人と比べると、年収も高いです。且つ、学びへの満足度も高いです。こういう人たちって、社会ですごく注目されているかとか、或いはすごいプレイアップされているかというと、これはなかなかされていないんじゃないかというのがあります。ここにどう光を当てていくのかなと考えています。

今までだと、普通って言い方はあれですけれど、メインと言うと大卒ですよね、みたいなある種の前提がある中で、それを崩すとしたらまさに高専卒の方はある意味で分かりやすいところで、実は技術系としての活躍度というのが非常に質が高いところがあり、そのあたりなんかも含めて考えていかなきゃなと考えています。

産業でもけっこうニーズが高まっているっていうのも正直なところで。高専卒なんかは本当にもう直の技術を持っていますってところなので、非常に高まっているので。そこを上手くどう支援できるかなっていうのは、私個人としては非常に大きなテーマとして考えていますね。

古屋
いろんな観点からお話しをしていただきましたが、新しい時代を迎えるわけですが、皆さんは、どうなっていくべきだと思っているのかなというのをお一人ひとりに聞いていきたいなと思っております。

山田
高卒がどうとかというところは、専門家なわけではないのであんまりよく分かんないんですが、学歴とかはあんまり関係が無いかなと思っていて、昔の産業構造であったり、情報格差みたいなところで高卒と大卒というのは一つの評価指標であったりだとか、フィルタリングのところだったのかなと思っています。そもそも世の中的に高卒がどうとか大卒がどうとかという議論が巻き起こらない、別にそこじゃないよね、みたいになっても良いんじゃないかなと思っています。

人事をやっていて思うところでいうと、人事は採用っていう文脈だけでいうと、基本的にはその会社にカルチャーフィットしていて、ビジョン共感していて、かつ活躍し得る人材を少しでも多く、目標人数を採用していくというのが基本ミッションだと捉えると、別に何かそんなに学歴とかつかと関係が無いというか、高卒の優秀な子だっているし、東大卒の出来が悪い子だっているしというように思います。もっと言うと、灘高卒や開成高校卒の、大学行く気も無いんだよね、みたいな子はけっこう良いし。そういう、もうちょっと多様性というか、そもそも概念がそこじゃないみたいなところになっていけば良いんじゃないかなとは思っています。

少なくとも人事をやっていて、そこがフィルタリングにはなり得ないかなと思っているので、きちんと世の中的に定着してくれば良いんじゃないかなと思っています。

2020’sの若者キャリア論(その4) 佐々木満秀(人と未来グループ 代表取締役)×古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク 代表理事)

2020年代の若者キャリアはどうなっていくのか。今回は、高校新卒求人サイト「ジョブドラフト」を運営する株式会社ジンジブをグループ会社に持つ株式会社人と未来グループの佐々木満秀さんと対談します。

前回 2020’sの若者キャリア論(その3) 佐々木満秀(人と未来グループ 代表取締役)×古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク 代表理事)

佐々木
学校に通っているうちは価値観を作るのは先生か親しかおらず、会社に入ってからは上司から会社の価値観を伝えていきます。客観的に人生観、職業観などを育てるための大学を作りたいんですが、古屋さんのような客観的な立場で、いろんな職業観を研究している方に、お話していただきたいです。固定観念や今までの社会の流れを単純に考えるだけじゃなくて、挑戦しないといけない社会になることは間違いありません。今の選択が成功か失敗か決まるのは今ではなく、最終的には自分の人生の終着点までに決まっていくものです。今は、「失敗の人生」と思わずに、大手企業、ブラック企業に入ることには否定しませんが、賢い方は賢いなりに挑戦をして、バカやからと諦めずに頑張っていって欲しいです。

勉強する機会をしっかり与えてあげて。僕もマネージャをやっていた時に、高卒である自分の知識差を痛感したことがありました。24歳で営業所長やってたんですが、今もバカなんですけど、その時はもっとバカだったんですよ。

自分で通信大学を申し込みました。経営者になりたかったので、「経営者になるために無知はあかんな」と。産能短期大学の経営学部という通信講座があって、100万くらいかかるんですが、日中は仕事、夜は勉強と続けました。マネジメント、心理学、営業、組織論、リーダーシップ、財務含めて、3年間くらい自分でやって、ようやく人並みになれたかなというのが27歳くらいでした。経営者と話ができるレベルになりました。

起業した時は、賢いとは思ってないですが人並みに経営のことはわかってるなと自信を持てたんです。あとは営業活動だけだったので。

困ったことはたくさんありましたけど、そういうことをもっとしたいなと思っています。

今、大学で目的もなく奨学金を半分くらい借りてきて、4年間で何を学んだかというのが残っておらず、大学時代の経験しか残っていなくてという方は、18歳くらいから昼間は稼ぎながら、勉強したい人は夜間で勉強してやっていくと、25歳くらいには家庭をもてる経済力がつきます。少子高齢化改善にも繋がります。自分一人でいたい人は生きていったらいいし、結婚したい人は、できるという自信が持てるようになってから、と。

そういうのができたらいいなというのが、日本の問題も含めて、全体的な僕の感覚なんです。

古屋
大学で学べることがないという問題意識が学校にもあります。専門職大学という来年からできる学校なので、2校しかないんですが、そのうちのひとつの専門職大学で、非常勤の客員講師をやることになっています。そこは大学なので昼間にやる学校ですが、非常に面白いことを言ってます。株式会社を大学の中に作って、学生に投資をする。起業したら単位をやるというしくみにすると言っています。イメージとしては、法人登記したら2単位、IPOしたら卒業という。おそらく文科省がノーと言うので無理なんですが(笑)、そういう思想なんです。

非常に面白いと思ったので客員の話を受けたんです。実務家教員を5割入れて、生徒数が学年200人で教員数300人と逆転してます。200人くらい実務家教員が入ってるので、実務を教えられる重厚な教育体制になっています。そういう大学がちらほら出てきつつあります。

しかし、そこはいわゆる4年制大学で、昼間に子どもが行く、稼いでいない人が行く大学なので、さらにもう一歩踏み込んで、18歳で挑戦的な進路を選んだ方々が、自分に足りないものを痛感したうえで通うような学校が、社会に必要だと思います。今は放送大学、産能大学さんしかないんですが。

若い高卒就職をした方で、大学には行きたくないが、大学院には行きたいという人がいます。なぜかと聞くと大学は遊ぶところだけど大学院は学ぶところだからと。

そういうコンセプトでそういう高卒の方が入れるような学校があったら、面白いんじゃないかなと。学位はいらなくて。

佐々木
僕が親やったら、それやったら行けと言います。

古屋
一言で言えば、現場で働いていていらっしゃる方の大学に対するイメージが悪すぎるんです。

佐々木
本気で勉強したいやつは、やらないといけないですが、今の大学入学のやり方で普通にいくというのは、賛成できません。

古屋
私も教育社会学を学ぶために大学院まで通っているので、自分のことを棚に上げて言っていますが(笑)。

佐々木
僕の考え方が良いか悪いかは別にして、結局は行動に起こさなければならないんです。百の理屈より一の行動です。結果を作らなければ世の中の悪になってしまいます。

これは経営者としても心掛けていることですが、会社の価値観や理想を掲げ、これで赤字を作り続けるのは悪だと思ってます。

今日意見を伺わせていただいて、良い味方というか同志のような感じがして嬉しいですが、本当に学校を作らなければならないと思っています。本当にこの社会を変えるようなしくみを、行動と習慣を作らないといけない。命懸けてもいいと思っています。

企業側は、企業弱者と言われるような中小企業はこれから採用で困るんじゃないか な。99.7%は中小企業ですので。

中小企業の中にも、もっと良い技術やサービスや商品を生み出す企業はいっぱいあるのですが、人材の問題が一番課題なんです。日本の民間企業でも人材支援をしている会社がありますが、それらの企業のターゲットは全部金持ち企業じゃないですか。

古屋
そうです、全部金持ちです。単価が高いので。

佐々木
僕は地方、中小企業などに高卒人材を本当に届けるのなら、馬鹿だけれど可能性があるやつらを、もっと地域や中小企業に送り出さないといけない。これが課題だったんです。

うちも20年培ってきた資産があるので。実はこう見えて僕の自慢は、「やるというものは絶対にやる」ことです。帝国データバンクってあるじゃないですか。あれで日本一の中小企業に絶対なるということだったんです。

一応日本一にはなったんです。7年前にスコアが75になり、純資産がたくさんあったんです。自己資本比率が85%までいき、無借金でずっとやってました。超優良企業だったんです。絶対に潰れないと言われました。

古屋
潰れようがないでしょうね。

佐々木
3年間売り上げ0円でも潰れないような感覚です。

そうなったのをどうしようかな、と考えたのが7年くらい前です。社会のためにもっとやりたいということをだいぶ本気で考え出して、社員のためも本当に考え出して、僕が100%オーナーの会社なので。

古屋
勝ち逃げですね。

佐々木
そう、勝ち逃げ。僕は中小企業で、二極化のどちらかというと負け組と言っていいのか分かりませんが、こちら側の人や企業や地域の支援ができるような人材ビジネスをやらなくてはいけないと思っていたところに高卒人材があったのです。

彼らが挑戦できたり、希望が持てたり、企業が人にもっとモテるビジネスになるためにはということで、この事業を始めました。これを成功させて学校をつくったり、そのための課題は収益性なので、それが今の悩みなんです。ビジョンの達成のためにはお金はやはりいるので。お金の重要性はやはり感じるじゃないですか。

古屋
そうですね、やはり持続可能にするためには。

佐々木
そうです。それがやはり民間企業の最も大きな課題なので。

古屋
マーケットを作らなくてはいけないという、フロントランナーの悩みですよね。本当に最初は儲からないという話は、この業界だけではなくて人材業界全体でよく聞きます。マーケットを作らないといけないですよね。

100億円のマーケットに飛び込んでシェアを20%取るという世界ではないじゃないですか。

佐々木
そうなんです。それがパイオニアの使命です。

古屋
私もマーケット拡大に少し貢献できるかと。

佐々木
本当によろしくお願いします。学校を作れた暁には、講師でぜひよろしくお願いします。

古屋
ぜひ貢献させていただきたいです。

佐々木
こういう方がいるのが、僕の救いなんです。

古屋
私もいろいろな方から言われますが、こういう領域に興味を持ったのはなぜかと来歴的に聞かれることがあります。自分自身でも、なぜなのか良くわからなくなっていますが(笑)、やはり翻ってみると、自分は岐阜県の片田舎の出身で、小学校の同級生たちと自分との生活環境の違い、今後に対しての話の合わなさとか、全然違ってしまっているんです。子どもの年齢が10歳違うとか。

子どもの頃はやはりそんなことは考えもしていませんでした。どこでこんなに違ってしまったのかと思ってます。

佐々木
僕もまさにそうです。家が貧乏で、大学どころか高校すら行くか行かないか議論されていたので、中卒で働くかどうかみたいな。

古屋
先ほどおっしゃったように、この問題を議論する人間は全員大卒なんですよね。1つの世界でしか過ごしてきていないような方々です。大学生のときに就活すらしていないかもしれません。こういう方と話をしていかないといけないなと。

2020’sの若者キャリア論(その3) 佐々木満秀(人と未来グループ代表取締役)×古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)

2020年代の若者キャリアはどうなっていくのか。今回は、高校新卒求人サイト「ジョブドラフト」を運営する株式会社ジンジブをグループ会社に持つ株式会社人と未来グループの佐々木満秀さんと対談します。

前回 2020’sの若者キャリア論(その2) 佐々木満秀(人と未来グループ代表取締役)×古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)

 

古屋
高校生の方で、一度正社員の職に就いて辞めた後に非正規社員になっているんです。全てが悪いとは言いませんが、先ほど、修羅場を積むべきだ、若いうちはブラック企業で頑張るべきとお話がありましたが、中には安易な気持ちで、楽な方に楽な方にと、仕事を選んでしまっています。

私は専門が20代の若い人のキャリアの研究で、大卒・非大卒を問わずいろんな方にインタビューしたうえで研究していますが、メディアの取材を受けた時に、高卒の話になるとキャリアが不安定だというところに行きがちです。

例えば、ご存知だと思うんですが、愛知県は数年前に歴史上まれにみる若者不足となったことがありまして、大型商業施設を作った時に300人くらいアルバイトが必要だったんですが、全然採れなくて、時給が急激に高騰していたそうです。理由は当時製造業の景気が良すぎるので、傘下の部品企業含めみんな高校生を採用してるんです。その中で期間工が多いんです。期間工は稼げるんです。単発の半年契約で200万円以上稼げます。

佐々木
僕もやってましたから。僕は別のメーカーでしたが(笑)。

古屋
釈迦に説法になりますが、そういう仕事があるのでみんな期間工になってしまうんですが、それはずっと続けられるわけではないんです。

若者の力をどこに活かすか、という点では大学全入の時代で、大学に若者をどんどん吸い上げないといけないという大学側の意見があるじゃないですか。大学側も経営なので。

就職とゼロサムの状態になっているんですよね。120万人いる高校生を大学か企業のどちらに送り込むかという。

佐々木
そういうことです。

奨学金を借りて、大学にわざわざ行って、遊ぶだけで終わる4年間に気づかせようと思ってるんです、僕は。

僕の子どもも大学へは行っていないんです。大学はお金があれば行けますし、国公立なら行ってもいいかと思っていました。本気で勉強してその道に行きたいんだったら行け、中途半端には行くなと言っていたんです。別に奨学金を借りなくても、金は出してやるから。でも、本気でいく意味を持たないんだったら行くな、働けと。

少子化問題も含めて日本全体の大きな課題には、人口減少が全ての根底にありますので、どちらかというと大学全入制時代の施策も反対派なんです。学校を作ろうと思ってるんです。これから本当の意味で必要とされるスキル、AIとか、そういう軸をドーンと展開して、昼間は働きながら、職業観を育てながら、大学行くのは夜でもいい。30代40代になった時に家庭も持って、職業としての未来もあって、という社会を作らないと日本は人口減少が改善されません。今のまま行ってしまうと、少子高齢化は改善されないですよ。この社会の中では。

だから、高卒を推したいんです。

人の生き方は多様化しているので、結婚するかどうかは何が良い悪いではないんですが、晩婚化と少子高齢化が進む根底の要因は、未来に対する希望や期待だと思います。賢くなればなるほどそこを考え、考えれば考えるほど結婚しにくくなります。

古屋
私は、本業で若い人の研究をしてますが、就活前後の女性の話をすると、育休を採りやすい会社に就職したいというのが多いです。これが大きな間違いじゃないかと思っています。

女性はリアルに考えているのはそうだと思います。慶応や上智のような優秀な大学の女子学生さんが、一般職で就職していくのは、そういうリアル思考なんです。育休取った後働きやすいですし。

僕は逆だと思っていて、女性ほどスキルを一定の時期までに身に着けることが、その後の活躍、生き生きと働けるかどうかに結びついているんじゃないかと。

大企業だと、育休を取った後に仕事の質が変わってしまいます。「マミートラック」という問題です。今の大企業はこうなってしまう仕事しか提供できないので。だったら、スキル、ネットワーク、ノウハウ、を自分の中に身に着けていけば、育休を取らなくても、辞めても、いつでもリターンできるわけです。

今、女性のマーケットが広がってますね。大企業に入ってジョブローテーションで回されると、何の専門性も身につかないですね。女性こそ大企業でもいいんですが、ベンチャーとか、そういう経験をさせられるような、仕事にコミットできるような仕事が必要だと思っています。

それは、もはや現代では男性にも言えると思います。ライフイベントのたびに人生が変わってらっしゃるとのお話でしたが。男性もそういうライフイベントが増えていくと思います。そういう時にその後生きていくために、自分に何が身につくかを考えて就職する必要があると思います。今の学生さんが重視しているのがワークライフバランスとか、労働時間とかです。みんな労働時間をみてます。今はリクナビにも大きな会社は残業時間が書いてあるので。僕の感覚では月30時間を超えると、学生さんは多いと感じてます。月30時間を下回るとまあ良い、と。ちゃんちゃらおかしいわけですよ。

こういうと古臭いと言われるかもしれませんが、僕も前職が国家的なブラック企業だったので、当時残業時間は150時間とかあったんです。最後の一番緩かった時で平均120時間くらいでした。確かにきつかったのですが、今となってはそれは自分のためになったと思っています。あまりこういうことを言うと炎上しそうですけど(笑)。社会人として一皮むけるための最低努力時間という議論がありますが、一定の時期に一定程度必要だと思います。

ですが今はそれを嫌がる方が多いのは、人生100年時代を生きるうえで、大きなリスクだと思います。生き延びて行けないのではないかと。

若い方は二極化していて、安定志向の方もいれば、学生起業して失敗してという挑戦をしていきたいという人もたくさんいます。特に今は、世間的に最優秀とされる大学の学生さんも含め、ベンチャー企業に就職することも当たり前になってきていて、非常に面白い社会になってきていると思います。

このまま10年20年経つと、この差は幾何級数的に増えていく。

ネットワークはネットワーク生むので、ノウハウはノウハウを生みますし、今の20代が40歳、45歳になった時に、違う就業社会になってしまっているのではないかと私は懸念しています。

一つのポイントは18歳の職業選択だと思っています。今の教育システムで努力して、最も勝ち残った人間は、例としてはつまんないですが、全国テストで1位になりましたという人がいたとします。こういう人が18歳で選ぶ選択肢は一つしかないんです。東京大学進学なんです。東京大学以外の例えば獣医学部が強いような大学に行きたいと言っても、親と教師、友人、社会から羽交い絞めにして止められます。ましてやダンプの運転手になりたいなどと言おうものなら親に殴られます。

今の社会は、優秀な人ほど選択肢が狭まるんです。中堅どころの大学というか、誰でも入れるような大学に行くような人の方が、選択肢は広いんです。

努力した人ほど選択肢が広がっていくのが普通の在り方なのではないかと思います。

例えば、18歳で面白い人間がでてきて、御社のようなサービスを見ながら就職し、4年後にその会社で責任を持つ立場になったうえで、例えば夜、大学や専門学校に通う。なんとなく通うのではなくて、自分の責任ある立場なったからこそマネジメントを学びたいから行くんだ、と。AI学びたいから行くとか。そういったモチベーションがあったときに初めて、学びというものが起こると思います。

元非大卒人材の僕

学生及び早活人材に対するキャリア教育事業等を行う一般社団法人スクール・トゥ・ワークでは、2019年1月22日から3月31日までに、主に中学校卒・高等学校卒・専門学校卒・高等専門学校卒・短期大学卒や大学中退などの人材と定義される「非大卒人材」に代わる新名称の募集をしておりました。

応募総数166個の中から、当団体で事前審査を行い、7月13日に開催したイベント「ハッシャダイ × スクール・トゥ・ワーク~18歳の進路選択~」vol.1において、学校の先生などを中心に参加者の方々にご投票いただいた結果、新名称が「早活人材」(そうかつじんざい)となりました。

自己紹介が遅くなりましたが、僕は、1994年生まれ、森川 剛(もりかわごう)です。最終学歴は高卒。冒頭で紹介した「早活人材」になります。

今回は、元「非大卒人材」であり、名称変更して、新たに現在「早活人材」となった”当事者”である僕の視点から少しお話をさせていただきます。

職業選択の自由が無く、辞退が許されない非大卒人材

僕は現在、20代に特化した転職エージェントでキャリアアドバイザーとして日々、20代の求職者と面談をしています。

そんな僕も最終学歴は高卒であり、いわゆる「非大卒人材」でした。

周りからは驚かれるのですが、2017年まではお笑い芸人としても活動をしておりました。

おそらくあまり芸人っぽくない振る舞いだから驚かれるのかもしれません。

もっと芸人時代のことも書きたい気持ちもあるのですが、今回は僕の高校就活時代の話を書いていきます。

僕は高校では学年で下から2番目という成績で高校最後のテストを終えました。

お世辞にも勉強ができる学生ではなかったので、今思い返しても、卒業後の進路も大学進学という文字は浮かんでいなかったと思います。

当時からお笑い芸人への憧れは持っていたものの、相方候補がいた訳でも無く、自分がボケなのかツッコミかも分かっておらず「芸人になる」という選択肢はありませんでした。

消去法の結果、就職という選択肢が残りました。

就職のことなどまるで分かっていなかった僕ですが、幸い自分よりも先に就職活動を行なっている友達がいたため、あれこれ尋ねて、進路相談室までたどり着くことができました。

本来であれば、ここで求人を紹介してもらい急いで面接を受けるのですが、僕は高校から斡旋される求人は受けず、自分で求人サイトから応募をしてIT企業の営業職へ内定を得ました。

斡旋された求人を受けなかった理由は、「決められた求人しか受けられない」からです。

ご存知の方は少ないかもしれませんが、高校生の就職活動はルールが決められております。

都道府県によって若干変わりますが、僕の高校では成績表の評定が良い生徒から順番に求人が渡されます。

学年で下から2番目の成績の僕に紹介される求人は、いわゆる不人気の企業となります。

勉強はできないが、誰よりもわがままだった僕を満たす求人はそこになく、結果として自分で求人サイトから探しました(笑)。

僕のように先生の制止を振り切って行動できる人はそれで良いかもしれませんが、多くの高校生は、業界や市場のことなど分からず、先生の言う通りに卒業後の進路を決めていきます。

特に驚きなのが、内定獲得後に辞退ができないということです。

正確には、「辞退という選択肢を知らない」のです。

高校生の就職活動において、「内定=入社確定」なのです。正直にいうと、生徒たちに明確な志望動機などがあるとは思えません。

その現れなのか、大卒の新卒3年以内の離職率が30%に対して、高卒の新卒3年以内の離職率は40%となっています。

これが現状です。

非大卒人材から早活人材へ

令和になり、僕のような主に大卒以外のキャリアの人々の名称が「非大卒人材」から「早活人材」に変わりました。

しかし、名称が変わっただけでは意味がないと思っています。

最後に僕が考える「早活人材」のキャリアについて書かせていただきます。

①キャリアについて考えるには下地から

先ほど高校生の就職活動には制限があり、好きな求人を受けることができないと書きました。しかし、この求人の制限を解除したからといって、離職率に変化があるとは思えません。

また、急に職業選択の自由を与えても、そもそも業界や市場について知らないので、どこへ行くと自分の思うキャリアを歩めるのか、自分の考えるキャリアは市場感とズレていないかなどというジャッジができないと思います。

そこで、まずは「キャリアについて向き合う、考える時間を増やす」ことがファースト・ステップだと思います。僕はこれを「My Life思考」と呼んでいます。

学校によっては、高校3年生からキャリアについて考える授業などを設けていると聞いたことがありますが、卒業後の進路について高校3年生になっていきなり考えるというのは無理があると思っています。

そこで、高校1年生の時から「キャリア教育」をカリキュラムに追加すべきだと思っています。

「My Life思考」は他の教科と違って、答えがない勉強になるので、だからこそ1年生から向き合う、考えることに慣れる必要があると思います。

また、先生だけがその授業を担当するのではなく、民間企業の社会人を講師に招いたり、キャリアコンサルタントを招いたりして、新たな価値提供の場として設けるのも大いに良いと思います。

②キャリアについて下地をつけた上で職業選択の自由に

「My Life思考」を通じて、下地ができたところで、高校就活のルールを変えるべきだと思っています。

・受けられる求人数の改善
・夏休みなど長期インターンの実施
・企業の人事、先生以外の大人によるコーチング

18歳の生徒一人にキャリア選択を押し付けるのではなく、周りの大人が最大限サポートをして納得感を持って彼らが次のキャリアを歩めるようにしたいと思います。

「非大卒人材」から「早活人材」へ。名称の変更とともに、いい方向に変わっていけるように頑張ります。

 

2020’sの若者キャリア論(その2) 佐々木満秀(人と未来グループ代表取締役)×古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)

2020年代の若者キャリアはどうなっていくのか。今回は、高校新卒求人サイト「ジョブドラフト」を運営する株式会社ジンジブをグループ会社に持つ株式会社人と未来グループの佐々木満秀さんと対談します。

前回 2020’sの若者キャリア論(その1) 佐々木満秀(人と未来グループ代表取締役)×古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)

 

古屋
私が高校生の就職について一番問題だと思っているのは、ルールの決め方なんです。毎回議事録も作らずに、高校生の就活ルールについて密室で議論してるんですよ。

ご丁寧にも入り口には「この会議は非公開です」と書いてあり、理由は「社会に対する影響が大き過ぎる内容なので、いろんな人が来ると困るから。」という。さすがにその理由はないんじゃないかと思いますよね。

話を戻しますが、大卒と高卒の就職の最大の違いは、大学生はいろんな会社を見ることで、自分の中で仕事とは何だろうと考える時間があるかないかです。最近はロングインターンも流行ってますが、大学生でも意識の高い一部の学生以外はほとんど遊んでいるだけで、職業観は一切ないと思います。

そのような大学生が就活を経ると、多少ですが、仕事は何のためにするのかを考えるようになります。就活では「軸」と言う言葉がよく使われますが、一応は納得して就職していきます。高校生にはこれすらありません。

先ほどおっしゃったように、失敗は自分に跳ね返ってきますが、自分のキャリアの中で、「若い頃の失敗は成功するためにある」と思うんですよね。ほとんど“成功”ですよね、若いころ失敗したということは。

まさに社長がそうだったと思うのですが、失敗したことで人間が太くなっていくと思います。就職活動もそうした機会ですが、高校生にはそれが無いように思います。職業観がないまま就職はするが、早期離職し、辞めた後にはどうするのというような状態に陥っています。

オープンな就職が広まっていくことで、自分の社会での役割はなんだろうとか、仕事は食うため以外に意味があるのか、家族ができたらどうしようなどいろいろ考えて、仕事に対しての思いが変わると思います。

佐々木
情報を開示してもらい、ルールを決めている人たちだけではなくて、当事者である高校生や企業側が考えるキッカケになったらいいなと思います。
日本の制度・ルール全体を決める人たちの大半が大卒なので。

古屋
おっしゃるとおり。それが最大の問題ですね。

佐々木
以前、政治家の方にご意見をお伺いしたのですが、「あ、そうなの?そんなふうになっているの?」と言われました。

古屋
政治家の方でもそのような認識なんですね。

佐々木
当然賢い方なので、「その仕組みで高校生が守られてるんではないか?」と言われて、「そうです。守られているんです。」と答えました。守られてるからいい側面もたくさんあるんですが、情報が止められないこの社会において、このルールはどうでしょうと。

昔みたいにネット社会になってないときには、良き側面もあったわけですが、大きなミスマッチの要因はそこです。これから大学は全入制になっていきますが、それでも高卒で働く方が20%はいるので、この方たちにもっとチャンスを与えていかないといけないなと思います。今、外国人の採用ばかりに目を向けてる場合じゃないでしょうと。

古屋
全くそのとおりです。

佐々木
これからの日本は、「バカ」をやっていかないと変わらないと思っています。
労働人口は減少してマーケットも縮小しますし、全体的に何か「バカ」なことをやっていかないと思います。「バカ」という言い方も変なんですが、今までの正解・不正解の正解ばかりを選択していくと、イノベーションは起きません。

みんなはイノベーションを起こさなければならないと言われるのですが、イノベーションはある意味「バカ」だと思うので、これをやれるのを高卒に期待しているのが、僕の正直な意見です。

大学生はどうしても守りに入ります。「俺は早稲田までいってるのに…」と早稲田の学生が言ってるんです。
例えば、とあるジンジブという会社に就職するということなどはできないんです。親にも絶対反対されますし。

イノベーションを起こそうと思ったら、新たなベンチャーをどんどん起こさなければならないし、新たなサービスや商品を見出さないといけないわけです。僕らみたいな人間が高卒就職の民間斡旋をやろうとしているのも、僕らが「バカ」だからだと思ってるんです。賢い人はぜったいやらない(笑)。

古屋
そうですね。

佐々木
やれないんですよね。収支も見えないし、マーケットも見えないので。
だから、賢い人たちはやれないんです。

経済が勝手に成長する時代は守りも必要ですが、もはや、縮小が確実に見えてますので、それなら「バカ」なやつがいっぱい「バカ」なことをしだして、そこで失敗してもいいし、挑戦していかないといけません。

うちの理念は、「挑戦と創造」なんですが、こういう会社がたくさんでてきたら、マーケットとの逆行期待が生まれると思うんです。今、国民は将来に対する期待はほぼ無いので。

古屋
若い人は特にそうですよね。6割は希望がないと言っています。

佐々木
私は違うと思うんです。「社会に希望がない」んじゃない。希望や期待がない社会で、挑戦するしかない、創造するしかない、そのためにイノベーションを起こせと有識者や賢い方は言われるのですが、「じゃあ、自分がやれよ」と思いますね。だけど、これができていないんです。

イノベーションが起こせないといえば製造業の雇用。これまでの日本では製造大国日本、というのが神話になってきていたし、製造という領域自体が日本の価値でした。今は完全に逆転されていますよね。製造からデータの領域になってしまって、これからはITの領域でどう勝つかという時代に入っているのに、目先の雇用だけを考えたときに製造領域の神話を手離せないんでしょうね。

古屋
就職先でいうと、現在でも高校生の4割は製造に就職しています。
あまりにもいびつですよね。大学生は1割なんですよ。

佐々木
大学生は企業の将来を考えられますからね。

古屋
そうなんです。この差をどう説明するかなんです。
1970年と同じ古いやり方をやってるから、同じマッチング先になっているだけなんです。

佐々木
それを幸せだと思っているからですよね。

古屋
本当は進路はもっと他にあるはずなんです。
情報通信とかサービス業など、いろいろあるはずなんですが、そこに学校が入ってガッチリやって90%近い生徒が学校経由で就職活動するんで、結果、製造業に流れているという流れです。

おっしゃるとおり、今の日本は外国人を入れるほど逼迫してるわけです。外国人を入れるという決断をしたわけです。しかし日本の中にも、もっと活躍できる人はいるんじゃないかと思います。
そういう活躍できる高校生が4割も製造業でいいのかと思いました。

自分でいろいろな求人を見たいという生徒にとっては、そこを見ることによって「自分の世界はこんなに広いんだ」ということに気づくきっかけになるんです。

佐々木
それがほんとに大事ですね。

 

2020’sの若者キャリア論(その1) 佐々木満秀(人と未来グループ代表取締役)×古屋星斗(スクール・トゥ・ワーク代表理事)

2020年代の若者キャリアはどうなっていくのか。今回は、高校新卒求人サイト「ジョブドラフト」を運営する株式会社ジンジブをグループ会社に持つ株式会社人と未来グループの佐々木満秀さんと対談します。

 

古屋:(一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事、以下略)
今日の対談は「2020’sのキャリア論」ということで、佐々木さんから色々とお伺いしたいと思います。

まず、はじめに、佐々木さんはご自身も高卒で就職なさったご経歴を持ち、その後もかなり面白いキャリアを歩まれていると聞いたのですが、お話を聞かせていただけますか?

佐々木:(株式会社人と未来グループ代表取締役、以下略)
当然、職種もいろんなものを経験しました。特に若いころは超短気で、すぐに上司と喧嘩して会社を辞めるタイプでした。

それで23歳まで自分でトラックを買って運転し、運送業をやっていました。
トラックは働けば働くほどお金がもらえるんです。大阪では東京までを1回往復したら10万円もらえるんです。

その時はプライベートでも悩むこともあり、このままいったら将来どうしようかなと考えた時期です。矢沢永吉世代だったんで、将来「成り上がりたい」というのが自分の座右の銘でした。ほぼ寝てなかったんですが、「これ、今やからできるなー」と感じていました。

成り上がりたいのに、このままだと成り下がるよなと思って、成り上がるためにどうしたらいいか考えて、転職活動を始めたんです。

古屋
23歳から24歳くらいの頃ですか。

佐々木
23歳です。
今の大卒1年目の時期です。その時に転職活動し始めたんですが、面接で、20数社連続で落とされました。生意気やったり、風貌もあるんですが、当時犯罪者みたいな顔つきをしてましたから。それで、ほぼ落とされました。営業が一番成り上がれると思ったので営業ばかりを受けたんですが。

古屋
実力主義ですからね。

佐々木
そうです。月収が完全インセンティブのようなところを、たくさん受けました。たぶん古屋さんの時代ではなくなっていたと思うのですが、教材販売とか、怪しい会社がいっぱいあったんです。

古屋
小学生の頃はありましたが、今はないと思います。

佐々木
今はなくなったんですか。昔は小学生が使う図鑑全集みたいなものを売ってて、あれ実は、1セット売ったら100万円くらいするんです。そこも落とされる。
結局そのとき受かったのが不動産の営業でした。それも2か月で喧嘩して辞めるんですが(笑)。

求人広告の営業に就いたときもあり、やっぱ営業って面白いなと思いました。学歴も関係ないし、僕みたいに素行も悪いわ、見た目も悪いような奴が、結果で評価されるというのが面白くて。

その会社では26歳で常務までやらせていただいたんです。その会社の倒産や、父親の病気も重なったことがきっかけになり、21年前に最初の会社である株式会社ピーアンドエフを創業し、ある程度ですがお金持ちになりました。

その後、7年前に色々と考える時期があり、これからの時代において社会に対して何かしたいと思うようになりました。歳いくとそう考えるようになってくるじゃないですか。

ビジネス的に社会性の強いものをやらないといけないと思い、自社でも本当に社員のため、社会のためになっているかということを考えました。当然ビジネスですから収益になることをやらなければならないですし、色々と考えた結果、高卒採用の支援をやりたかったんです。

始めたら始めたで、高卒就職の業界の闇の深さも分かってきて、課題も見えてきました。
僕は、ジンジブという会社の代表でもあるんですが、今は、「高卒採用に命かけたろ!」と考えています。

古屋
先日も、某新聞のコラムに佐々木さんと私のコラムが一緒に掲載されましたね。
とても素晴らしいなと思いました。

ただ、私のコメントが書かれている欄の上には、学校関係者の就活のあり方の見直しへの反対意見も載っていましたね(笑)。

佐々木
新しいことをはじめると良く思わない人も必ずできます。

古屋
高卒就職については法的なルールはほとんど存在しない、しかし高卒就職の世界だけで適用される特殊なルールが存在する、という厄介な状態ですよね。つまり「行政や学校の中だけのルール」が「ルール」になっているんです。「これはルールだ」とビジネスサイドに言ってくるのは完全にお門違い。

元行政官としても正直、多くのケースで公権力側の越権行為が起きていると感じているんですが、それを言い出せないほど、今のやり方を変えたくない人や既得権を持ってしまってる人が多い状況ですので、私も微力ながら一歩一歩この活動を進めて行けないかと思っております。

学校の昔からいた先生方。彼らが見ている幸せな世界があるわけですよね。卒業するときに「先生ありがとう」と言われたり、良い会社に就職できましたと親御さんも言ってくれて、それで卒業していくと言う話をたくさん聞いている方々ですので。そういう世界は確かにあります。

佐々木
ありますね。

古屋
当団体に所属している青年は、もともと長野の商業高校の野球部でした。
素行が良かったということもあり、一人一社制の中で、大企業を紹介されて就職しているんです。業界ではだれでも知っているようなBtoB企業ですよ。

その時は、親御さんも含めて良かったと思っていたのかもしれませんが、その後、職場の現状に失望して、なんと半年で辞めたんです。

高校の先生方が見ている世界は、幸せなエンドロールが流れてるところまでなんです。エンドロールが流れ切った後に起こっていることはご存じないと、もっと当事者の話を聞かれた方がいいんじゃないかということを、日々伝えています。

さて、まさに、佐々木社長は、30年前の当事者のお一人だと思いますが、そういう方の話を聞かずに、違う世界の方に行かれた方なんだろうなと思って、今の話を伺っていました。

佐々木
決定的な違いはゴールですよね。
僕の視点では、ゴールは人生なので、人生全般を考えたファーストキャリアでなければならないと思っています。しかし、内定して就職させることがゴールになってしまっている人が多い。先ほどおっしゃったように、卒業後に何が起こってるかなど、現在表面化されていない課題があるわけです。

古屋
全くその通りです。

佐々木
確かに、内定というゴールは数値で表した場合には、98%とかの内定が取れてるので、いい数字が出ているんです。そこはいいと思うんです。
僕もそうですし、今の高校生たちもそうですが、意思決定の問題が大きく関わっていると思ったんです。

高校生は職業観が全くなく、その中で意思決定をしているように見えるけど、今の規制の中での意思決定は、情報がない中でなされており、先生や保護者の後押しがあっての意思決定です。「俺が選んだ」と思っていればいいんですが。

どんな業種で、どんな仕事で、どんなキャリアステージがあって、自分の人生でどういうことをやりたくて、ということに繋がらないんです。

そのゴールには、大手に就職できるという一部の高校生の利点もあります。でも結局、ほとんどが辞めるんです。
ファーストステップで大手に入ることが良いか悪いかもあります。

僕は自分の子どもの教育を考えたら、ベンチャーやブラックに行ってもいいと思っているんです。僕もブラック企業を経験してますし、大手は大手の良さもあるんですが、30代や40代になった時に、どういう仕事経験があって、職業観が生まれるかは大事ですからね。自分で意思決定して安定志向の人もいますし、親の方針で「超ブラック企業にいけ」という僕のような人もいるし、それは自分で選べばいいと思うんです。

離職した時に、失敗を自分の経験に活かせるかどうかというのがあります。高校生は、学校から推薦されて、この仕事は合わなかった、人間関係よくなかった、で辞めるんですが、失敗だとは思わないんです。それを失敗と認識し自己責任で「次は絶対失敗せんとこ」と思わなければならない。

僕は、仕事もいっぱい失敗してるんですが、親に決められたことは一切ないんです。学校の先生にも決められなかったので。素行が悪かったから紹介受けなかっただけなんですが(笑)。だからこそ、自分が考えて、失敗を失敗の経験値として、そこから社会に出て、自分で選んでいくんです。

今の高校就活のあり方で、大学生との決定的な違いは、失敗が活きない。大学生は自分で会社をいっぱい見て、最終的には「俺はベンチャー行く」と言う人もいれば、「大手に行きたい」という人もいる。入ってみて、合わないとか離職するのは同じですが、その後が違うと感じてます。

今のルールの中で、高校生には職業観が無いので、先生からの助言は大事だと思います。今のルールの良さもあるのですが、ただ、あまりにも子ども扱いをされると、高校生が18歳成人になるにあたり、情報過多な時代なのに規制ばかりするような、求人票一枚で3社見るのが精一杯の、高校生の就活では、これはいかんやろと思っています。

古屋
実際に見に行くとビックリします。それには2つの意味があって、一つには「この時代に紙?」や「この時代にこの情報しかないの?」。もう一つは、「この時代に」ということ自体を知らないことです。高校で就職した約17万人は、そもそも自分たちがまわりから見て結構ありえない状況にある、ということを知らないです。これが大きな問題だと思います。知らないので問題にできないんです。

ここをどうにかできないかなと思っています。

佐々木
まずは、実態を知ってほしいですね。