「高校就職改革“実行”計画」を提言する

求められる実行計画

高校生の就職者は毎年20万人前後。大学卒は約45万人であり、高校卒の約20万人は決して少ない人数ではないことがわかる。企業の採用意欲も高く、2021年卒で2.08倍の求人倍率(厚生労働省調査)であり、これは大学卒の1.53倍と比較して高い(リクルートワークス研究所調査)。特に地方のものづくりの現場においては中核的な役割を果たしている。

このように「高校生の就職」は決して特殊な問題ではない。日本の多くの若者の問題である。言うまでもなく少子化が加速する今後の日本において、「高校生の就職」は若者が活躍する社会を作ろうとした際に避けては通れない論点である。

「高校生の就職」と言えば、生徒のキャリア形成や早期の離職・ミスマッチとの関係で問題点が指摘されている「1人1社制」が注目される[1]。しかし議論すべきポイントは「1人1社制」だけではない。学校でのキャリア教育から、就職活動、卒業後まで検討すべき論点は広範に存在する。しかし、こうした全体的な仕組みを急速に改革することは困難が多いと考えられることから、今回は新しい仕組みに移行していくための”ステップ”を提案する。

 

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「準備」×「就職プロセス」

具体的には高校生の就職について「4つの段階」を提案する。こう考える背景には、高校卒就職者のキャリア状況を分析した際に、「就職プロセス」とその「準備の環境」によってその後のキャリア形成が大きく異なることが明らかであるためである[2]。このため、まずは就職プロセスを大きく変更せずとも、就職活動の事前の準備を充実させることによって、卒後のキャリア形成に一定程度ポジティブな影響を与えられることを活用したステップを提案する。

もちろん、高校卒後の状況のデータから見た場合に、就職プロセスと事前の準備環境の双方の仕組みを改善することが望ましいと考えられる。ただ、施策を現実的に実施する上でステップは重要となる。このため、本稿の提案は、現状の仕組みから、まず「事前の準備環境」を整え、その後に「就職プロセス」を改善していくというフローとなる。

また、就職プロセスについても2つの段階を設けて現状の制度からの円滑な移行を想定する。

 

提案:4つの段階

こうした前提により提起するのは以下の4段階である。

①ショートタームの就職指導から、学校推薦・1人1社選考によって就職する仕組み
②ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人1社選考によって就職する仕組み
③ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人複数社選考によって就職する仕組み
④ロングタームの就職準備から、高校生の「希望応募」もしくはセーフティネットとしての学校推薦によって就職する仕組み

上記の4つについて現状は、卒業学年の1学期からの就職指導と学校・ハローワーク斡旋を組み合わせた、①が支配的である[3]。こうした現状認識を押さえつつ、それぞれについて詳しく見ていきたい。

 

段階① 現状の仕組み

ショートタームの就職指導から、学校推薦・1人1社選考によって就職

高校生の就職には、行政・経済団体・学校の関係者によって申し合わせられたルールが存在している。選考開始日などスケジュールから、求人票・提出書類の様式、選考方法など多岐にわたる。その中のひとつとして、選考開始から一定期間は同時に一社しか面接を受けることができないという「1人1社制」がある。この「1人1社制」という就職プロセスを規制するルールに加えて、7月に企業の求人票が出てくるタイミングに合わせて高校3年生の1学期から就職に備えた指導を行うという「ショートタームの就職指導」と合わせて現状の仕組みを構成している。実際に高校3年生まで進路が決まっていなかったとする高校卒就職者は57.2%[4]であり、就職指導が短期集中型となっている・ならざるを得ない状況を浮き彫りにする。

こうした仕組みは生徒を正規社員として就職させるという目標に際しては一定程度有効に機能していたと考えられる。また、学校推薦によって生徒が1社だけ受けられる選考先を学校が決定する方式は、生徒の勉学や部活動といった学校活動の努力を促す効果もあった。就職活動直前の数か月間にキャリアを考える機会を集中させることで、高校の授業計画や学校スケジュールにも乗りやすくなるほか、教職員の時間を有効に活用することができる。

特に、年間100万人前後の高校生が就職していった1980年代には一層有効だったかもしれない。進路指導部には地元の就職を知り尽くした進路指導主事を中核とする、複数の就職担当教員による重厚な体制が存在し、多数の就職希望の生徒たちを効率的に送り出すことができた。しかし、現在では「進路多様校」が増え、数名の就職希望者に対して「進学指導の傍らで就職指導をしている」学校も多い。特に総合型選抜やAO入試など推薦入試を中心に形態・時期が多様化しており、9月に開始される高校生の就職と推薦入試の時期が重複するという声もあった。こうした高校では十分な就職指導を行うことは難しい。結果として特に、進路多様校が多い普通科高校は専門高校と比較してミスマッチが大きくなっている[5]。なお、高校卒就職者を最も多く輩出しているのは普通科高校である(2019年卒で6万3841人)。

元々、1980年代から90年代にかけて現在よりも割合にして倍以上、数にして5倍以上という大量の高校生を短期間で企業にマッチングさせてきたこの①の仕組みは、当事者たちからの「もっとこうして欲しかった」といった消極的な振り返りに直面[6]するなど歴史的使命を終えつつある。

 

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段階② 「助走つき1人1社制」

ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人1社選考によって就職

若者のキャリア形成の第一歩目を支える仕組みに変わっていくために、高校生の就職の仕組みの段階②のポイントは、現行の就職プロセスを維持しつつ「就職に向けた準備を長くする」ことである。現状では多くの高校生が卒業学年に進路を決定し、就職指導を受けている。多くの高校のスケジュールにおいても、数回ある卒業生講話等の機会を除いては本格的な就職活動・キャリア形成の支援が開始されるのは卒業学年に進級して以降であろう。

就職活動の段階で情報量が十分でなかった場合には、早期離職率が上昇しミスマッチが拡大するという結果もある[7]。企業の情報が「不十分だった」生徒では、初職の企業を「0点」と評価する割合は実に47.9%と半数近く、早期離職率も高いことがわかる。高校1・2年から中長期的に十分な情報を生徒に提供する仕組みを構築することで、初期のミスマッチの低減に繋げることが可能である。これが、就職活動の「助走」を長くするということだ。

高校卒就職者が高校時代に受講したキャリア教育に関わるプログラムは多様である[8]。キャリア教育として多種多様なプログラムが実施されているが、就職する高校生が多く実施しているのが、企業見学・職場見学で33.1%と3人に1人に経験があった。職業体験・インターンシップも27.8%、ほか社会人の話を聞く授業や卒業生の話を聞く授業も2割程度の経験者がいることがわかる。全体としては6割弱の生徒にいずれかのプログラムを受けた経験があった。ただし、プログラムを複数種受けたことがある生徒となるとぐっと少数派となり、2種類では全体の14.8%、3種類では8.2%、4種類では9.0%であった。こうした現在までの状況を踏まえて、まずはすでに行われていることが多いプログラムの組み合わせを継続的に実施するところから始めてはどうだろうか。

具体的に、とある都道府県においてモデル事業として検討されている取組が参考となるだろう。対象校においては、学外の支援機関のサポートを通年で受ける形で、進路ガイダンスや業種別の説明会、企業で働く若手社会人との交流、自身のキャリア選択に関するアウトプットまでを高校2年生の一年間を通じて受けていく。希望者には長期休暇を活用して1~2週間程度のインターンシッププログラムも提供される。内容自体も生徒の関心や理解に合わせてローカライズされる。こうした取組によって事前準備を十分にして、高校3年生での就職活動を迎えようとしている。モデル事業は探求学習等の時間を用い、年間の授業スケジュールと抵触せず、また外部機関を活用するため無理なく実施することができる。

プログラム一つひとつには何ら新しいところはない。しかし高校2年生の通年をかけて実施することで、プログラムを組み合わせ、生徒に合わせてチューンアップしていくことができるようになる。こうした取組は就職活動のプロセスを見直すことなく、しかし確実に生徒の早期離職を減らし、その後のキャリア形成を支援できる大きな効果が期待できる仕組みである。

 

段階③ 「1人X社制」

ロングタームの就職準備から、学校推薦・1人複数社選考によって就職

段階③のポイントは、学校推薦による複数社選考によって就職する仕組みを構築することにある。

現状、秋田県、和歌山県と沖縄県を除く全ての都道府県において、就職活動の最初に生徒が応募できる企業数は1社に限定されている。しかし、就職活動において複数社比較する選考を実施した生徒には良い効果がもたらされていることが判明している。現在「いきいきと働いているか」について、複数社応募をした高校卒就職者の方が仕事に対してポジティブな状況となっていることがわかる。また、初職企業への評価点でも「0点」が15.3%まで低下(全体では24.1%)するなど、多面的に複数社応募が効果を挙げていることがわかる[9]

ただし、高校生の就職活動に生徒の希望に応じた無制限の応募を全面的に導入することは困難である。大学生と比較すると就職活動が可能な期間はどうしても短くならざるをえないために、特定の企業に生徒の応募が集中した場合に、内定を全く得られなかった生徒が再度別の企業の選考に臨むための余剰期間が短いためである。

こうした困難性を踏まえつつも就職活動における複数比較の効能との両立を考え、漸進主義的な方向性として、「学校推薦による複数社選考」の仕組みを提案する。これは、学校が一人の生徒に対して同時に複数の推薦を出すものである。指定校求人[10]による企業の採用数は「学校が推薦できる生徒の枠」ではない。また、生徒の調査書を提出する際に「推薦の理由」を教員が記載するが、具体的にその企業でないといけない理由が記載されるケースは稀である。

例えば、こう考えてみよう。1名の採用枠に3名の生徒を推薦した場合には、2名の生徒が内定を得られないこととなるが、同時にこの3名の生徒をほかの1名の採用枠の2社に推薦した場合はどうだろうか。3つの企業で3名の指定校求人枠があり、そこに3名の生徒が応募をすることとなることから、結果的には3名全員が内定を獲得することができる。採用企業もこれまでは1名しか選考できずその生徒を採用する判断しか許されていなかったところ、この仕組みであれば自社にフィットするかどうかの観点で、「選考」を行うことができる。当然ながら、生徒の内定辞退等が発生することになるが、外部機関と伴走して生徒を支援すれば大きな問題になるとは考えづらい。企業側の採用にかかる時間は増加すると予想されるが、入社後早々に退職してしまうことと比べればその手間はいかほどだろうか。せいぜい面接の回数が増え、面接後に内定を出す生徒を検討する手間と、入社後に研修やOJTを実施し何度か給料を支払ったのちにその若手が退職してしまった場合の手間とは比べるまでもないだろう。

学校と企業の採用「実績」関係を媒介にした関係性は、指定校求人による学校推薦が残るためにこの仕組みでも一定程度維持できるし、他方で生徒の意思を尊重した企業選びも一定程度可能となる。「学校推薦による複数社選考」による就職プロセスと、ロングタームの就職準備を組み合わせた仕組みが段階③である。

厚生労働省・文部科学省の高等学校就職問題検討会議が2020年に出した報告書「高等学校卒業者の就職慣行の在り方等について」でも、複数社に応募できる仕組みづくりも含めて各都道府県に検討するよう提言されており、複数の都道府県において複数社選考が検討されている状況にある。「1人X社制」と呼ばれるような方向の改革は今後続くだろう。ただし、段階②で提案した通り、ロングタームの就職準備と組み合わせる必要があることは忘れてはならない。

 

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段階④ 「希望応募制」

ロングタームの就職準備から、高校生の「希望応募」をセーフティネットとしての学校推薦が支える仕組み

初職のミスマッチを可能な限り無くし、その後も企業で長く活躍するための第一歩を支える仕組みとなるための理想像として、段階④を提案する。段階④のポイントは高校生の希望による応募制を基軸として学校推薦がセーフティネットとなり支える点にある。

段階②、段階③では解決できない大きな問題は、「学校推薦」が就職活動の根幹をなすことである。学校推薦の前提として当然に「校内選考」が存在し、生徒はどれだけキャリアパスを考え、そのために行きたい企業、働きたい職業を見定めたとしても、学校の成績や出欠席状況、部活での活動などから点数化される「校内選考」を通過しなければその企業に応募書類を出すことすらできない。当事者からの意見には、「校内選考制度を辞めて欲しかった。行きたい場所、受けたい場所があっても選考漏れすると受けられず将来のビジョンが崩れてしまう」(商業科卒、回答時38歳、女性)という意見があがっている[11]。高校生たちの主体的なキャリア形成と、どうバランスをとっていくのかは看過できないポイントである。

段階②、段階③を経て、十分な就職準備と複数社を比べて選ぶ就職活動が定着した後、実現が可能となる「希望応募制」は、生徒のキャリア形成上の希望により応募する企業を選ぶことを周りが支える仕組みを中核とし、また、希望する生徒には学校が推薦を与えてサポートする仕組みとなる。学校推薦の仕組みは、内定を得られない可能性がある生徒や、キャリア形成上志望度が高い企業の指定校求人があった場合に用いる[12]。主としてセーフティネットとしての機能である。

高校卒就職においては求人倍率が安定的に全体で1倍を大きく超えて推移していることからもわかるように、就職希望の生徒に対して求人数が大きく上回っている。このことから、セーフティネットとして就職先が一定の時期までに決まらなかった生徒に対しての学校推薦は機能する可能性が高い。特に、学校推薦で8割以上が就職先決定している現状を踏まえれば現状学校推薦で斡旋できる求人数は十二分に存在していることになる。もしこのセーフティネットとしての学校推薦が機能しないのであれば、そもそも求人数が就職希望の生徒に対して足りていないことを意味するため、段階①においても学校推薦が与えられる生徒数が限定され、公平性の観点から問題のある仕組みであることになる[13]。つまり、段階①が成立するのであれば段階④が可能である前提は整っている。

学校推薦をセーフティネットとしつつ、生徒のキャリア形成上の希望を実現するために、生徒が校内の事前選考なく応募するのが「希望応募制」である。ただし、段階③から段階④への移行にあたっては不可欠な新しい要素がいくつか存在する。

第一に、事前の準備から就職活動までを俯瞰したキャリアコンサルテーション機能である。十分な準備を活かした就職活動とするために、進路指導部に常駐する外部支援職員といった形態に留まらず、キャリア教育・就職支援全体を高校1・2年生から継続的にサポートする職員が必要となる。就職活動に関する業務のタスクアウトも含め、就職支援に係る業務の整理と外部人材の活用を本格的に検討しなくてはならない。

第二に、就職活動や準備において生徒が行う範囲と学校が行う範囲の整理が必要となる。例えば、進学においては全てのオープンキャンパスを高校教員が管理するわけではなく、模試にも同行しないし、また受験も後日結果の報告を聞くだけのことがほとんどである。願書等書類送付も生徒が各自で行うことが多い。同じ高校生の進路選択に関してこうしたことを考えると、就職指導では当たり前のように考えられている、生徒の就職活動・準備を教員の手元で管理し保護しなくてはならない、という考え方自体は本当に当たり前だろうか。外部の支援を借りながら、生徒ができることの範囲を広げていくことは可能ではないだろうか。なお、成人年齢の18歳への引き下げにより、高校卒業時点で必ず成人となっているため、全ての生徒は労働契約締結主体となる。

第三に、地域によって求人数に偏りがあるため、「希望応募」が難しい地域が出てくる可能性があり、応募機会を平準化する仕組みが必要となる。地元の求人を中核としながらも、求人を広く検索できる仕組みが必要となる。ハローワークのデータベース(「高卒就職情報WEB提供サービス」)への生徒からのアクセスを容易にする[14]ほか、外形的な文字情報のみとなっている企業情報を充実したり、また、データベースを開放し民間企業による活用を促すなどの方策が必要となるだろう。

 

就職活動を大切なスタート地点に

いまだ多くの若者が経験している「高校生の就職」の問題を放置したままで、若者が本当に活躍する社会はつくることはできない。本稿では、その具体的な解決の道筋を4つの段階に分けて提案した。

若者が本格的に減少していく日本社会だからこそ、多くの大人が若者一人ひとりに目をかけ手をかけることができる。そんな当たり前の発想が実行に移されたとき、「高校生の就職」は学校生活最後のイベントではなく、長い職業生活の大切で忘れられないスタート地点となるだろう。

 

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執筆: 古屋 星斗 Shoto Furuya
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事

 

[1] 以下の記事等が存在する。
日経新聞,2021年3月20日,「高校就活「1人1社」の弊害」,2021年4月29日閲覧
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70174580Z10C21A3EA1000/
ダイヤモンドオンライン,2019年9月5日,「高校生就活の知られざる闇ルール、1人1社制・内定辞退できない…」,2021年4月29日閲覧
https://diamond.jp/articles/-/213850

[2] リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」P.15

[3] 例えば、文部科学省,学校基本調査によれば学校・ハローワークの斡旋率は8割を超えており、かつ就職活動で「1社だけ選考」だった者は少なくとも6割前後存在している(リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」)。

[4] リクルートワークス研究所,2020,高校卒就職当事者に関する定量調査より筆者作成

[5] リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」P.16

[6] リクルートワークス研究所,2021,「『高校卒就職当事者に関する定量調査』における、就職活動でもっと学校にしてほしかったことに関する自由記述回答の一覧」を参照。無回答等を除く、1419名分の当事者の意見を掲載している

[7] リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」P.12

[8] 以下のキャリア教育受講率に係るデータはすべて、リクルートワークス研究所,2020, 「高校卒就職当事者に関する定量調査」より筆者作成

[9] 詳細については、追加分析レポート「高校就職での複数応募はキャリアにどのような影響を与えるのか」を参照
https://www.works-i.com/project/koukousotsu/viewpoint/detail005.html

[10] 高校生の採用に特有の制度で、採用企業が指定した高校にのみ求人票を開示する

[11] リクルートワークス研究所,2021,「『高校卒就職当事者に関する定量調査』における、就職活動でもっと学校にしてほしかったことに関する自由記述回答の一覧」 他にも非常に多様な当事者の声が掲載されている

[12] このため、推薦の可否は生徒のキャリア形成との親和性や職業体験参加時の状況、社員との交流時の状況など事前の準備期間における内容が勘案すべき項目となり、現在のような成績・出欠席による評価のみとはならない

[13] 事実として、リーマンショック直後に高校・ハローワークの斡旋率は通常8割前後のところ6割台まで急激に低下し、景気後退局面における段階①の仕組みの脆弱性が露呈する結果となっている

[14] 現状は生徒個々人にIDとパスワードは付与されておらず、教員に付与されている

高校卒就職の視点から見た、新型コロナウイルスの影響と懸念点

新型コロナウイルスによって緊急事態宣言が出る中、学校や企業にも大きな影響が出ています。そんな中で「9月入学制」についての議論なども出てきています。今回は、私たちスクール・トゥ・ワークが活動してきた、高校卒就職の観点から見た新型コロナウイルスの影響について、浮かび上がってきている問題点を整理し、問題提起をしたいと思います。

 

1.学校・生徒における懸念点

(1)進路指導の時間の減少

高校三年生の一学期は、進路調書等を提出して貰い、進路面談を行う就職活動の助走期間です。現在の休校措置により、この時間が大きく削られつつあります。また、高校卒就職は国によって申し合わせられているスケジュール(本年2月に策定)に基づいて進むために、7月に企業の求人票が見られるようになり、9月16日の採用選考開始に向け、一学期後半に本格化します。7月に向けて、こうした貴重な時間がなくなっているのです。

 

(2)夏休みの職場見学が実施困難に

通常、7月に求人票が出た会社について、夏休み期間中に1社程度職場見学を行うことが一般的ですが、本年は休校措置の影響で夏休み期間が縮減されることが想定されており、職場見学の機会も縮減する懸念があります。高校卒就職者にとって、この職場見学は実際の仕事の現場を見ることができるほぼ唯一の貴重な機会であるため、その悪影響は大きいです。大学卒の就職において、インターンシップや先輩社員との対話の機会が完全になくなる、と例えれば深刻度を理解していただきやすいでしょうか。

 

 

2.企業側の懸念点

(1)求人票を「6月」に提出することの困難

大きな景況感の変化に伴い、企業の採用計画は大きな見直しを迫られています。新卒採用は景気変動の影響を比較的受けにくいと言われていますが、特に高校卒就職者のメインの就職先である中小企業においては、影響がないとはとても言えません。緊急事態宣言が明けているかどうかすらわからない6月の段階で、申し合わせのスケジュールでは求人票をハローワークに提出する必要がありますが、企業が新高卒採用をするかどうかの判断がそのタイミングで可能でしょうか。また、そのための事務的手続きを行う余力があるでしょうか。

 

(2)ハローワークの「確認事務」の停滞懸念

目下、企業からの雇用調整助成金の相談や、雇用情勢不安定化による相談業務などによって各地のハローワークは極めて電話が繋がりにくい状況となっており、著しい業務過多の状態にあると推測できます。こうした業務量が溢れかえる状態で、高校卒の求人票受理・確認事務が6月に生じますが、適切な内容確認を適切なスピードで実施できるのかについても、懸念が残ります。

 

3.懸念点に対しての具体的な提案

こうした懸念のため、休校が長引いた状況で従来通りの申し合わせのスケジュールによる高校卒就職活動が行われれば、学校はほぼ対応できず、企業の体制も6月までに整わず、同時に生徒の準備も不十分となり、10月以降もたくさんの高校生が就職活動を続けているという光景が予想されます。

上記のような懸念点は、おおむね「新型コロナウイルスの影響による休校によって、一学期から準備し、6月・7月に本格化する高校卒就職スケジュールが圧迫されている」ことが原因だと言えます。

解決するためには、申し合わせられているスケジュールについて、『数か月単位の後ろ倒しを行う』ことが最も現実的な選択です。つまり、例えば休校が6月1日に解除されるのであれば、選考開始を1か月後ろ倒しすれば(つまり10月16日選考解禁として、6月から進路相談、求人票受理を7月に、8・9月に求人票確認・職場見学等を行うことができるようにする)、学校における進路相談の時間、職場見学、そして企業側の体制について十分な見通しを持って行うことが可能になります。

 

 

4.「9月入学」問題と高校卒就職

さらに現在、「9月入学」も議論されていますが、もし9月入学となった場合に最も影響を受けるのは、上記で示した通り就職スケジュールが既に決まってしまっている就職予定の高校3年生です。ほとんど就職の支援を受けられない状態で9月16日の選考解禁を迎えることとなり、差し迫ったスケジュールの中で就職を希望する生徒たちへの特別な対処なしには、到底現実的な提案ではありません。9月入学の議論の前提として、こうした高校生への直接的な支援策の検討を行うことは政策意思決定として必須の留意点だと言えます。

しかし、9月入学については「大学受験との関係は・・・」とか「留学者が・・・」といった議論はありますが、高校卒就職との関係に触れた論は見当たらず、年間17万人もの高校生が就職し、20代の社会人の20%を占める高校卒就職者に対する社会的関心は不当に低い状況が続いています。まさに『社会の忘れ去られた部分』(アメリカで1990年代に出された高校卒就職者に対する報告書のタイトルは『社会の忘れ去られた半分』でした)となっています。

新型コロナウイルスと高校卒就職について、目前に迫った大きな問題に対処することは喫緊の課題ですが、これと並んで高校卒で社会へ出ていく若者たちを大学卒と同じ未来を担う若者として応援する土壌を作っていくことも重要な課題であると痛感しています。

 

(一部の写真出典:写真AC

 

古屋 星斗(ふるや しょうと)

1986年生まれ。大学院修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、未来投資戦略策定等に携わる。2018年にスクール・トゥ・ワークを創設。『早活人材』を中心とした若者のキャリアを支援するとともに、リクルートワークス研究所において次世代のキャリア形成を研究する。

『早活人材』が作る、日本の未来【年度始め所感】

出典「写真AC

 

早活人材』を知っていますか?

これまで「非大卒」と呼ばれていた高校卒就職者を中心とした社会人たちを
 ◎ 早く職場で活躍している
 ◎ 早く社会で活動している
 ◎ 早く就活をした
など、「早く社会に出た」という“事実”に焦点を当てた言葉です。

私たちスクール・トゥ・ワークは、これまで「大卒」が理想であるという価値観のもと、「大卒ではない」=「非大卒」と言われていた『早活人材』が、もっとわくわく活躍できるようになるために、どのような社会であるべきかを考え、一歩一歩取り組んでいます。

『早活人材』は若手社会人のおよそ半数を占めています。
しかし、例えば半数のうちの半数(全体の25%)を占める高校就職について、社会はどれほど関心を持っているでしょうか。

大学生の就職活動については、スケジュールも、ルール変更も、ひとつひとつが大きく報じられ、行政・教育・メディア・民間企業まで様々な人が議論に参加しています。

しかし、高校生がどのように就職しているのかについて、メディアで取り上げられることはほとんどありません。

私たちは、18歳人口が今後15年で20%近くも激減する日本で、忘れられた若年層である『早活人材』が本気で活躍することが、社会を面白くするためのカギになると思っています。

そんな『早活人材』が本気で活躍する世の中は、たぶんこのような社会です。
 ◎ 高校を出て就職して、仕事の中で「これを本気で勉強してみたい」と感じた人が、奨学金や助成金を使って、大学や大学院に進学していく
 ◎ 高校でインターンシップに行った会社にそのまま就職し、同時にオンライン大学で学ぶ“10代にしてパラレルキャリア”を形成する若者が多数派となる
 ◎ 『早活人材』と同年代の大学生が、互いの長所と短所を理解し尊重し合って、シナジーを発揮する
 ◎ 高校1年生の時から、「職業」や「偏差値」だけではなく、「自分の人生・キャリアについて向き合う時間」が授業として設けられる
 ◎ そして、ひとりひとりの若者が“大人から押し付けられる”のではなく、“大人から最大限のサポートを受けて”納得感をもってキャリアを選択していく

「非大卒人材」から『早活人材』へ。

私たちは『早活人材』にこうした意味を込めています。しかし、これから起こっていく変化こそが『早活人材』の真の意味を創っていくことになるでしょう。そして彼らの力は、日本の未来にとって欠かせない大きなものになるはずです。

皆さんが描く社会の未来図にも、『早活人材』を加えてみてください。きっと、その未来図に、ちょっとだけ笑顔が増えるのではないでしょうか。

 

古屋 星斗・森川 剛

 

古屋 星斗(ふるや しょうと)

1986年生まれ。大学院修了後、経済産業省に入省。産業人材政策、未来投資戦略策定等に携わる。2018年にスクール・トゥ・ワークを創設。『早活人材』を中心とした若者のキャリアを支援するとともに、リクルートワークス研究所において次世代のキャリア形成を研究する。

森川 剛(もりかわ ごう)

1994年生まれ。高校卒業後にお笑い芸人を経て現在は20代のキャリア支援を行う就職エージェントでキャリアアドバイザーをするとともに、一般社団法人スクール・トゥ・ワークで活動している『早活人材』。

元非大卒人材の僕

学生及び早活人材に対するキャリア教育事業等を行う一般社団法人スクール・トゥ・ワークでは、2019年1月22日から3月31日までに、主に中学校卒・高等学校卒・専門学校卒・高等専門学校卒・短期大学卒や大学中退などの人材と定義される「非大卒人材」に代わる新名称の募集をしておりました。

応募総数166個の中から、当団体で事前審査を行い、7月13日に開催したイベント「ハッシャダイ × スクール・トゥ・ワーク~18歳の進路選択~」vol.1において、学校の先生などを中心に参加者の方々にご投票いただいた結果、新名称が「早活人材」(そうかつじんざい)となりました。

自己紹介が遅くなりましたが、僕は、1994年生まれ、森川 剛(もりかわごう)です。最終学歴は高卒。冒頭で紹介した「早活人材」になります。

今回は、元「非大卒人材」であり、名称変更して、新たに現在「早活人材」となった”当事者”である僕の視点から少しお話をさせていただきます。

職業選択の自由が無く、辞退が許されない非大卒人材

僕は現在、20代に特化した転職エージェントでキャリアアドバイザーとして日々、20代の求職者と面談をしています。

そんな僕も最終学歴は高卒であり、いわゆる「非大卒人材」でした。

周りからは驚かれるのですが、2017年まではお笑い芸人としても活動をしておりました。

おそらくあまり芸人っぽくない振る舞いだから驚かれるのかもしれません。

もっと芸人時代のことも書きたい気持ちもあるのですが、今回は僕の高校就活時代の話を書いていきます。

僕は高校では学年で下から2番目という成績で高校最後のテストを終えました。

お世辞にも勉強ができる学生ではなかったので、今思い返しても、卒業後の進路も大学進学という文字は浮かんでいなかったと思います。

当時からお笑い芸人への憧れは持っていたものの、相方候補がいた訳でも無く、自分がボケなのかツッコミかも分かっておらず「芸人になる」という選択肢はありませんでした。

消去法の結果、就職という選択肢が残りました。

就職のことなどまるで分かっていなかった僕ですが、幸い自分よりも先に就職活動を行なっている友達がいたため、あれこれ尋ねて、進路相談室までたどり着くことができました。

本来であれば、ここで求人を紹介してもらい急いで面接を受けるのですが、僕は高校から斡旋される求人は受けず、自分で求人サイトから応募をしてIT企業の営業職へ内定を得ました。

斡旋された求人を受けなかった理由は、「決められた求人しか受けられない」からです。

ご存知の方は少ないかもしれませんが、高校生の就職活動はルールが決められております。

都道府県によって若干変わりますが、僕の高校では成績表の評定が良い生徒から順番に求人が渡されます。

学年で下から2番目の成績の僕に紹介される求人は、いわゆる不人気の企業となります。

勉強はできないが、誰よりもわがままだった僕を満たす求人はそこになく、結果として自分で求人サイトから探しました(笑)。

僕のように先生の制止を振り切って行動できる人はそれで良いかもしれませんが、多くの高校生は、業界や市場のことなど分からず、先生の言う通りに卒業後の進路を決めていきます。

特に驚きなのが、内定獲得後に辞退ができないということです。

正確には、「辞退という選択肢を知らない」のです。

高校生の就職活動において、「内定=入社確定」なのです。正直にいうと、生徒たちに明確な志望動機などがあるとは思えません。

その現れなのか、大卒の新卒3年以内の離職率が30%に対して、高卒の新卒3年以内の離職率は40%となっています。

これが現状です。

非大卒人材から早活人材へ

令和になり、僕のような主に大卒以外のキャリアの人々の名称が「非大卒人材」から「早活人材」に変わりました。

しかし、名称が変わっただけでは意味がないと思っています。

最後に僕が考える「早活人材」のキャリアについて書かせていただきます。

①キャリアについて考えるには下地から

先ほど高校生の就職活動には制限があり、好きな求人を受けることができないと書きました。しかし、この求人の制限を解除したからといって、離職率に変化があるとは思えません。

また、急に職業選択の自由を与えても、そもそも業界や市場について知らないので、どこへ行くと自分の思うキャリアを歩めるのか、自分の考えるキャリアは市場感とズレていないかなどというジャッジができないと思います。

そこで、まずは「キャリアについて向き合う、考える時間を増やす」ことがファースト・ステップだと思います。僕はこれを「My Life思考」と呼んでいます。

学校によっては、高校3年生からキャリアについて考える授業などを設けていると聞いたことがありますが、卒業後の進路について高校3年生になっていきなり考えるというのは無理があると思っています。

そこで、高校1年生の時から「キャリア教育」をカリキュラムに追加すべきだと思っています。

「My Life思考」は他の教科と違って、答えがない勉強になるので、だからこそ1年生から向き合う、考えることに慣れる必要があると思います。

また、先生だけがその授業を担当するのではなく、民間企業の社会人を講師に招いたり、キャリアコンサルタントを招いたりして、新たな価値提供の場として設けるのも大いに良いと思います。

②キャリアについて下地をつけた上で職業選択の自由に

「My Life思考」を通じて、下地ができたところで、高校就活のルールを変えるべきだと思っています。

・受けられる求人数の改善
・夏休みなど長期インターンの実施
・企業の人事、先生以外の大人によるコーチング

18歳の生徒一人にキャリア選択を押し付けるのではなく、周りの大人が最大限サポートをして納得感を持って彼らが次のキャリアを歩めるようにしたいと思います。

「非大卒人材」から「早活人材」へ。名称の変更とともに、いい方向に変わっていけるように頑張ります。

 

非大卒人材の新たな呼称、「早活人材」について

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク

 スクール・トゥ・ワークでは、これまで日本社会において「大卒」との比較によって「非大卒」と呼ばれてきた若い世代の人々を「早活人材」と呼んでいます。これは、学歴や学校歴によって個々人のポテンシャルや力を表現するのではなく、期就職動人材」、「期職業動人材」や「躍人材」といった自分が起こした“アクション”に対する略称として表現したものです。

つまり、「早活人材」とは、「キャリアを早いタイミングで選択した人」という時間軸に重きを置いたものでもあり、若者が主体的にキャリアを選択したといえる名称と考えています。

 

「早活人材」が生きていく職業社会について

この社会、特に職業社会は、大きな変化の時代に入っています。産業構造の大きな変化、人生100年時代の到来、そしてAIや5Gなど革新的技術の登場。こうした社会の中で、「40年同じ会社で働き続ける」、「20年かけて課長を目指す」、「10年下積みする」といったこれまでの日本社会で当たり前だったキャリア形成のプロセスは、すでに若い世代にとって説得力と求心力を失っています

その中で、人生100年時代のキャリア設計は、「学校→会社→引退」という3ステップから、より多くのステップを持つものに変化していくでしょう。誰もが「学校のあとに会社勤めをして引退」という社会は終わったのです。そんな社会で、最も大きな学びのモチベーションはどこから生まれるでしょうか。学校の机の上からでしょうか。働いて生まれる、「もっと学校で勉強しておけば良かった・・・」という気持ちは多くの人が持つ後悔でもあります。そう、働いて初めて大きな学びのモチベーションが生まれるのです。「早活人材」が持つ、「早く職業活動をする」、「早く活躍する」ということは、実はこれからの時代のキャリアづくりのキーポイントでもある、私たちはそう考えています。スクール・トゥ・ワークに関わる多くの「早活人材」からも、「大学で学びたいことがある」、「大学院(!)で研究をしたいことが見つかった」という話を聞くことが多くあります。早活人材は、昭和時代からのレガシーである“3ステップ人生”の次を切り開く可能性を秘めているのです。

 

「早活人材」から始まる、日本のキャリアづくり革命

現在の高校卒業者の就職には大きな問題がたくさんあります。「就職させる」ことがミッションである学校・ハローワークと、「自社で働かせる」ことがミッションの会社の二者では、もはや彼らを支えきることはできません。自分のキャリアを作るということ。自分の人生を振り返って自分のこの先の人生を決めていくということ。十分な支援があれば「早活人材」には、会社も、学校も、親も決められないことを、自分のアクションを土台にして決めていくことができる、そんな潜在力を感じています。

また、日本人の大学進学者のほとんどは20歳前後の就職活動時になってようやく自身のキャリアについて考え始めます。その後の就活を経て、結果として3割の大学生は3年で離職しています。高校で就職するかどうかに関わらず、早くキャリアに関する活動を開始することは、これからの若い世代のキャリアづくりの大きなポイントとなっていくことでしょう。

日本においては長く、学校空間と企業社会が分断されていました。使う言葉も、評価される力も、目指すものも異なる二つの場。この二つを繋ぐ“スクール・トゥ・ワーク(学校から職業へ)”の穴は、企業における新卒一括採用と一斉研修、OJTによる教育システムといった、「企業が若年社会人を受け入れてコストをかけて育成する」という仕組みによって埋められていました。しかし、現代社会においては企業にその余裕はなくなっており、新卒採用よりも中途採用の割合を高めるという方針を打ち出す大企業も現れています。「学校→会社→引退」という仕組みは、制度疲労を起こし崩壊が迫っているのです。

折しも、これまで120万人弱を保っていた日本の18歳人口は、2020年から急激に減少します。若者の数が急減し、キャリアづくりも大きく変わりゆく時代。社会を担う貴重な若者である「早活人材」がどう活きそしてどう活かすのか、もう模範解答を漫然と受け止めていれば良い時期は終わりました。みなで考えなくてはならないときがやってきたのです

 

 

古屋 星斗

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事 

1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。

高卒就職、「一人一社制」は必要か

高卒就職、「一人一社制」は必要か

(総動員体制下で制定された“労務調整令”。80年前に作られた斡旋体制が、2019年現在も高校生の進路選択を拘束している)

 

高校生就活の3つのルール

 

高校生の就職活動は、大学生の“就活”とは大きく異なることをご存じだろうか。合同説明会も、インターンシップ説明会も存在せず、「内定長者」やESを何社分も書く、といったものもない。

そして現代の就活で見ない大学生はいないであろう大規模な「就活ポータルサイト」も存在しない。
 
では日本の高校生はどのように就職活動をしているのだろうか。大学生の就活と比べると大小多数の違いがあるものの、高校生の就職活動を知るために押さえておくべきは、以下の3つの「ルール」の存在であろう。

第1のルールは、スケジュールに関するルールである。毎年7月1日に企業による学校への求人申し込みが始まり、7月下旬以降の夏休み期間に会社見学・職場見学を実施、9月5日に生徒の応募書類提出開始、9月16日に選考・内定解禁というスケジュールが政府等関係機関によって定められ厳密に運用されている。

第2のルールは、「一人一社制」である。9月5日の応募書類提出から一定の期間(10月1日までと決まっている)は、一人の生徒が一つの会社にしか応募することができない。2003年以降に緩和され10月1日以降は複数社応募が可能となっているが、それ以前は厳密に一人の生徒の複数社同時応募は不可能であった。

第3のルールは、「推薦指定校制」による求人事前選別の仕組みである。高校で生徒に紹介される求人については、会社がオープンに応募している求人が提示されるのではなく、高校に寄せられた求人から選ばれるという慣行である。

この3つのルールのうち、第3のルールである「推薦指定校制」はインターネットの浸透もありかなり緩んでいるという指摘もある(ただし、当方が最近高校卒業した者にヒアリングしたところ、就職指導室にあった紙のファイルの10数枚の求人票から選んだ、という話を複数人から聞くことができており、「推薦指定校制」に近い状態は現在でも残存しているものと考えられる)。

その中で、本稿ではいまだ多くの都道府県において厳密に運用されている、「一人一社制」について考えたい

 

一人一社制はなぜあるのか

 

一人一社制はどういった理由で存在するルールなのだろうか。文部科学省、厚生労働省の通知や各都道府県での申し合わせを見ると、「求人秩序の確立」、「適正な選考・推薦の実施」、「健全な学校教育」、「新規学校卒業者の適正な職業選択」といった理由が挙げられている

つまり、一定のルールに則って就職活動がなされることで、高校生の学習環境を保ちつつ適正な選択を促す、というのが規制の趣旨となっていると理解できる。

また、一人一社制がここまで一般化しているのは、高校とハローワークによる高校生への職業斡旋が一般的であるためであり、実に現代でも80%以上の高校生が高校・ハローワークの斡旋によって就職している。

その歴史的な経緯としては、第二次世界大戦中の総動員体制下において、学校が戦時動員により工場等に学徒を斡旋する機能を持ったことに起因すると考えられる。

具体的には1941年12月の労務調整令により、国民学校卒業者は国民職業指導所経由での就職のみに限定されることとなった。

この学校・国による斡旋体制の確立が、戦後の中学・高校における学校・ハローワークの「全員斡旋体制」に繋がっており、2019年現在も高校に残っているものと考えられる

歴史的な経緯は時として本質を歪ませる。「求人秩序の確立」、「適正な選考・推薦の実施」、「健全な学校教育」、「新規学校卒業者の適正な職業選択」といった趣旨を達成する制度としての在り方については議論の余地があるといえよう。

 

一人一社制は「弱いルール」

 

現代においても、多くの学校現場で厳密に運用されている一人一社制であるが、ルールとしては実は「弱い」。

高校生就職活動については、二段階の規制が行われている。一段階目は、文部科学省と厚生労働省が共同開催する「高等教育就職問題検討会議」決定の「通知」による規制である。

ここではスケジュールのほか、全国統一様式の応募書類、さらには求人票にはハローワークの確認印が必要である、といった細かいことまでが決定されている。この一段階目ですら、法律(国全体の規則)や政省令(政府が作る細かい規則)といったものではなく、あくまで法的根拠のない「通知」である。

しかし、スケジュールにしろ、全国一律の応募書類にしろ、80%以上の高校生がこのルールに従って就職活動を行っている事実を踏まえると、事実上の規制として強い効力があると言えよう。

二段階目は、各都道府県の高等学校就職問題検討会による「申し合わせ」である。「申し合わせ」において、「一人一社制」や面接の際の質問内容の制限などとった国の「通知」で決まっていないことが定められる。

こちらは国による事実上の規制ですらなく、各自治体によるものであり、法的根拠も全くない極めて弱いルールであるといえよう。

しかし、弱いルールである一方で、多くの高校生、そして採用する企業がこのルールに縛られており、事実上の規制として効力を発揮していることには変わりがない。

 

一人一社制はこれからの日本に必要か

 

論点ごとに検証してみよう。

  • 『未成年である高校生に対して、大学生と同様の就職活動をさせることは難しいのではないか』

このようなパターナリスティックな姿勢は年齢や学習期間の差異があるため一定程度必要であると考えるが、そのためにはむしろ「選択肢の選び方」や、「確認すべき点は何か」、など企業の選び方やキャリアづくりについて大学生より手厚く指導することを行うべきであろう。

そうしたプログラムなしに、行動する選択肢自体を一律で減らしてしまう規制は、職業選択の自由を過剰に侵してしまっている疑念をぬぐうことはできない

より軽易かつ効果的な方法で達成することができる論点であると考える。また、民法改正により成人年齢も18歳に引き下げられることも、この疑念を後押しする。

 

  • 『たくさんの企業との面接が行われると学校の勉強ができなくなるのではないか』

既に厳密なスケジュール規制が敷かれているため、学業期間については一定程度担保されていると言えよう。一人一社制をなくした場合には、9月16日の選考開始以降、数日から数週間に渡って選考が断続的に行われる可能性があるが、採用したい企業に対する「選考時間ルール」(学事日程に影響のない日程とすること、などとし、放課後時間などの実施をルール化する)により、こちらもより軽易な規制による効果的な方法で達成することが可能である。

もしくは選考開始日時を1か月前倒しし、夏季休暇期間とすることでも当該論点は解消する。なお、就職難の状況下においては多くの学生に無理なく就職の機会を与えるという点で、一人一社制は一定の合理性はあったものと考えられる。

しかし、現在のように採用需要が旺盛で学業を比較的圧迫することなく短期間で就職活動と進路決定が可能な状況においては、徒に生徒の選択権を限定するものとなっていると言わざるを得ない。

 

  • 『一人一社制は企業の効率的な採用に貢献している。もしなくせば企業の人材獲得が困難になる』

特に採用難に直面している地方・中小企業において、このポイントは大きな問題となっている。決まった学校から、決まった数の若者を確保できる高卒者採用の仕組みは企業側のメリットが大きい。

一人一社制は、「選考が、生徒あたり一社にしか許されない」、という仕組みとも言い換えることができ、企業の採用にとって非常に厄介な「内定辞退」を無くすことができるのである。

ただし、この仕組みによって入社した生徒は本当にその会社で仕事することに心から納得しているだろうか。高卒者の入社後3年後離職率は実に40%であり、これは大卒者の30%より10%も高い水準にある。

育ててもすぐ辞めてしまう、早期離職のこの10%の差が「選択していないこと」に起因する差であるとするならば、他の会社も見てそれでも自社に魅力を感じてくれた、という仕組みにすることが状況を改善するのではないだろうか。

また、会社側も現在より多くの生徒と会うことができ、自身の目で自社にフィットする学生を探すことができよう。むしろマッチングの場の貧しさが問題であり、一人一社制によって当該論点が解決するものではない

 

求められる、行政による主体的な「新たなルールづくり」

 

本稿では簡単に、一人一社制を取り巻く状況と課題を整理してきた。触れているとおり、一人一社制は「弱いルール」であり、行政として「規制しているつもりはない」と言える性質のものであるし、現時点で民間企業が高校生の採用市場でビジネスを行うことは全面的に自由である。

しかし、「規制していないからやれることがない」ことはない。高校生の就職・初期キャリアづくりには極めて大きな問題が多数存在しているのである(早期離職の多さ、就職業種の産業構造から乖離した偏重など)。

少なくとも80%以上の高校生とその採用をしている多数の企業が、事実として「ルール」に基づいて就職活動をしている現実を直視したうえで、より行政には積極的な役回りが期待されているといえよう。

国際的にも高い水準にある高校生の就職率を維持しつつ、よりフィットした就職先を選ぶことのできる仕組みについて、日本全体で人手不足が極めて深刻化している今、まさに議論する時が来たのではないだろうか。

 

書き手:古屋星斗
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事
1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。