「高校就職改革“実行”計画」を提言する

求められる実行計画

高校生の就職者は毎年20万人前後。大学卒は約45万人であり、高校卒の約20万人は決して少ない人数ではないことがわかる。企業の採用意欲も高く、2021年卒で2.08倍の求人倍率(厚生労働省調査)であり、これは大学卒の1.53倍と比較して高い(リクルートワークス研究所調査)。特に地方のものづくりの現場においては中核的な役割を果たしている。

このように「高校生の就職」は決して特殊な問題ではない。日本の多くの若者の問題である。言うまでもなく少子化が加速する今後の日本において、「高校生の就職」は若者が活躍する社会を作ろうとした際に避けては通れない論点である。

「高校生の就職」と言えば、生徒のキャリア形成や早期の離職・ミスマッチとの関係で問題点が指摘されている「1人1社制」が注目される[1]。しかし議論すべきポイントは「1人1社制」だけではない。学校でのキャリア教育から、就職活動、卒業後まで検討すべき論点は広範に存在する。しかし、こうした全体的な仕組みを急速に改革することは困難が多いと考えられることから、今回は新しい仕組みに移行していくための”ステップ”を提案する。

 

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「準備」×「就職プロセス」

具体的には高校生の就職について「4つの段階」を提案する。こう考える背景には、高校卒就職者のキャリア状況を分析した際に、「就職プロセス」とその「準備の環境」によってその後のキャリア形成が大きく異なることが明らかであるためである[2]。このため、まずは就職プロセスを大きく変更せずとも、就職活動の事前の準備を充実させることによって、卒後のキャリア形成に一定程度ポジティブな影響を与えられることを活用したステップを提案する。

もちろん、高校卒後の状況のデータから見た場合に、就職プロセスと事前の準備環境の双方の仕組みを改善することが望ましいと考えられる。ただ、施策を現実的に実施する上でステップは重要となる。このため、本稿の提案は、現状の仕組みから、まず「事前の準備環境」を整え、その後に「就職プロセス」を改善していくというフローとなる。

また、就職プロセスについても2つの段階を設けて現状の制度からの円滑な移行を想定する。

 

提案:4つの段階

こうした前提により提起するのは以下の4段階である。

①ショートタームの就職指導から、学校推薦・1人1社選考によって就職する仕組み
②ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人1社選考によって就職する仕組み
③ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人複数社選考によって就職する仕組み
④ロングタームの就職準備から、高校生の「希望応募」もしくはセーフティネットとしての学校推薦によって就職する仕組み

上記の4つについて現状は、卒業学年の1学期からの就職指導と学校・ハローワーク斡旋を組み合わせた、①が支配的である[3]。こうした現状認識を押さえつつ、それぞれについて詳しく見ていきたい。

 

段階① 現状の仕組み

ショートタームの就職指導から、学校推薦・1人1社選考によって就職

高校生の就職には、行政・経済団体・学校の関係者によって申し合わせられたルールが存在している。選考開始日などスケジュールから、求人票・提出書類の様式、選考方法など多岐にわたる。その中のひとつとして、選考開始から一定期間は同時に一社しか面接を受けることができないという「1人1社制」がある。この「1人1社制」という就職プロセスを規制するルールに加えて、7月に企業の求人票が出てくるタイミングに合わせて高校3年生の1学期から就職に備えた指導を行うという「ショートタームの就職指導」と合わせて現状の仕組みを構成している。実際に高校3年生まで進路が決まっていなかったとする高校卒就職者は57.2%[4]であり、就職指導が短期集中型となっている・ならざるを得ない状況を浮き彫りにする。

こうした仕組みは生徒を正規社員として就職させるという目標に際しては一定程度有効に機能していたと考えられる。また、学校推薦によって生徒が1社だけ受けられる選考先を学校が決定する方式は、生徒の勉学や部活動といった学校活動の努力を促す効果もあった。就職活動直前の数か月間にキャリアを考える機会を集中させることで、高校の授業計画や学校スケジュールにも乗りやすくなるほか、教職員の時間を有効に活用することができる。

特に、年間100万人前後の高校生が就職していった1980年代には一層有効だったかもしれない。進路指導部には地元の就職を知り尽くした進路指導主事を中核とする、複数の就職担当教員による重厚な体制が存在し、多数の就職希望の生徒たちを効率的に送り出すことができた。しかし、現在では「進路多様校」が増え、数名の就職希望者に対して「進学指導の傍らで就職指導をしている」学校も多い。特に総合型選抜やAO入試など推薦入試を中心に形態・時期が多様化しており、9月に開始される高校生の就職と推薦入試の時期が重複するという声もあった。こうした高校では十分な就職指導を行うことは難しい。結果として特に、進路多様校が多い普通科高校は専門高校と比較してミスマッチが大きくなっている[5]。なお、高校卒就職者を最も多く輩出しているのは普通科高校である(2019年卒で6万3841人)。

元々、1980年代から90年代にかけて現在よりも割合にして倍以上、数にして5倍以上という大量の高校生を短期間で企業にマッチングさせてきたこの①の仕組みは、当事者たちからの「もっとこうして欲しかった」といった消極的な振り返りに直面[6]するなど歴史的使命を終えつつある。

 

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段階② 「助走つき1人1社制」

ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人1社選考によって就職

若者のキャリア形成の第一歩目を支える仕組みに変わっていくために、高校生の就職の仕組みの段階②のポイントは、現行の就職プロセスを維持しつつ「就職に向けた準備を長くする」ことである。現状では多くの高校生が卒業学年に進路を決定し、就職指導を受けている。多くの高校のスケジュールにおいても、数回ある卒業生講話等の機会を除いては本格的な就職活動・キャリア形成の支援が開始されるのは卒業学年に進級して以降であろう。

就職活動の段階で情報量が十分でなかった場合には、早期離職率が上昇しミスマッチが拡大するという結果もある[7]。企業の情報が「不十分だった」生徒では、初職の企業を「0点」と評価する割合は実に47.9%と半数近く、早期離職率も高いことがわかる。高校1・2年から中長期的に十分な情報を生徒に提供する仕組みを構築することで、初期のミスマッチの低減に繋げることが可能である。これが、就職活動の「助走」を長くするということだ。

高校卒就職者が高校時代に受講したキャリア教育に関わるプログラムは多様である[8]。キャリア教育として多種多様なプログラムが実施されているが、就職する高校生が多く実施しているのが、企業見学・職場見学で33.1%と3人に1人に経験があった。職業体験・インターンシップも27.8%、ほか社会人の話を聞く授業や卒業生の話を聞く授業も2割程度の経験者がいることがわかる。全体としては6割弱の生徒にいずれかのプログラムを受けた経験があった。ただし、プログラムを複数種受けたことがある生徒となるとぐっと少数派となり、2種類では全体の14.8%、3種類では8.2%、4種類では9.0%であった。こうした現在までの状況を踏まえて、まずはすでに行われていることが多いプログラムの組み合わせを継続的に実施するところから始めてはどうだろうか。

具体的に、とある都道府県においてモデル事業として検討されている取組が参考となるだろう。対象校においては、学外の支援機関のサポートを通年で受ける形で、進路ガイダンスや業種別の説明会、企業で働く若手社会人との交流、自身のキャリア選択に関するアウトプットまでを高校2年生の一年間を通じて受けていく。希望者には長期休暇を活用して1~2週間程度のインターンシッププログラムも提供される。内容自体も生徒の関心や理解に合わせてローカライズされる。こうした取組によって事前準備を十分にして、高校3年生での就職活動を迎えようとしている。モデル事業は探求学習等の時間を用い、年間の授業スケジュールと抵触せず、また外部機関を活用するため無理なく実施することができる。

プログラム一つひとつには何ら新しいところはない。しかし高校2年生の通年をかけて実施することで、プログラムを組み合わせ、生徒に合わせてチューンアップしていくことができるようになる。こうした取組は就職活動のプロセスを見直すことなく、しかし確実に生徒の早期離職を減らし、その後のキャリア形成を支援できる大きな効果が期待できる仕組みである。

 

段階③ 「1人X社制」

ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人複数社選考によって就職

段階③のポイントは、学校推薦による複数社選考によって就職する仕組みを構築することにある。

現状、秋田県、和歌山県と沖縄県を除く全ての都道府県において、就職活動の最初に生徒が応募できる企業数は1社に限定されている。しかし、就職活動において複数社比較する選考を実施した生徒には良い効果がもたらされていることが判明している。現在「いきいきと働いているか」について、複数社応募をした高校卒就職者の方が仕事に対してポジティブな状況となっていることがわかる。また、初職企業への評価点でも「0点」が15.3%まで低下(全体では24.1%)するなど、多面的に複数社応募が効果を挙げていることがわかる[9]

ただし、高校生の就職活動に生徒の希望に応じた無制限の応募を全面的に導入することは困難である。大学生と比較すると就職活動が可能な期間はどうしても短くならざるをえないために、特定の企業に生徒の応募が集中した場合に、内定を全く得られなかった生徒が再度別の企業の選考に臨むための余剰期間が短いためである。

こうした困難性を踏まえつつも就職活動における複数比較の効能との両立を考え、漸進主義的な方向性として、「学校推薦による複数社選考」の仕組みを提案する。これは、学校が一人の生徒に対して同時に複数の推薦を出すものである。指定校求人[10]による企業の採用数は「学校が推薦できる生徒の枠」ではない。また、生徒の調査書を提出する際に「推薦の理由」を教員が記載するが、具体的にその企業でないといけない理由が記載されるケースは稀である。

例えば、こう考えてみよう。1名の採用枠に3名の生徒を推薦した場合には、2名の生徒が内定を得られないこととなるが、同時にこの3名の生徒をほかの1名の採用枠の2社に推薦した場合はどうだろうか。3つの企業で3名の指定校求人枠があり、そこに3名の生徒が応募をすることとなることから、結果的には3名全員が内定を獲得することができる。採用企業もこれまでは1名しか選考できずその生徒を採用する判断しか許されていなかったところ、この仕組みであれば自社にフィットするかどうかの観点で、「選考」を行うことができる。当然ながら、生徒の内定辞退等が発生することになるが、外部機関と伴走して生徒を支援すれば大きな問題になるとは考えづらい。企業側の採用にかかる時間は増加すると予想されるが、入社後早々に退職してしまうことと比べればその手間はいかほどだろうか。せいぜい面接の回数が増え、面接後に内定を出す生徒を検討する手間と、入社後に研修やOJTを実施し何度か給料を支払ったのちにその若手が退職してしまった場合の手間とは比べるまでもないだろう。

学校と企業の採用「実績」関係を媒介にした関係性は、指定校求人による学校推薦が残るためにこの仕組みでも一定程度維持できるし、他方で生徒の意思を尊重した企業選びも一定程度可能となる。「学校推薦による複数社選考」による就職プロセスと、ロングタームの就職準備を組み合わせた仕組みが段階③である。

厚生労働省・文部科学省の高等学校就職問題検討会議が2020年に出した報告書「高等学校卒業者の就職慣行の在り方等について」でも、複数社に応募できる仕組みづくりも含めて各都道府県に検討するよう提言されており、複数の都道府県において複数社選考が検討されている状況にある。「1人X社制」と呼ばれるような方向の改革は今後続くだろう。ただし、段階②で提案した通り、ロングタームの就職準備と組み合わせる必要があることは忘れてはならない。

 

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段階④ 「希望応募制」

ロングタームの就職準備から、高校生の「希望応募」をセーフティネットとしての学校推薦が支える仕組み

初職のミスマッチを可能な限り無くし、その後も企業で長く活躍するための第一歩を支える仕組みとなるための理想像として、段階④を提案する。段階④のポイントは高校生の希望による応募制を基軸として学校推薦がセーフティネットとなり支える点にある。

段階②、段階③では解決できない大きな問題は、「学校推薦」が就職活動の根幹をなすことである。学校推薦の前提として当然に「校内選考」が存在し、生徒はどれだけキャリアパスを考え、そのために行きたい企業、働きたい職業を見定めたとしても、学校の成績や出欠席状況、部活での活動などから点数化される「校内選考」を通過しなければその企業に応募書類を出すことすらできない。当事者からの意見には、「校内選考制度を辞めて欲しかった。行きたい場所、受けたい場所があっても選考漏れすると受けられず将来のビジョンが崩れてしまう」(商業科卒、回答時38歳、女性)という意見があがっている[11]。高校生たちの主体的なキャリア形成と、どうバランスをとっていくのかは看過できないポイントである。

段階②、段階③を経て、十分な就職準備と複数社を比べて選ぶ就職活動が定着した後、実現が可能となる「希望応募制」は、生徒のキャリア形成上の希望により応募する企業を選ぶことを周りが支える仕組みを中核とし、また、希望する生徒には学校が推薦を与えてサポートする仕組みとなる。学校推薦の仕組みは、内定を得られない可能性がある生徒や、キャリア形成上志望度が高い企業の指定校求人があった場合に用いる[12]。主としてセーフティネットとしての機能である。

高校卒就職においては求人倍率が安定的に全体で1倍を大きく超えて推移していることからもわかるように、就職希望の生徒に対して求人数が大きく上回っている。このことから、セーフティネットとして就職先が一定の時期までに決まらなかった生徒に対しての学校推薦は機能する可能性が高い。特に、学校推薦で8割以上が就職先決定している現状を踏まえれば現状学校推薦で斡旋できる求人数は十二分に存在していることになる。もしこのセーフティネットとしての学校推薦が機能しないのであれば、そもそも求人数が就職希望の生徒に対して足りていないことを意味するため、段階①においても学校推薦が与えられる生徒数が限定され、公平性の観点から問題のある仕組みであることになる[13]。つまり、段階①が成立するのであれば段階④が可能である前提は整っている。

学校推薦をセーフティネットとしつつ、生徒のキャリア形成上の希望を実現するために、生徒が校内の事前選考なく応募するのが「希望応募制」である。ただし、段階③から段階④への移行にあたっては不可欠な新しい要素がいくつか存在する。

第一に、事前の準備から就職活動までを俯瞰したキャリアコンサルテーション機能である。十分な準備を活かした就職活動とするために、進路指導部に常駐する外部支援職員といった形態に留まらず、キャリア教育・就職支援全体を高校1・2年生から継続的にサポートする職員が必要となる。就職活動に関する業務のタスクアウトも含め、就職支援に係る業務の整理と外部人材の活用を本格的に検討しなくてはならない。

第二に、就職活動や準備において生徒が行う範囲と学校が行う範囲の整理が必要となる。例えば、進学においては全てのオープンキャンパスを高校教員が管理するわけではなく、模試にも同行しないし、また受験も後日結果の報告を聞くだけのことがほとんどである。願書等書類送付も生徒が各自で行うことが多い。同じ高校生の進路選択に関してこうしたことを考えると、就職指導では当たり前のように考えられている、生徒の就職活動・準備を教員の手元で管理し保護しなくてはならない、という考え方自体は本当に当たり前だろうか。外部の支援を借りながら、生徒ができることの範囲を広げていくことは可能ではないだろうか。なお、成人年齢の18歳への引き下げにより、高校卒業時点で必ず成人となっているため、全ての生徒は労働契約締結主体となる。

第三に、地域によって求人数に偏りがあるため、「希望応募」が難しい地域が出てくる可能性があり、応募機会を平準化する仕組みが必要となる。地元の求人を中核としながらも、求人を広く検索できる仕組みが必要となる。ハローワークのデータベース(「高卒就職情報WEB提供サービス」)への生徒からのアクセスを容易にする[14]ほか、外形的な文字情報のみとなっている企業情報を充実したり、また、データベースを開放し民間企業による活用を促すなどの方策が必要となるだろう。

 

就職活動を大切なスタート地点に

いまだ多くの若者が経験している「高校生の就職」の問題を放置したままで、若者が本当に活躍する社会はつくることはできない。本稿では、その具体的な解決の道筋を4つの段階に分けて提案した。

若者が本格的に減少していく日本社会だからこそ、多くの大人が若者一人ひとりに目をかけ手をかけることができる。そんな当たり前の発想が実行に移されたとき、「高校生の就職」は学校生活最後のイベントではなく、長い職業生活の大切で忘れられないスタート地点となるだろう。

 

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執筆: 古屋 星斗 Shoto Furuya
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事

 

[1] 以下の記事等が存在する。
日経新聞,2021年3月20日,「高校就活「1人1社」の弊害」,2021年4月29日閲覧
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70174580Z10C21A3EA1000/
ダイヤモンドオンライン,2019年9月5日,「高校生就活の知られざる闇ルール、1人1社制・内定辞退できない…」,2021年4月29日閲覧
https://diamond.jp/articles/-/213850

[2] リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」P.15

[3] 例えば、文部科学省,学校基本調査によれば学校・ハローワークの斡旋率は8割を超えており、かつ就職活動で「1社だけ選考」だった者は少なくとも6割前後存在している(リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」)。

[4] リクルートワークス研究所,2020,高校卒就職当事者に関する定量調査より筆者作成

[5] リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」P.16

[6] リクルートワークス研究所,2021,「『高校卒就職当事者に関する定量調査』における、就職活動でもっと学校にしてほしかったことに関する自由記述回答の一覧」を参照。無回答等を除く、1419名分の当事者の意見を掲載している

[7] リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」P.12

[8] 以下のキャリア教育受講率に係るデータはすべて、リクルートワークス研究所,2020, 「高校卒就職当事者に関する定量調査」より筆者作成

[9] 詳細については、追加分析レポート「高校就職での複数応募はキャリアにどのような影響を与えるのか」を参照
https://www.works-i.com/project/koukousotsu/viewpoint/detail005.html

[10] 高校生の採用に特有の制度で、採用企業が指定した高校にのみ求人票を開示する

[11] リクルートワークス研究所,2021,「『高校卒就職当事者に関する定量調査』における、就職活動でもっと学校にしてほしかったことに関する自由記述回答の一覧」 他にも非常に多様な当事者の声が掲載されている

[12] このため、推薦の可否は生徒のキャリア形成との親和性や職業体験参加時の状況、社員との交流時の状況など事前の準備期間における内容が勘案すべき項目となり、現在のような成績・出欠席による評価のみとはならない

[13] 事実として、リーマンショック直後に高校・ハローワークの斡旋率は通常8割前後のところ6割台まで急激に低下し、景気後退局面における段階①の仕組みの脆弱性が露呈する結果となっている

[14] 現状は生徒個々人にIDとパスワードは付与されておらず、教員に付与されている

「仕事して学びなおして。世界と自分が広がった」

「学び直し」が流行していますが、それは「人生で、本格的に学ぶ時期が若いうちに限定されない」という社会が到来したことも意味しています。今回は、高校卒後に就職した会社で職業人として活躍した後に、大学院生となった平田朗子さん(以降敬称略)にお話を伺いました。(聞き手:代表理事 古屋)

説明がありません

古屋
本日はよろしくお願いいたします。まずご略歴を教えてください。

平田
東京都の普通科高校の国分寺高校を卒業しました。卒後リクルート社に入社して、情報システム部、営業推進部などの内勤のあと、住宅情報の営業を10年ほどしていました。その後、新規事業企画を4年しまして、現在勤務するリクルートスタッフィングに出向、転籍。営業部門で営業マネージャーをしたのち、営業部長をしていました。その後現在は、スマートワーク推進室で従業員及び派遣社員のテレワーク促進等の働き方改革の仕事をしています。

古屋
ありがとうございます。きらびやかなご経歴で何を聞こうか迷ってしまいますが、本日はまず、高校卒時の就職活動について伺いたいです。

平田
高校では、就職する人が他におらず、自分だけ就職でした。このためほとんど就職のサポートはなかったです。

作家やジャーナリストになりたかったので早稲田大学の“一文”に行きたいと思っていました。ただ、実家が自営業で経営をしていたのですが、あまりうまくいっておらず金銭的に厳しかったんです。ですから、高校に入ったころからバイトをして学費を稼いでいました。

大学に行くとなると、普通にバイトするだけだと学費が足りなかったので、このため一度就職してからお金をためて進学しようと思いまして。また、やりたい仕事が作家やジャーナリストだったので社会人経験を積むのもためになるかもしれない、とも思っていましたね。

古屋
就職活動について、学校のサポートはいかがでしたか?

平田
先生はあまり就職についてご存知なかったです。大学の「赤本」がある部屋に、学校に来た就職案内があったので自分で見ていました。その中で探したんですが、今でも覚えているのが渋谷区役所の求人で、初任給が10万円。月給だけ見れば当時していたバイト代と変わりませんでした。年間120万ではちょっと暮らせないな、と思ったことを覚えています。

そこで月給が高い順番に並べて見ていくと、14.7万円でバスガイド。13.2万円でリクルート。これが1位、2位でした。ただ、遠いところに行くと大学に通ったりしづらくなるかなと思いバスガイドは候補からはずれました。結局、入社後に仕事が楽しくて大学に行く気持ちも忘れてしまうのですが。

また、リクルート社の就職案内は、高校卒で働いている社員の写真とエピソードが載っていてどんな風に働くのかとかどんな人が働いているのかなど、イメージしやすかったことも決め手になりました。ほかの企業の案内は条件などの文字中心でイメージがわかないものばかりでした。そのパンフレットを見るまでは、当時リクルート社のことは全く知りませんでした。

就職しようと思ったのが秋でギリギリだったんですが、申し込んだら直後に「10月1日に面接がある」と言われて銀座の会場にいきました。まずオフィスが立派なことに驚き、面接を受けに来た高校生がたくさんいたことにも驚きました。筆記試験と面接があり、その日の夜に「通過したので」と電話がありました。面接は2日間ありました。

親にも選考を受けたことを言っていませんでしたので、家の電話にかかってきた一次面接合格の連絡を、親が間違い電話だと思い、切ろうとしたのを慌てて代わり結果を聞きました。

古屋
知らない会社でもパンフレットで年の近い社員さんの様子がわかると親近感がわきますよね。何名くらい採用されていたのでしょうか。また、会社選びにあたっては給料以外に気にしたところはありましたか。

平田
私が入社したのは1985年ですが、同期で30数名が高校卒でした。大学卒は500人、短大卒が20名ほどいました。高校卒は、地方の高校から積極的に採用していたそうで、自分以外に東京の高校生はいませんでした。

当時は、仕事のイメージがわかなかったので、条件(給与)をみるくらいしか企業を比較しようがありませんでした。高卒で就職する人は早く自立したいと思っていたり、実際に早く自立を迫られる環境にいたりするので、アルバイト経験がある人も多く、当時の私のように時給で給与を見る感覚が強いのではないでしょうか。

古屋
入社後の研修についてはいかがでしたか?

平田
研修は学歴に関わらず全員が一斉に受けるものと、学歴別の研修の2つがありました。そのほかにも、同じ職場で部署の研修があったので高卒大卒問わず同じ部署の人は特に「同期的」な感覚がありました。

よく高校卒で事業所配属されると、「直近の先輩が45歳」とかで世代のギャップがあり、辞めてしまう、みたいな話を聞きますが、私は大量採用時代ということもあり、幸いなことに年齢の近い同期がたくさんいたので、楽しかったです。その「同期」のみなさんとは、いまだに交流があります。

特に入社前の1泊2日の研修は、様々なワークを通して同期同士で仲良くなるのが目的で、冬休みだったか春休みだったかの長期休暇を利用して実施されました。働きはじめていきなり「はじめまして」、ではなじむのに時間がかかったと思いますので、入社した時に知っている顔があるというのは良かったなと、思います。

古屋
右も左もわからない新入社員の頃の「同期」ほどありがたいものはありませんよね。就職活動で高校にしてほしかったことはありますか?

平田
年齢が1個上、2個上の働いている人の話を聞きたかったです。社会人の働く事例みたいなものがしっかり見えていたらその後の不安も全然違ったのではないかと思いました。

やはり高校生では見える社会が狭いですので。

古屋
その後、冒頭で伺ったように、様々な仕事を経て活躍され、そんな中で大学院に行こうと思った理由は何だったのでしょう?

平田
高卒ということもあり、自分には体系的な学びが不足しているのではないかとずっと思っていました。なので、20代〜30代の時は、グロービスに通ったり、ファイナンシャルプランナーの資格を取得したり、色々な学校に通いました。グロービスのプログラムはほとんど受けてしまい、もう受講するものがなくなってしまったくらいです。そんな中で、大学院進学を考えたのは、50歳になり、仕事について自分のなかでなんとなく行き詰まりを感じていたことが大きな理由です。またこの20年人材ビジネスに従事してきて、これが天職だと思ってきましたが、働くということを体系的に学んでいないと気付いたんです。

しかし、どうやって学んだらよいのかわからない。そんな時、たまたま、以前同じ職場だった先輩とご飯を食べに行く機会があり、丁度その先輩が大学院に行こうとしているという話しを聞いて。そこで、「そういう発想があるんだ」と。「私は大学出てないから無理かな」と相談したころ、「行けるみたいだよ。調べてみたら」とその先輩にアドバイスして貰ったんです。大学院の受験塾というものを紹介してくれ、そこにいって試験対策を教えてもらいました。大学院によっても異なりますが、私が受験したところは、研究計画書の審査と面接を経て、学部卒の人と同じように大学院を受験することができました。

説明がありません

(グロービスの友人たちと)

古屋
志望先として選んだ教授のことはもとからご存知だったのでしょうか?

平田
はい。その教授のゼミに会社の同僚が通っており、その繋がりで会社で講演していただいたことがあり、その時の話がアカデミックでありながら現実の企業の状況も踏まえたとてもわかりやすく納得のいく話で、この先生のもとで学びたいと強く思いました。

社会人大学院で、平日夜と土日で、働きながら通えることも大きなポイントでした。

古屋
なぜ大学ではなく大学院に行こうと思ったのでしょうか?

平田
「働くことを研究する」、という目的が自分のなかで明確でした。だとすると学部にいくのは遠回りなのかなと感じました。学部はもう少し目的が曖昧な状態で行くものなのかな、と。

また、これは申し込む時に知ったのですが、「教育訓練給付金」という素晴らしい公的制度があり、大学院での学習の経済的な負担が相当程度軽減されます。これは絶対に使った方が得ですので、学びたいことがある人ひとはみんな大学院に行くべきなんじゃないかと思っているくらいです。

古屋
最後に、平田さんにとって、大学院に行くことはどんな良いことがありましたか。

平田
たくさんあります。まず、様々な専門家である先生からの本や文献の紹介をしていただけること。普段自分が手に取らないような本を読むことで、知らなかった世界が開かれました。世界はこんなに広い、ということは大学院によって実感しました。世界が広がるということ自体がすごい学びだと思いますし、単純に知らないことを学ぶことが、毎日刺激的で、とても楽しかったです。

また、座学だけではなく、グループワークが多い授業形態からも様々な気づきがありました。同質な人が多い会社や友人関係とくらべ、本当に様々な職業や年齢や価値観の人がいます。大学院の友人と一緒に様々なことに取り組む中で、良くも悪くも、「経済効率重視」で物事を考える自分の偏りに気付かされました。ああ、本当に1つの偏った価値観の中にいたのかもしれないな、と、いい歳をして恥ずかしい話しですが、しみじみ実感しました。会社だけにいては、こういったことは実感として気付きにくかったと思います。

そしてその過程で、多くの友人に恵まれたことも一生の宝でした。みんなで侃々諤々熱くなって議論したり、ゼミ合宿にいったり、授業のあと飲みにいったり、なんだか青春でした。

大学院にいって本当に良かったです。世の中のことをたくさん知ることができて、自分の世界も広がりましたし、自分のことも少しは俯瞰で見れるようになったのかなと思います。そしてそんな中で、分かち合える友人が出来たこと。それが私にとっての大学院での学びの効果でしょうか。

 古屋
仕事でのご経験が大学院での学びと重なり合って、これからもたくさんの発見が出てきそうですね!本日はありがとうございました。

2021年1月20日「卒後の状況から高校生の就職を考える」サマリーレポート

2021年1月20日19時から、Zoomを使用して、スクール・トゥ・ワーク主催「卒後の状況から高校生の就職を考える」が開催しました。

今回のオンラインセミナーには、メディア各社に加え、行政関係者、民間企業、学校教職員の方々を含め、40名以上の参加をいただきました。終了後のアンケートでは回答頂いた17名中なんと17名全員から「満足(5点満点中5点)」と回答をいただきました。

冒頭に、代表理事の古屋から本日の趣旨の説明やテーマの発議がありました。

「早活人材」の説明や、2021年の高校就職の状況の概況と、今が高校就職の転機であることについて話がありました。

また、高校卒就職後の大規模な状況調査のデータを基に、就職後の高校生の働き方、卒後のキャリアから高校就職のあり方、そして企業の高校生採用についての考察を行いました。

特に以下の4点についてデータをもとに語られました。

■高校就職者は「比べて選ぶ」ことが就職の仕組み的にできていない場合も多いため、2・3社比べて選択することで定着率やその後のキャリア状況が好転している。

■一人一社制自体というより、実は選考以前のプロセスに大きな問題がある。「一社だけしか選考を受けないため、一社だけを調べる」という指導をするのではなく、準備の段階で多くの会社に触れることで大きな効果が見られる。

■「勉強したくないから就職」等と決めつけをせず、高校生の就職意欲を理解し、支援することが重要である。また、企業側も高校生の意欲に応える教育投資ができているかを見直す必要がある。

■現状、採用企業はハローワークや先生と相談をして採用活動を進めているが、採用企業の半数近くは高校生と直接話せないことに課題意識を持っている。「一緒に働く人を選ぶ」仕組みを構築することが必要である。

講演を踏まえ、原 薫氏(株式会社メタルヒート取締役)、山下 峻氏(星槎国際高等学校 立川センター長)、田中 竜介氏(国際労働機関(ILO)プログラムオフィサー)の3名によるパネルディスカッションが行われました。

実際に高校生採用を行っている企業、生徒の就職支援を行っている学校、国際的に若年者雇用政策の検討や提言を行っている機関という、通常本音で語りあう機会のない3つの多様な観点から、高校就職の支援方法や今後の課題などの議論が行われました。

まず、「冒頭の講演を聞き一番心に残ったポイント」の共有として、田中氏からは「高校生の立場から、学んで選ぶという実感が重要であることがわかった」、山下氏からは「こうだろうという感覚をデータで可視化されたことで、進路指導に自信がついた」といった感想をいただきました。

また、原氏からは「早期離職者が非正規雇用者になる割合は3割とあるが、愛知県では景気が良い時のほうが非正規雇用になる方が多いと感じる。期間工などの額面の給料の高い仕事が増えるためだ」と現場での体験を踏まえた感想共有も。高校生は限定された情報のなかで就職先を決めている、という点について山下氏からは自校の取組として「学校行事の中で企業説明会に行く機会を作り、人生観や生き方を考え、選べるようになるための機会を設けている」と紹介もありました。

次に、キャリア形成にも様々な課題がある中で、「高校生の就職のアップデートすべき点」について議論を行いました。

原氏は、採用をする立場として、「ハローワークから学校に企業の印象を伝え、先生から生徒におすすめをするという間接的なやりとりをなくし、大人ではなく生徒自身と直接企業が話し選択するための機会を設けてほしい」との採用企業としての切実な思いが語られました。

山下氏は教員の目線から、「子どもたちの要望を聞きながら情報選択を行っているが、生徒が選択するための情報の取り方を見定めなければならない」という声もありました。

田中氏からは、世界での議論として「ディーセントワークの理念にあるように、仕事を自由に選択できる環境を作りつつ、完全雇用すなわち働きたいと思える人が働ける環境を整えるといったバランスをとることが重要。また、セカンドチャンスを望む人に生涯学習の機会を届けるなど、どれだけ平等な機会を持てるように支援するかを考えたい。」という意見があり、改めて現在の仕組みの良いところを残しつつ、アップデートが必要な部分もあるということ、そして「選ぶ」というキーワードの重要性を強く感じました。

最後に、コロナショックの中で懸念される点についての議論を行いました。

山下氏からは、「就職については、業種によって昨年より早く採用を終えている業種、スーパー・小売などもある。また、家庭の状況により進学が難しい家庭への対策を組むことが重要。固定概念に囚われず、コロナの中でも学校でできることを考えたい」という意見がありました。

原氏は、「大学卒採用が先行して行われるため、高校卒採用枠が激減する、あるいはなくなる製造業が増えることを懸念している。自動車業界にかかわらず景気が悪化しているため、地域の多くの企業が昨年よりも採用枠を減らす可能性が高い。また、愛知県でいうと車の生産の自動化により、部品工場の採用枠自体が減っているという構造的な問題にも直面しつつある」という話がありました。高校生の就職先が、製造業から大きく変化していないこともあり、高校就職の危機を感じさせられるコメントでした。

最後に田中氏からは、「公的な職業訓練がなされるような製造分野はオートメーションで代替可能な分野が多く、国際的にも危機感が高まっている。問題解決能力や、イノベーションを生み出す力などの仕事の未来の変化に耐えうる教育機会が高校生にも与えられる必要がある。ただもちろん、日本にはイノベーティブな中小企業が多くあるため、こうした企業を知ってもらうことやマッチングが重要になってくる。今後の社会で非常に重要になる若者という財産を公的な支援で救い、マッチング機能を強化して様々な情報にアクセスできるようにする必要がある。」との問題提起と意見がありました。

このように様々な問題が山積している中でも、若者が自ら企業を「比べて選ぶ」ことができるような体制ができているかを見直し、必要な支援や情報を届けることが重要であることを、改めて感じる議論でした。

その後の質疑応答やネットワーキングも大いに盛り上がり、終了後1時間以上にわたりグループに分かれて意見交換や議論が行われました。

 

【当日の感想(一部)】

◎データや統計など参考になるものが多く、数字を根拠に社会で変えていくべきことを客観的に伝えられる可能性が見えた有意義なものでした。全国の教育関係者の方に見てもらいたい数字だと思います。また色んな関係者の方がいてお話しできたことで学びの機会が多く得られ、新たに考えるべきキャリア教育のやり方を検討しようと思います。いつもありがとうございます。

◎ILOの田中さんのご登壇もとても新鮮で、世界の潮流をふまえたマクロの視点から「日本の高校生就職」をどう捉えることができるのか、示唆に富んだ内容だったと思います。

◎貴重な機会をいただき感謝します。別件で途中退席となりましたが、データに裏付けされた内容で非常に説得性がありました。社会や産業構造の変化がコロナ禍もあり特に顕著になってくることが必至です。その中で非大卒(早活)人材の現状等を知り、課題等も理解できました。研究会を通して感じたことは、当該高卒就職者の社会関係資本(つながり)格差もあるのではないかということ、同質性が高い仲間内という要因も関係しているのではないか。そして受け入れる企業側についても、最初の配属先や職種、そしてキャリアパス等の工夫も必要ではないかということです。このままではますます分断が加速していくようで何とかしないといけないと思いつつも、具体的な対策が思いつかないもどかしさを感じております。0-15才人口が減少していく日本において、この課題認識及び解決は大変重要です。

◎パネルディスカッションまでしか参加できませんでしたが、データとして客観的に示していただけたことで、生徒や教員への伝え方に自信を持てそうです。とはいえ、教員に伝えてもすぐにこれまでの慣例から外れることは難しいかと思いますので、探究の時間やインターンシップの事前事後学習等で生徒に向けて話していくことで、教員にも間接的に伝えていければと考えています。そして、私自身ものアンコンシャスバイアスを取り除く必要があると改めて感じました。

 

スクール・トゥ・ワークでは今後も早活人材のキャリア支援とともに、関連する情報発信や研究会等の開催を行ってまいります。

高校卒就職の視点から見た、新型コロナウイルスの影響と懸念点

新型コロナウイルスによって緊急事態宣言が出る中、学校や企業にも大きな影響が出ています。そんな中で「9月入学制」についての議論なども出てきています。今回は、私たちスクール・トゥ・ワークが活動してきた、高校卒就職の観点から見た新型コロナウイルスの影響について、浮かび上がってきている問題点を整理し、問題提起をしたいと思います。

 

1.学校・生徒における懸念点

(1)進路指導の時間の減少

高校三年生の一学期は、進路調書等を提出して貰い、進路面談を行う就職活動の助走期間です。現在の休校措置により、この時間が大きく削られつつあります。また、高校卒就職は国によって申し合わせられているスケジュール(本年2月に策定)に基づいて進むために、7月に企業の求人票が見られるようになり、9月16日の採用選考開始に向け、一学期後半に本格化します。7月に向けて、こうした貴重な時間がなくなっているのです。

 

(2)夏休みの職場見学が実施困難に

通常、7月に求人票が出た会社について、夏休み期間中に1社程度職場見学を行うことが一般的ですが、本年は休校措置の影響で夏休み期間が縮減されることが想定されており、職場見学の機会も縮減する懸念があります。高校卒就職者にとって、この職場見学は実際の仕事の現場を見ることができるほぼ唯一の貴重な機会であるため、その悪影響は大きいです。大学卒の就職において、インターンシップや先輩社員との対話の機会が完全になくなる、と例えれば深刻度を理解していただきやすいでしょうか。

 

 

2.企業側の懸念点

(1)求人票を「6月」に提出することの困難

大きな景況感の変化に伴い、企業の採用計画は大きな見直しを迫られています。新卒採用は景気変動の影響を比較的受けにくいと言われていますが、特に高校卒就職者のメインの就職先である中小企業においては、影響がないとはとても言えません。緊急事態宣言が明けているかどうかすらわからない6月の段階で、申し合わせのスケジュールでは求人票をハローワークに提出する必要がありますが、企業が新高卒採用をするかどうかの判断がそのタイミングで可能でしょうか。また、そのための事務的手続きを行う余力があるでしょうか。

 

(2)ハローワークの「確認事務」の停滞懸念

目下、企業からの雇用調整助成金の相談や、雇用情勢不安定化による相談業務などによって各地のハローワークは極めて電話が繋がりにくい状況となっており、著しい業務過多の状態にあると推測できます。こうした業務量が溢れかえる状態で、高校卒の求人票受理・確認事務が6月に生じますが、適切な内容確認を適切なスピードで実施できるのかについても、懸念が残ります。

 

3.懸念点に対しての具体的な提案

こうした懸念のため、休校が長引いた状況で従来通りの申し合わせのスケジュールによる高校卒就職活動が行われれば、学校はほぼ対応できず、企業の体制も6月までに整わず、同時に生徒の準備も不十分となり、10月以降もたくさんの高校生が就職活動を続けているという光景が予想されます。

上記のような懸念点は、おおむね「新型コロナウイルスの影響による休校によって、一学期から準備し、6月・7月に本格化する高校卒就職スケジュールが圧迫されている」ことが原因だと言えます。

解決するためには、申し合わせられているスケジュールについて、『数か月単位の後ろ倒しを行う』ことが最も現実的な選択です。つまり、例えば休校が6月1日に解除されるのであれば、選考開始を1か月後ろ倒しすれば(つまり10月16日選考解禁として、6月から進路相談、求人票受理を7月に、8・9月に求人票確認・職場見学等を行うことができるようにする)、学校における進路相談の時間、職場見学、そして企業側の体制について十分な見通しを持って行うことが可能になります。

 

 

4.「9月入学」問題と高校卒就職

さらに現在、「9月入学」も議論されていますが、もし9月入学となった場合に最も影響を受けるのは、上記で示した通り就職スケジュールが既に決まってしまっている就職予定の高校3年生です。ほとんど就職の支援を受けられない状態で9月16日の選考解禁を迎えることとなり、差し迫ったスケジュールの中で就職を希望する生徒たちへの特別な対処なしには、到底現実的な提案ではありません。9月入学の議論の前提として、こうした高校生への直接的な支援策の検討を行うことは政策意思決定として必須の留意点だと言えます。

しかし、9月入学については「大学受験との関係は・・・」とか「留学者が・・・」といった議論はありますが、高校卒就職との関係に触れた論は見当たらず、年間17万人もの高校生が就職し、20代の社会人の20%を占める高校卒就職者に対する社会的関心は不当に低い状況が続いています。まさに『社会の忘れ去られた部分』(アメリカで1990年代に出された高校卒就職者に対する報告書のタイトルは『社会の忘れ去られた半分』でした)となっています。

新型コロナウイルスと高校卒就職について、目前に迫った大きな問題に対処することは喫緊の課題ですが、これと並んで高校卒で社会へ出ていく若者たちを大学卒と同じ未来を担う若者として応援する土壌を作っていくことも重要な課題であると痛感しています。

 

(一部の写真出典:写真AC

 

古屋 星斗(ふるや しょうと)

1986年生まれ。大学院修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、未来投資戦略策定等に携わる。2018年にスクール・トゥ・ワークを創設。『早活人材』を中心とした若者のキャリアを支援するとともに、リクルートワークス研究所において次世代のキャリア形成を研究する。

『早活人材』が作る、日本の未来【年度始め所感】

出典「写真AC

 

早活人材』を知っていますか?

これまで「非大卒」と呼ばれていた高校卒就職者を中心とした社会人たちを
 ◎ 早く職場で活躍している
 ◎ 早く社会で活動している
 ◎ 早く就活をした
など、「早く社会に出た」という“事実”に焦点を当てた言葉です。

私たちスクール・トゥ・ワークは、これまで「大卒」が理想であるという価値観のもと、「大卒ではない」=「非大卒」と言われていた『早活人材』が、もっとわくわく活躍できるようになるために、どのような社会であるべきかを考え、一歩一歩取り組んでいます。

『早活人材』は若手社会人のおよそ半数を占めています。
しかし、例えば半数のうちの半数(全体の25%)を占める高校就職について、社会はどれほど関心を持っているでしょうか。

大学生の就職活動については、スケジュールも、ルール変更も、ひとつひとつが大きく報じられ、行政・教育・メディア・民間企業まで様々な人が議論に参加しています。

しかし、高校生がどのように就職しているのかについて、メディアで取り上げられることはほとんどありません。

私たちは、18歳人口が今後15年で20%近くも激減する日本で、忘れられた若年層である『早活人材』が本気で活躍することが、社会を面白くするためのカギになると思っています。

そんな『早活人材』が本気で活躍する世の中は、たぶんこのような社会です。
 ◎ 高校を出て就職して、仕事の中で「これを本気で勉強してみたい」と感じた人が、奨学金や助成金を使って、大学や大学院に進学していく
 ◎ 高校でインターンシップに行った会社にそのまま就職し、同時にオンライン大学で学ぶ“10代にしてパラレルキャリア”を形成する若者が多数派となる
 ◎ 『早活人材』と同年代の大学生が、互いの長所と短所を理解し尊重し合って、シナジーを発揮する
 ◎ 高校1年生の時から、「職業」や「偏差値」だけではなく、「自分の人生・キャリアについて向き合う時間」が授業として設けられる
 ◎ そして、ひとりひとりの若者が“大人から押し付けられる”のではなく、“大人から最大限のサポートを受けて”納得感をもってキャリアを選択していく

「非大卒人材」から『早活人材』へ。

私たちは『早活人材』にこうした意味を込めています。しかし、これから起こっていく変化こそが『早活人材』の真の意味を創っていくことになるでしょう。そして彼らの力は、日本の未来にとって欠かせない大きなものになるはずです。

皆さんが描く社会の未来図にも、『早活人材』を加えてみてください。きっと、その未来図に、ちょっとだけ笑顔が増えるのではないでしょうか。

 

古屋 星斗・森川 剛

 

古屋 星斗(ふるや しょうと)

1986年生まれ。大学院修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、未来投資戦略策定等に携わる。2018年にスクール・トゥ・ワークを創設。『早活人材』を中心とした若者のキャリアを支援するとともに、リクルートワークス研究所において次世代のキャリア形成を研究する。

森川 剛(もりかわ ごう)

1994年生まれ。高校卒業後にお笑い芸人を経て現在は20代のキャリア支援を行う就職エージェントでキャリアアドバイザーをするとともに、一般社団法人スクール・トゥ・ワークで活動している『早活人材』。

2020年3月5日「緊急開催!変わる!高校就職研究会」サマリーレポート

2020年3月5日東京・内幸町のTKP新橋カンファレンスセンターにおいて「緊急開催!変わる!高校就職研究会」を開催しました。今回の研究会では、コロナウイルス対策により、一般入場を中止し、オンライン配信による中継を行いました。なお、オンライン配信の模様については以下のアーカイブからご覧いただけます。

1.Facebook
 その1 https://bit.ly/2wEmhgO
 その2 https://bit.ly/2wEeeRj
2.Twitter
 その1 https://bit.ly/38CTeaB
 その2 https://bit.ly/2Iuxbsf
 その3 https://bit.ly/2ItkY75

冒頭で、スクール・トゥ・ワーク代表古屋星斗より、高校就職問題検討会議ワーキングチーム報告書についてのポイント解説がありました。

具体的な変化のポイント5つやいくつかの懸念点について話があり、特に「自身で学校推薦企業以外の企業に応募をした場合、学校が応募時に推薦企業に対して他の企業に応募している旨を通知する」ルールについてはその後のコメントなどでも生徒に対する著しい不利益を懸念する共感の声が上がっていました。

次に、有識者パネルディスカッションが行われました。まず、発議として株式会社アッテミー代表の吉田優子さんより、感想共有や論点提示が行われました。特に印象に残ったのが「今回の報告書の内容では、先生の負担は減らないのではないか」という指摘でした。高校生の就職を外部から支えているアッテミーさんならではの感想となりました。

有識者としては、株式会社ジンジブ代表取締役佐々木満秀さんと公立高校教員の新井晋太郎先生が登壇されました。

佐々木社長からは、民間サービスが切磋琢磨することで本当に高校生にとって必要な仕組みがこの社会に生まれてくる、という今回の報告書で触れられている学校推薦と自由応募の組み合わせが浸透していくことの意義についてお話がありました。佐々木社長はその分野の最前線で実践をなさっていることもあり、心に残る発言となりました。

新井先生のキャリア教育の実践の話、特に「選択の道を具体的に見せていくことで、生徒のやる気スイッチを押す」という話には共感が集まっていました。キャリア教育の実施によって、学業にも良い影響があったそうです。

最後に「早活人材が考える高校就職改革会議」が行われました。3人の早活人材、高校卒で就職した若手社会人が登壇し、当事者の目線から、高校就職がどうなっていくと良いかを議論しました。

富山県出身、学校推薦で富山の大企業に就職したあと辞職して今はITベンチャーで働く竹田さんからは、「これからの変わっていかざるをえない高校生にとって、自分がモデルになれることもたくさんあると思うので、自分の経験を還元していきたい」という話がありました。

ジンジブで働く好永さんは、この報告書を読んで「感動した」と言います。「高校卒で就職する際には、こんなに自分たちが求められているとは思わなかった。社会から見捨てられた存在なのかもと思った。でも今日のこのイベントで一生懸命話をしている人たちを見て、感動した」と、自分の体験から率直ですが、エネルギーのある言葉は聞いているすべての人の胸に火を灯したことでしょう。

スクール・トゥ・ワークの一員でもあり、キャリアコンサルタントとして最前線で働く森川さんからは大きな「構想」のお話が。「日本にいるキャリアコンサルタントが、かつての自分のような高校生の就職のサポートをしていくことができるプラットフォームを作りたい」。終了後、この話を聞いた方から声がかかり、早速企画ミーティングが開催されたようです。

スクール・トゥ・ワークでは、新しい時代に、早活人材をはじめとするすべての若者が、自分の力で自分の人生を決めていくことができる社会を目指して、引き続き活動を進めてまいります。