高校卒就職の視点から見た、新型コロナウイルスの影響と懸念点

新型コロナウイルスによって緊急事態宣言が出る中、学校や企業にも大きな影響が出ています。そんな中で「9月入学制」についての議論なども出てきています。今回は、私たちスクール・トゥ・ワークが活動してきた、高校卒就職の観点から見た新型コロナウイルスの影響について、浮かび上がってきている問題点を整理し、問題提起をしたいと思います。

 

1.学校・生徒における懸念点

(1)進路指導の時間の減少

高校三年生の一学期は、進路調書等を提出して貰い、進路面談を行う就職活動の助走期間です。現在の休校措置により、この時間が大きく削られつつあります。また、高校卒就職は国によって申し合わせられているスケジュール(本年2月に策定)に基づいて進むために、7月に企業の求人票が見られるようになり、9月16日の採用選考開始に向け、一学期後半に本格化します。7月に向けて、こうした貴重な時間がなくなっているのです。

 

(2)夏休みの職場見学が実施困難に

通常、7月に求人票が出た会社について、夏休み期間中に1社程度職場見学を行うことが一般的ですが、本年は休校措置の影響で夏休み期間が縮減されることが想定されており、職場見学の機会も縮減する懸念があります。高校卒就職者にとって、この職場見学は実際の仕事の現場を見ることができるほぼ唯一の貴重な機会であるため、その悪影響は大きいです。大学卒の就職において、インターンシップや先輩社員との対話の機会が完全になくなる、と例えれば深刻度を理解していただきやすいでしょうか。

 

 

2.企業側の懸念点

(1)求人票を「6月」に提出することの困難

大きな景況感の変化に伴い、企業の採用計画は大きな見直しを迫られています。新卒採用は景気変動の影響を比較的受けにくいと言われていますが、特に高校卒就職者のメインの就職先である中小企業においては、影響がないとはとても言えません。緊急事態宣言が明けているかどうかすらわからない6月の段階で、申し合わせのスケジュールでは求人票をハローワークに提出する必要がありますが、企業が新高卒採用をするかどうかの判断がそのタイミングで可能でしょうか。また、そのための事務的手続きを行う余力があるでしょうか。

 

(2)ハローワークの「確認事務」の停滞懸念

目下、企業からの雇用調整助成金の相談や、雇用情勢不安定化による相談業務などによって各地のハローワークは極めて電話が繋がりにくい状況となっており、著しい業務過多の状態にあると推測できます。こうした業務量が溢れかえる状態で、高校卒の求人票受理・確認事務が6月に生じますが、適切な内容確認を適切なスピードで実施できるのかについても、懸念が残ります。

 

3.懸念点に対しての具体的な提案

こうした懸念のため、休校が長引いた状況で従来通りの申し合わせのスケジュールによる高校卒就職活動が行われれば、学校はほぼ対応できず、企業の体制も6月までに整わず、同時に生徒の準備も不十分となり、10月以降もたくさんの高校生が就職活動を続けているという光景が予想されます。

上記のような懸念点は、おおむね「新型コロナウイルスの影響による休校によって、一学期から準備し、6月・7月に本格化する高校卒就職スケジュールが圧迫されている」ことが原因だと言えます。

解決するためには、申し合わせられているスケジュールについて、『数か月単位の後ろ倒しを行う』ことが最も現実的な選択です。つまり、例えば休校が6月1日に解除されるのであれば、選考開始を1か月後ろ倒しすれば(つまり10月16日選考解禁として、6月から進路相談、求人票受理を7月に、8・9月に求人票確認・職場見学等を行うことができるようにする)、学校における進路相談の時間、職場見学、そして企業側の体制について十分な見通しを持って行うことが可能になります。

 

 

4.「9月入学」問題と高校卒就職

さらに現在、「9月入学」も議論されていますが、もし9月入学となった場合に最も影響を受けるのは、上記で示した通り就職スケジュールが既に決まってしまっている就職予定の高校3年生です。ほとんど就職の支援を受けられない状態で9月16日の選考解禁を迎えることとなり、差し迫ったスケジュールの中で就職を希望する生徒たちへの特別な対処なしには、到底現実的な提案ではありません。9月入学の議論の前提として、こうした高校生への直接的な支援策の検討を行うことは政策意思決定として必須の留意点だと言えます。

しかし、9月入学については「大学受験との関係は・・・」とか「留学者が・・・」といった議論はありますが、高校卒就職との関係に触れた論は見当たらず、年間17万人もの高校生が就職し、20代の社会人の20%を占める高校卒就職者に対する社会的関心は不当に低い状況が続いています。まさに『社会の忘れ去られた部分』(アメリカで1990年代に出された高校卒就職者に対する報告書のタイトルは『社会の忘れ去られた半分』でした)となっています。

新型コロナウイルスと高校卒就職について、目前に迫った大きな問題に対処することは喫緊の課題ですが、これと並んで高校卒で社会へ出ていく若者たちを大学卒と同じ未来を担う若者として応援する土壌を作っていくことも重要な課題であると痛感しています。

 

(一部の写真出典:写真AC

 

古屋 星斗(ふるや しょうと)

1986年生まれ。大学院修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、未来投資戦略策定等に携わる。2018年にスクール・トゥ・ワークを創設。『早活人材』を中心とした若者のキャリアを支援するとともに、リクルートワークス研究所において次世代のキャリア形成を研究する。

『早活人材』が作る、日本の未来【年度始め所感】

出典「写真AC

 

早活人材』を知っていますか?

これまで「非大卒」と呼ばれていた高校卒就職者を中心とした社会人たちを
 ◎ 早く職場で活躍している
 ◎ 早く社会で活動している
 ◎ 早く就活をした
など、「早く社会に出た」という“事実”に焦点を当てた言葉です。

私たちスクール・トゥ・ワークは、これまで「大卒」が理想であるという価値観のもと、「大卒ではない」=「非大卒」と言われていた『早活人材』が、もっとわくわく活躍できるようになるために、どのような社会であるべきかを考え、一歩一歩取り組んでいます。

『早活人材』は若手社会人のおよそ半数を占めています。
しかし、例えば半数のうちの半数(全体の25%)を占める高校就職について、社会はどれほど関心を持っているでしょうか。

大学生の就職活動については、スケジュールも、ルール変更も、ひとつひとつが大きく報じられ、行政・教育・メディア・民間企業まで様々な人が議論に参加しています。

しかし、高校生がどのように就職しているのかについて、メディアで取り上げられることはほとんどありません。

私たちは、18歳人口が今後15年で20%近くも激減する日本で、忘れられた若年層である『早活人材』が本気で活躍することが、社会を面白くするためのカギになると思っています。

そんな『早活人材』が本気で活躍する世の中は、たぶんこのような社会です。
 ◎ 高校を出て就職して、仕事の中で「これを本気で勉強してみたい」と感じた人が、奨学金や助成金を使って、大学や大学院に進学していく
 ◎ 高校でインターンシップに行った会社にそのまま就職し、同時にオンライン大学で学ぶ“10代にしてパラレルキャリア”を形成する若者が多数派となる
 ◎ 『早活人材』と同年代の大学生が、互いの長所と短所を理解し尊重し合って、シナジーを発揮する
 ◎ 高校1年生の時から、「職業」や「偏差値」だけではなく、「自分の人生・キャリアについて向き合う時間」が授業として設けられる
 ◎ そして、ひとりひとりの若者が“大人から押し付けられる”のではなく、“大人から最大限のサポートを受けて”納得感をもってキャリアを選択していく

「非大卒人材」から『早活人材』へ。

私たちは『早活人材』にこうした意味を込めています。しかし、これから起こっていく変化こそが『早活人材』の真の意味を創っていくことになるでしょう。そして彼らの力は、日本の未来にとって欠かせない大きなものになるはずです。

皆さんが描く社会の未来図にも、『早活人材』を加えてみてください。きっと、その未来図に、ちょっとだけ笑顔が増えるのではないでしょうか。

 

古屋 星斗・森川 剛

 

古屋 星斗(ふるや しょうと)

1986年生まれ。大学院修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、未来投資戦略策定等に携わる。2018年にスクール・トゥ・ワークを創設。『早活人材』を中心とした若者のキャリアを支援するとともに、リクルートワークス研究所において次世代のキャリア形成を研究する。

森川 剛(もりかわ ごう)

1994年生まれ。高校卒業後にお笑い芸人を経て現在は20代のキャリア支援を行う就職エージェントでキャリアアドバイザーをするとともに、一般社団法人スクール・トゥ・ワークで活動している『早活人材』。

元非大卒人材の僕

学生及び早活人材に対するキャリア教育事業等を行う一般社団法人スクール・トゥ・ワークでは、2019年1月22日から3月31日までに、主に中学校卒・高等学校卒・専門学校卒・高等専門学校卒・短期大学卒や大学中退などの人材と定義される「非大卒人材」に代わる新名称の募集をしておりました。

応募総数166個の中から、当団体で事前審査を行い、7月13日に開催したイベント「ハッシャダイ × スクール・トゥ・ワーク~18歳の進路選択~」vol.1において、学校の先生などを中心に参加者の方々にご投票いただいた結果、新名称が「早活人材」(そうかつじんざい)となりました。

自己紹介が遅くなりましたが、僕は、1994年生まれ、森川 剛(もりかわごう)です。最終学歴は高卒。冒頭で紹介した「早活人材」になります。

今回は、元「非大卒人材」であり、名称変更して、新たに現在「早活人材」となった”当事者”である僕の視点から少しお話をさせていただきます。

職業選択の自由が無く、辞退が許されない非大卒人材

僕は現在、20代に特化した転職エージェントでキャリアアドバイザーとして日々、20代の求職者と面談をしています。

そんな僕も最終学歴は高卒であり、いわゆる「非大卒人材」でした。

周りからは驚かれるのですが、2017年まではお笑い芸人としても活動をしておりました。

おそらくあまり芸人っぽくない振る舞いだから驚かれるのかもしれません。

もっと芸人時代のことも書きたい気持ちもあるのですが、今回は僕の高校就活時代の話を書いていきます。

僕は高校では学年で下から2番目という成績で高校最後のテストを終えました。

お世辞にも勉強ができる学生ではなかったので、今思い返しても、卒業後の進路も大学進学という文字は浮かんでいなかったと思います。

当時からお笑い芸人への憧れは持っていたものの、相方候補がいた訳でも無く、自分がボケなのかツッコミかも分かっておらず「芸人になる」という選択肢はありませんでした。

消去法の結果、就職という選択肢が残りました。

就職のことなどまるで分かっていなかった僕ですが、幸い自分よりも先に就職活動を行なっている友達がいたため、あれこれ尋ねて、進路相談室までたどり着くことができました。

本来であれば、ここで求人を紹介してもらい急いで面接を受けるのですが、僕は高校から斡旋される求人は受けず、自分で求人サイトから応募をしてIT企業の営業職へ内定を得ました。

斡旋された求人を受けなかった理由は、「決められた求人しか受けられない」からです。

ご存知の方は少ないかもしれませんが、高校生の就職活動はルールが決められております。

都道府県によって若干変わりますが、僕の高校では成績表の評定が良い生徒から順番に求人が渡されます。

学年で下から2番目の成績の僕に紹介される求人は、いわゆる不人気の企業となります。

勉強はできないが、誰よりもわがままだった僕を満たす求人はそこになく、結果として自分で求人サイトから探しました(笑)。

僕のように先生の制止を振り切って行動できる人はそれで良いかもしれませんが、多くの高校生は、業界や市場のことなど分からず、先生の言う通りに卒業後の進路を決めていきます。

特に驚きなのが、内定獲得後に辞退ができないということです。

正確には、「辞退という選択肢を知らない」のです。

高校生の就職活動において、「内定=入社確定」なのです。正直にいうと、生徒たちに明確な志望動機などがあるとは思えません。

その現れなのか、大卒の新卒3年以内の離職率が30%に対して、高卒の新卒3年以内の離職率は40%となっています。

これが現状です。

非大卒人材から早活人材へ

令和になり、僕のような主に大卒以外のキャリアの人々の名称が「非大卒人材」から「早活人材」に変わりました。

しかし、名称が変わっただけでは意味がないと思っています。

最後に僕が考える「早活人材」のキャリアについて書かせていただきます。

①キャリアについて考えるには下地から

先ほど高校生の就職活動には制限があり、好きな求人を受けることができないと書きました。しかし、この求人の制限を解除したからといって、離職率に変化があるとは思えません。

また、急に職業選択の自由を与えても、そもそも業界や市場について知らないので、どこへ行くと自分の思うキャリアを歩めるのか、自分の考えるキャリアは市場感とズレていないかなどというジャッジができないと思います。

そこで、まずは「キャリアについて向き合う、考える時間を増やす」ことがファースト・ステップだと思います。僕はこれを「My Life思考」と呼んでいます。

学校によっては、高校3年生からキャリアについて考える授業などを設けていると聞いたことがありますが、卒業後の進路について高校3年生になっていきなり考えるというのは無理があると思っています。

そこで、高校1年生の時から「キャリア教育」をカリキュラムに追加すべきだと思っています。

「My Life思考」は他の教科と違って、答えがない勉強になるので、だからこそ1年生から向き合う、考えることに慣れる必要があると思います。

また、先生だけがその授業を担当するのではなく、民間企業の社会人を講師に招いたり、キャリアコンサルタントを招いたりして、新たな価値提供の場として設けるのも大いに良いと思います。

②キャリアについて下地をつけた上で職業選択の自由に

「My Life思考」を通じて、下地ができたところで、高校就活のルールを変えるべきだと思っています。

・受けられる求人数の改善
・夏休みなど長期インターンの実施
・企業の人事、先生以外の大人によるコーチング

18歳の生徒一人にキャリア選択を押し付けるのではなく、周りの大人が最大限サポートをして納得感を持って彼らが次のキャリアを歩めるようにしたいと思います。

「非大卒人材」から「早活人材」へ。名称の変更とともに、いい方向に変わっていけるように頑張ります。

 

非大卒人材の新たな呼称、「早活人材」について

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク

 スクール・トゥ・ワークでは、これまで日本社会において「大卒」との比較によって「非大卒」と呼ばれてきた若い世代の人々を「早活人材」と呼んでいます。これは、学歴や学校歴によって個々人のポテンシャルや力を表現するのではなく、期就職動人材」、「期職業動人材」や「躍人材」といった自分が起こした“アクション”に対する略称として表現したものです。

つまり、「早活人材」とは、「キャリアを早いタイミングで選択した人」という時間軸に重きを置いたものでもあり、若者が主体的にキャリアを選択したといえる名称と考えています。

 

「早活人材」が生きていく職業社会について

この社会、特に職業社会は、大きな変化の時代に入っています。産業構造の大きな変化、人生100年時代の到来、そしてAIや5Gなど革新的技術の登場。こうした社会の中で、「40年同じ会社で働き続ける」、「20年かけて課長を目指す」、「10年下積みする」といったこれまでの日本社会で当たり前だったキャリア形成のプロセスは、すでに若い世代にとって説得力と求心力を失っています

その中で、人生100年時代のキャリア設計は、「学校→会社→引退」という3ステップから、より多くのステップを持つものに変化していくでしょう。誰もが「学校のあとに会社勤めをして引退」という社会は終わったのです。そんな社会で、最も大きな学びのモチベーションはどこから生まれるでしょうか。学校の机の上からでしょうか。働いて生まれる、「もっと学校で勉強しておけば良かった・・・」という気持ちは多くの人が持つ後悔でもあります。そう、働いて初めて大きな学びのモチベーションが生まれるのです。「早活人材」が持つ、「早く職業活動をする」、「早く活躍する」ということは、実はこれからの時代のキャリアづくりのキーポイントでもある、私たちはそう考えています。スクール・トゥ・ワークに関わる多くの「早活人材」からも、「大学で学びたいことがある」、「大学院(!)で研究をしたいことが見つかった」という話を聞くことが多くあります。早活人材は、昭和時代からのレガシーである“3ステップ人生”の次を切り開く可能性を秘めているのです。

 

「早活人材」から始まる、日本のキャリアづくり革命

現在の高校卒業者の就職には大きな問題がたくさんあります。「就職させる」ことがミッションである学校・ハローワークと、「自社で働かせる」ことがミッションの会社の二者では、もはや彼らを支えきることはできません。自分のキャリアを作るということ。自分の人生を振り返って自分のこの先の人生を決めていくということ。十分な支援があれば「早活人材」には、会社も、学校も、親も決められないことを、自分のアクションを土台にして決めていくことができる、そんな潜在力を感じています。

また、日本人の大学進学者のほとんどは20歳前後の就職活動時になってようやく自身のキャリアについて考え始めます。その後の就活を経て、結果として3割の大学生は3年で離職しています。高校で就職するかどうかに関わらず、早くキャリアに関する活動を開始することは、これからの若い世代のキャリアづくりの大きなポイントとなっていくことでしょう。

日本においては長く、学校空間と企業社会が分断されていました。使う言葉も、評価される力も、目指すものも異なる二つの場。この二つを繋ぐ“スクール・トゥ・ワーク(学校から職業へ)”の穴は、企業における新卒一括採用と一斉研修、OJTによる教育システムといった、「企業が若年社会人を受け入れてコストをかけて育成する」という仕組みによって埋められていました。しかし、現代社会においては企業にその余裕はなくなっており、新卒採用よりも中途採用の割合を高めるという方針を打ち出す大企業も現れています。「学校→会社→引退」という仕組みは、制度疲労を起こし崩壊が迫っているのです。

折しも、これまで120万人弱を保っていた日本の18歳人口は、2020年から急激に減少します。若者の数が急減し、キャリアづくりも大きく変わりゆく時代。社会を担う貴重な若者である「早活人材」がどう活きそしてどう活かすのか、もう模範解答を漫然と受け止めていれば良い時期は終わりました。みなで考えなくてはならないときがやってきたのです

 

 

古屋 星斗

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事 

1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。

高卒就職、「一人一社制」は必要か

高卒就職、「一人一社制」は必要か

(総動員体制下で制定された“労務調整令”。80年前に作られた斡旋体制が、2019年現在も高校生の進路選択を拘束している)

 

高校生就活の3つのルール

 

高校生の就職活動は、大学生の“就活”とは大きく異なることをご存じだろうか。合同説明会も、インターンシップ説明会も存在せず、「内定長者」やESを何社分も書く、といったものもない。

そして現代の就活で見ない大学生はいないであろう大規模な「就活ポータルサイト」も存在しない。
 
では日本の高校生はどのように就職活動をしているのだろうか。大学生の就活と比べると大小多数の違いがあるものの、高校生の就職活動を知るために押さえておくべきは、以下の3つの「ルール」の存在であろう。

第1のルールは、スケジュールに関するルールである。毎年7月1日に企業による学校への求人申し込みが始まり、7月下旬以降の夏休み期間に会社見学・職場見学を実施、9月5日に生徒の応募書類提出開始、9月16日に選考・内定解禁というスケジュールが政府等関係機関によって定められ厳密に運用されている。

第2のルールは、「一人一社制」である。9月5日の応募書類提出から一定の期間(10月1日までと決まっている)は、一人の生徒が一つの会社にしか応募することができない。2003年以降に緩和され10月1日以降は複数社応募が可能となっているが、それ以前は厳密に一人の生徒の複数社同時応募は不可能であった。

第3のルールは、「推薦指定校制」による求人事前選別の仕組みである。高校で生徒に紹介される求人については、会社がオープンに応募している求人が提示されるのではなく、高校に寄せられた求人から選ばれるという慣行である。

この3つのルールのうち、第3のルールである「推薦指定校制」はインターネットの浸透もありかなり緩んでいるという指摘もある(ただし、当方が最近高校卒業した者にヒアリングしたところ、就職指導室にあった紙のファイルの10数枚の求人票から選んだ、という話を複数人から聞くことができており、「推薦指定校制」に近い状態は現在でも残存しているものと考えられる)。

その中で、本稿ではいまだ多くの都道府県において厳密に運用されている、「一人一社制」について考えたい

 

一人一社制はなぜあるのか

 

一人一社制はどういった理由で存在するルールなのだろうか。文部科学省、厚生労働省の通知や各都道府県での申し合わせを見ると、「求人秩序の確立」、「適正な選考・推薦の実施」、「健全な学校教育」、「新規学校卒業者の適正な職業選択」といった理由が挙げられている

つまり、一定のルールに則って就職活動がなされることで、高校生の学習環境を保ちつつ適正な選択を促す、というのが規制の趣旨となっていると理解できる。

また、一人一社制がここまで一般化しているのは、高校とハローワークによる高校生への職業斡旋が一般的であるためであり、実に現代でも80%以上の高校生が高校・ハローワークの斡旋によって就職している。

その歴史的な経緯としては、第二次世界大戦中の総動員体制下において、学校が戦時動員により工場等に学徒を斡旋する機能を持ったことに起因すると考えられる。

具体的には1941年12月の労務調整令により、国民学校卒業者は国民職業指導所経由での就職のみに限定されることとなった。

この学校・国による斡旋体制の確立が、戦後の中学・高校における学校・ハローワークの「全員斡旋体制」に繋がっており、2019年現在も高校に残っているものと考えられる

歴史的な経緯は時として本質を歪ませる。「求人秩序の確立」、「適正な選考・推薦の実施」、「健全な学校教育」、「新規学校卒業者の適正な職業選択」といった趣旨を達成する制度としての在り方については議論の余地があるといえよう。

 

一人一社制は「弱いルール」

 

現代においても、多くの学校現場で厳密に運用されている一人一社制であるが、ルールとしては実は「弱い」。

高校生就職活動については、二段階の規制が行われている。一段階目は、文部科学省と厚生労働省が共同開催する「高等教育就職問題検討会議」決定の「通知」による規制である。

ここではスケジュールのほか、全国統一様式の応募書類、さらには求人票にはハローワークの確認印が必要である、といった細かいことまでが決定されている。この一段階目ですら、法律(国全体の規則)や政省令(政府が作る細かい規則)といったものではなく、あくまで法的根拠のない「通知」である。

しかし、スケジュールにしろ、全国一律の応募書類にしろ、80%以上の高校生がこのルールに従って就職活動を行っている事実を踏まえると、事実上の規制として強い効力があると言えよう。

二段階目は、各都道府県の高等学校就職問題検討会による「申し合わせ」である。「申し合わせ」において、「一人一社制」や面接の際の質問内容の制限などとった国の「通知」で決まっていないことが定められる。

こちらは国による事実上の規制ですらなく、各自治体によるものであり、法的根拠も全くない極めて弱いルールであるといえよう。

しかし、弱いルールである一方で、多くの高校生、そして採用する企業がこのルールに縛られており、事実上の規制として効力を発揮していることには変わりがない。

 

一人一社制はこれからの日本に必要か

 

論点ごとに検証してみよう。

  • 『未成年である高校生に対して、大学生と同様の就職活動をさせることは難しいのではないか』

このようなパターナリスティックな姿勢は年齢や学習期間の差異があるため一定程度必要であると考えるが、そのためにはむしろ「選択肢の選び方」や、「確認すべき点は何か」、など企業の選び方やキャリアづくりについて大学生より手厚く指導することを行うべきであろう。

そうしたプログラムなしに、行動する選択肢自体を一律で減らしてしまう規制は、職業選択の自由を過剰に侵してしまっている疑念をぬぐうことはできない

より軽易かつ効果的な方法で達成することができる論点であると考える。また、民法改正により成人年齢も18歳に引き下げられることも、この疑念を後押しする。

 

  • 『たくさんの企業との面接が行われると学校の勉強ができなくなるのではないか』

既に厳密なスケジュール規制が敷かれているため、学業期間については一定程度担保されていると言えよう。一人一社制をなくした場合には、9月16日の選考開始以降、数日から数週間に渡って選考が断続的に行われる可能性があるが、採用したい企業に対する「選考時間ルール」(学事日程に影響のない日程とすること、などとし、放課後時間などの実施をルール化する)により、こちらもより軽易な規制による効果的な方法で達成することが可能である。

もしくは選考開始日時を1か月前倒しし、夏季休暇期間とすることでも当該論点は解消する。なお、就職難の状況下においては多くの学生に無理なく就職の機会を与えるという点で、一人一社制は一定の合理性はあったものと考えられる。

しかし、現在のように採用需要が旺盛で学業を比較的圧迫することなく短期間で就職活動と進路決定が可能な状況においては、徒に生徒の選択権を限定するものとなっていると言わざるを得ない。

 

  • 『一人一社制は企業の効率的な採用に貢献している。もしなくせば企業の人材獲得が困難になる』

特に採用難に直面している地方・中小企業において、このポイントは大きな問題となっている。決まった学校から、決まった数の若者を確保できる高卒者採用の仕組みは企業側のメリットが大きい。

一人一社制は、「選考が、生徒あたり一社にしか許されない」、という仕組みとも言い換えることができ、企業の採用にとって非常に厄介な「内定辞退」を無くすことができるのである。

ただし、この仕組みによって入社した生徒は本当にその会社で仕事することに心から納得しているだろうか。高卒者の入社後3年後離職率は実に40%であり、これは大卒者の30%より10%も高い水準にある。

育ててもすぐ辞めてしまう、早期離職のこの10%の差が「選択していないこと」に起因する差であるとするならば、他の会社も見てそれでも自社に魅力を感じてくれた、という仕組みにすることが状況を改善するのではないだろうか。

また、会社側も現在より多くの生徒と会うことができ、自身の目で自社にフィットする学生を探すことができよう。むしろマッチングの場の貧しさが問題であり、一人一社制によって当該論点が解決するものではない

 

求められる、行政による主体的な「新たなルールづくり」

 

本稿では簡単に、一人一社制を取り巻く状況と課題を整理してきた。触れているとおり、一人一社制は「弱いルール」であり、行政として「規制しているつもりはない」と言える性質のものであるし、現時点で民間企業が高校生の採用市場でビジネスを行うことは全面的に自由である。

しかし、「規制していないからやれることがない」ことはない。高校生の就職・初期キャリアづくりには極めて大きな問題が多数存在しているのである(早期離職の多さ、就職業種の産業構造から乖離した偏重など)。

少なくとも80%以上の高校生とその採用をしている多数の企業が、事実として「ルール」に基づいて就職活動をしている現実を直視したうえで、より行政には積極的な役回りが期待されているといえよう。

国際的にも高い水準にある高校生の就職率を維持しつつ、よりフィットした就職先を選ぶことのできる仕組みについて、日本全体で人手不足が極めて深刻化している今、まさに議論する時が来たのではないだろうか。

 

書き手:古屋星斗
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事
1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。

変わる?学校から仕事への第一歩(第12回 スクール・トゥ・ワーク)

一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。

前回 変わる?学校から仕事への第一歩(第11回 初任給の格差)

 小松
全12回にわたり「変わる?学校から仕事への第一歩」をお送りしてきましたが、読者の皆さんはお楽しみいただけたでしょうか?

最終回ですので、緩い座談会をさらに緩くして、お届けしましょうか(笑)。まずはお二人に座談会の感想をお伺いしましょうか?
 
奥間
僕は非大卒人材の当事者として座談会に参加させてもらいましたが、普段なかなか振り返ることがなかった学生時代や上京したてのときを振り返ることでき、また、専門家である古屋さんの意見や実際のデータを使って色んな角度から非大卒の課題を考えることができとても充実したものになったと思います。
 
古屋
非大卒、中でも高卒就職の分野について、これだけまとまった議論を、当事者を交えて行ったことは間違いなく日本史上初でしょう。教育の分野は、たとえ就職活動のような外部との関わりのある話であっても、当事者不在になりやすい傾向があります。その一点でとても楽しくお話させていただきました。ありがとうございました!
 
小松
そうですね。私もとても楽しかったです。お二人のお話もそれぞれ面白かったのですが、何と言っても、日常生活では見えていない話が満載だったように思います。
 

大卒と非大卒というコミュニティの「分断」

小松
アメリカがトランプ大統領になってから「分断」という言葉がやたら使われるようになった気がしますが、日本社会においても、大卒と非大卒には「分断」があるように思いますね。今回の座談会でいろいろなことをテーマに話をしてきましたが、この大卒と非大卒の「分断」という点は、お二人はどのように感じていますか?
 
古屋
この前、英国在住の友人と話をした際に、「EU離脱について、”こいつは何派”なんだ、と会話で探り合う雰囲気がある」と聞きました。隣人、同僚、友人知人。何派だから、という理由で会話ができなくなってしまうというのが最も恐れるべき「分断」です。

その分断はEU離脱後も治りがたい古傷として英国を苦しめることでしょう。コミュニティ同士が対立することで、イノベーションも健全な競争も生まれず社会は活力を急激に失ってしまいます。 幸運なことに日本社会は世界でも珍しいほど、安定した社会を継続できています。

新時代を迎える日本社会を分断するとすれば、「学歴」や「地方と都市部」といった現状すでに露呈しつつある要素です。学校-職業移行に良い変化を与えることで、少しでも分断された世界が交じり合うようにしていきたいですね。
 
小松
そうですね。日本は世界と比べると「分断」は極めて小さいように思います。とはいえ、今回の座談会を通じてみて、こんなにも非大卒人材について知らなかったのかと驚かされるばかりか、自分の判断基準は自分の属するコミュニティに引っ張られるなと思いました。

古屋さんのおっしゃるとおりで、スクール・トゥ・ワークの活動を通じて、分断を回避できるようにしたいですね。非大卒人材でもある奥間さんはいかがでしょうか?
 
奥間
正直なところ、僕はこれまではあまり学歴や環境による「分断」を意識したことがありませんでした。しかし、今回の座談会を通じて、自分の過去を振り返ったり統計データを見たりしたことで、「分断」されていたからこそそれに気づかず、気づかないからこそ分断の溝は深まっているのかなと感じました。
 
小松
おっしゃるとおりで、気づかない、知らないということは「分断」は進んでいるのかもしれませんね。そういった意味では、この対談は貴重な情報ソースになるかもしれません。

このシリーズを通して、ほんの少しだとは思いますが、学校関係者、行政担当者、企業の人事担当者や学者の皆さんなどに、新しい切り口を提供できたのではないかと思います。
 

若者へのキャリア教育はどうあるべきか

 小松
これらの現状を踏まえて、当団体の主な活動である若者へのキャリア教育はどうあるべきだと思いますか? 

古屋
私たちの最終目標は「18歳の進路選択をもっと面白くする」ことだと思っています。今の日本の大人は高校生大して偏差値ピラミッドを登るルートしか示すことができていません。

しかし、これだけ産業構造がめまぐるしく変化する時代、このルートを登ることの価値が大きく低下していることは明らかです。

私たちは高校生の段階で、身近なものごとから自分のしごと人生を考えてもらうことで、キャリアの最初の第一歩を踏み出すタイミングを早めようと思っています。

このタイミングが早ければ、今、登っているルートについて早く修正するチャンスがあり、失敗もできる。日本人は一度きりの人生を、もっと楽しくエキサイティングにできる、そのための早期選択を促すようなキャリア教育を行っていきたいですね。
 
小松
「18歳の進路選択をもっと面白くする」!ワクワクしますね(笑)。
 
奥間
そうですね。僕自身、少し前までは高校生として進路選択を迫られる立場でしたが、卒業が近くなって慌てて自分の進路を探し始めたけど、進学や就職に関する情報を全然持っていなくて、とりあえず先生や親に進められた企業に就職した後すぐに離職をしていく知人を何人も見ました。それこそ一度きりの人生なのにすごくもったいないなと思います。

古屋さんがおっしゃる「18歳の進路選択をもっと面白くする」ためにも、スクール・トゥ・ワークのキャリア教育は、一方通行で自己満足なだけの授業を行うのではなく、僕たち非大卒人材の当事者が講師として話し、一緒に考えることで早い段階で学生達のキャリアを意識するキッカケづくりの場であるべきだと考えています。
 
小松
当事者ならではのコメント。ありがとうございます。座談会でお送りしてきた非大卒、特に高校就職の問題ですが、時代の流れによる制度疲労が主な原因だと思います。

時代の流れが本当に早くなってると思います。そのため、日本全体、いやもしかしたら世界全体でも似たような制度疲労が頻発しているように思います。そんな時代の中では「昔から続いているから」という理由だけでは不十分で、未来のほうを向いて、自分たちの頭で考えることが求められていますね。

さて、長々とお送りしてきた座談会ですが、最後に、スクール・トゥ・ワークの代表理事である古屋さんにまとめていただきましょうかね。お願いします。
 
古屋
お二人ともありがとうございました!こんな話があります。2000年に日本人が「日本はもう成長できない」と愚痴ると、外国人から「まだ日本はカードを一枚残しているじゃないか。”女性”というカードを」と言われました。

2010年に日本人が愚痴ると、まわりから「シニアというカードを切っていないよ」と言われました。日本の就業社会は、まだもちろん課題は多いものの、この20年で女性・シニアという二大カードを切り、就業率が大幅に上昇しています。そしてこの4月からは”第三のカード”、外国人受け入れの大幅拡大も始まりましたね。

このように、これまで女性・シニア・外国人という切り札をどんどん切ってきた日本社会ですが、最後のカードが非大卒、特に年間20万人弱の高卒の就業者ではないかと思うのです。灯台下暗しで、私は日本の若者こそが日本の就業社会の「最後の埋蔵金」になりえると思っています。

そして、今のキャリアづくりは全然当たり前ではありません。今の常識は未来の非常識、私たちはもっと面白い社会を作れるはずです。一緒に取り組んでまいりましょう!ありがとうございました!

 

「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
    大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク