変わる学校から仕事への第一歩(第8回 ハローワークの役割)

一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。

前回 変わる学校から仕事への第一歩(第7回 現在のキャリア教育)

 

人や地域によって距離のある「ハローワーク」

小松
第8回のテーマは「ハローワークの役割」です。2人はハローワークには行かれたときありますか?
 
古屋
東京だと飯田橋や後楽園に行った際に「あ、ハロワだ」となりますが、実は東京のハローワークは入ったことがないですね。仕事柄、何年か前ですが、ヤングハローワークやジョブカフェを訪問したことは何度かあります。

失業給付などを得るためには行かなくてはなりませんが、転職市場も活況で、転職先が決まってから退職する人が多いですから、若い人には縁遠い感じはありますね。

奥間
僕はハローワークにはまだ一度も行ったことがありません。地元にいた時も、周りにいた友人が失業給付を得るために通っていたのを聞いていたので、なんとなく場所は把握している程度です。

実際に行ったことはありませんが、興味本位でハローワークが出している求人サイトを見たことが何度かありますね。
 
小松
なかなかお二人にはハローワークは馴染みの遠い存在ですかね(笑)。私は長年にわたり地方で企業再生をしていた経験があるので、ハローワークを通じた採用活動を沢山やった記憶があります。

東京の若手社員からすれば信じられないかもしれないですが、地方では、民間の人材サービスではなく、ハローワーク経由での転職活動がまだまだ当たり前なんですよね。

東京だとハローワークは失業給付の手続きに行くといったイメージでしょうか。古屋さん、ハローワークの役割と歴史を教えてもらっていいですか?
 
古屋
現代からは想像つきがたいですが、人身売買や奴隷など、人間の労働の斡旋には実は暗い歴史がありました。西欧においてこうした動きを無くしていくべく、労働者の斡旋を国家の独占事業にする動きが起こります。

日本では戦後、職業安定所=ハローワークとして制度化したのですね。ですから今でも労働者の斡旋ビジネスを行おうとする事業者は厚生労働省の許可が必要になっています。

ただ、厚生労働省は高校生向けの職業斡旋について、「民間事業者を排除するものではない」と2000年代の規制改革会議で発言していまして、これは事実のようです。

ですから、今いくつかの事業者は活動されていますね。ただ、割合としては圧倒的に学校・ハローワーク経由であるという状況はここ30年ほど変わっていません。

小松
先生ありがとうございます!そろそろ、この分野については、池上彰さんになれますね(笑)。 さて、みなさんで、改めて学校・ハローワーク経由の高校生の就業データを見てみましょう。

なんと85%が学校・ハローワーク経由となっています。昔はもっとこの数字が高かったということでしょうか?
 
古屋
いえ、実は昔からあまり変わっていないのです。2010年前後に一時的に下がった時期があるのですが、どうやら景気が悪くなって非正規職の就職が増えた時期のようですね。

ですから、正規の社員への就職ルートは昔から学校・ハローワーク経由ということですね。
 
小松
そこは意外ですね。インターネットの発展で徐々に100%から下がって、現在85%なのかと想定していました。高卒就職におけるハローワークの役割は、具体的にどのようなものでしたか?
 
奥間
高卒での就職活動は学校・ハローワークが当たり前でした。なんとなくですが、学校や国が絡んでいるところなので、安心して就職先を探せるのは学校・ハローワークだと思っていました。
 
小松
具体的には、ハローワークは何をしてくれるのですか?
 
奥間
僕自身が実際に高卒で学校やハローワーク経由で就職した訳ではないので詳しくはわかりません。僕も高校生だった当時を振り返ると、高卒就職におけるハローワークの役割は、唯一高卒者と企業を正規雇用という形で繋いでくれる手段でした。

唯一というのも、そう思い込んでいただけかもしれませんが(笑)。
 
小松
いつも正しいことを教えてくれる学校の先生が「ハローワーク一択」で話を進めてきたら、そりゃ唯一だと思いますよね(笑)。これだけネットが進化し民間の人材会社も増えてまいりました。ハローワークが時代に合わせて改革していることなど変化はあるのでしょうか?
 
古屋
ハローワーク自体は幾度の改革をふまえて機能が充実してきているのは確かです。例えばヤングハローワーク、マザーズハローワークなど、利用者のニーズを踏まえた取組がなされるようになっています。

もちろん、ハローワーク改革は常に議論があり、そもそも職業紹介を国が行っていること自体が変だと思う方も多くなってきているようです。

もちろん、国が行っていることについては歴史的経緯がありますが、このあたりの話は完全に今回のテーマから外れますので専門の方々にお任せしましょう。

その中でひとつだけ間違いなく言えるのは、高校生の就労という点においてハローワークの機能は半世紀前と全く変わっていないということです。インターンシップの斡旋や生徒さんのキャリアコンサルティングなどはもちろん行っておりません。

あえて言うのであれば、各県で登録制のインターネット求人検索サービス「高卒就職情報WEB提供サービス」を作ったことが唯一の変更点でしょうか。

なお、このサービスは携帯電話で見られないという衝撃のWEBサービスでもあります(笑)。
 
小松
今どきの高校生じゃパソコンはむしろ使わずスマホですからね。時代に取り残されていますね。ハローワークが高校就職において価値を出せていないこと、時代にフィットしていないことはこのようなメディアで情報発信をすることとして、私たちは直接、若者たちにキャリア教育を届けてまいりましょう(笑)。

 

「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
    大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク

変わる学校から仕事への第一歩(第7回 現在のキャリア教育)

一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。

前回 変わる学校から仕事への第一歩(第6回 離職した若者はどこへ行くのか)

現在のキャリア教育はどうなっているのか

小松
第7回のテーマは「現在のキャリア教育」です。 今までの対談で、なんとなく現在の若者たちのスクール・トゥ・ワークに問題があることやキャリア教育の必要性については、読者の皆さんにも伝わってきたかなと思います。では、現在のキャリア教育はどうなっているのでしょうか? 奥間さんは受けたときありますか?

奥間
キャリア教育といえば、学生の時には、年に数回ほどキャリア講演会があったのを覚えています。同じ地元や学校の卒業生で活躍している方を呼んで話を聞くというような感じです。

とはいっても通っていた高校はスポーツが盛んだったので講師はいつもスポーツ選手の方などであまり自分のキャリアを考えるきっかけにはならなかったですね(笑)。

小松
そうなんですね。私のイメージも活躍しているOBが来てお話をしてくれるぐらいのものです。古屋さん、現在のキャリア教育はいかがでしょう?

古屋
キャリア教育の歴史は浅いようで古く、20世紀末の1999年には文部科学省の中央教育審議会でキャリア教育の言葉が出てきています。そして2004年は「キャリア教育元年」と呼ばれ学校空間における職業体験などが一気に浸透しました。

それから15年も経っていますので、今の20代前半の方たちは中学校くらいからそういった授業を受けている、いわば”キャリア教育ネイティブ”と呼べるかもしれません。

ただやっている内容は地域や学校によって様々で、座学や講演、会社訪問、簡単な職場体験などが中心となっています。インターンシップは大学生向きかと思われるかもしれませんが、数週間以上の長いプログラムを高校生向けにやっている企業も出始めています。

学校を超えた空間からもたらされるのがキャリア教育の授業です。その際、一つのことを深くやる、というよりは”きっかけ”となるような幅広い出会いを提供されるタイプのものが価値があったとおっしゃる方が多いですね。

例えば、まさに奥間さんは学校の課外授業で行われたJICAの若いスタッフさんの講演に心を動かされて、一切してこなかった英語の勉強を始めた、とおっしゃっていましたね。

奥間
それでいうと僕はキャリア教育ネイティブなんですね(笑)。古屋さんからもあるとおりで、僕は高校1年生の時に、放課後の課外授業で行われていたJICAスタッフの講演会へ参加したことが初めて自分のキャリアについて考えるキッカケになりました。

課外授業へはあまり参加する方ではなかったのですが、その時は好奇心もあり、たまたま参加しました。この講演を聞いてからは、正規留学という目の前の目標ができ、今まで一切してこなかった勉強をするようになりました(笑)。

高校3年間はそのために勉強を頑張り、3年生の時には学年で一番早く進路決定をしました。今振り返ってみると、あの時の講演会があったから今に繋がっているのかなと思います。

古屋
たまたま参加した講演会でビビっときた。完全に偶然の産物ですが、一つの授業が一人の人生を変えたわけですね。ちなみに、そうした講演会以外にキャリア教育的なことを行ったことはありましたか?

奥間
そうですね。普段は放課後にまで講演会に参加することは滅多にありませんでしたので、本当に偶然だったのかもしれません(笑)。その他はというと、始めの方でお話したような、スポーツで活躍しているOBの話を聞く講演会などがほとんどでしたね。

あとは、某教育系の民間企業が出しているマークシート式の適職・適学検査を受けさせられました。あまりはっきりとは覚えていませんが、「どのような大学が向いているか」が答えで、とても違和感を覚えた記憶があります(笑)。

小松
キャリア教育は実施されていることは分かりましたが、理解度といいますか、効果についてはいかがでしょうか?キャリア教育を実施したところ、実施前と比較して、統計的にも改善が見られたなどあるのでしょうか?

古屋
キャリア教育の効果は様々な視点から学術的な検証がされています。大小いろいろな意見がありますが、共通の見解としては単なる座学よりは、簡単でも良いので何かアクションを伴った方が効果があるということです。

ただ、出口が高校卒業時の進路選択の姿勢や大学入学後の活動、就職先など、かなり短期的な視野にとどまっていますから、よりキャリアづくり全体にどういったキャリア教育がより良い影響を与えるか、という意味では今後の検証が必要な分野だといえます。

その意味では、まだまだ試行錯誤の黎明期にあるといえると思いますね。

小松
大卒の方々が感じる中学や高校就職方法の違和感の根底にあるものは中卒・高卒就職者のキャリアへの捉え方もあるように思います。キャリア意識があれば、なぜ私たちは1人1社なのか、なぜ製造業ばかりなのかなどなど中卒・高卒就職者がもっと声をあげていいように思います。

若者たちのより一層の活躍のためにもキャリア教育は欠かせません。社会変革を目指すと制度を変えようという話になりがちですが、それだけに留まることなく、若者たちにも自分たちのキャリアをしっかり考えてもらいたいですね。

 

「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
    大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク

変わる?学校から仕事への第一歩(第6回 離職した若者はどこへ行くのか)

一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。

前回 変わる?学校から仕事への第一歩(第5回 「七・五・三」現象)

離職した若者はどこへ行くのか。

小松
第6回のテーマは「離職した若者はどこへ行くのか」です。前回、古屋さんがこの点のデータはないとおっしゃっているにも関わらず、この点を深堀りしていきたいと思います(苦笑)。

奥間さんは、この離職した若者たちは、感覚では、アルバイトや派遣社員などの非正規雇用の形で働いているとおっしゃっていますが、転職活動をどのようにしているのかなども含めて、もう少し具体的に事例なども踏まえて教えてもらえませんか?

奥間
僕が知る限りでは、離職した友人たちのほとんどが再就職せずに、アルバイトなどの非正規雇用の形で働いてます。具体例にいうと、これは僕の地元沖縄特有なのかもわかりませんが、 ほとんどが県外にある製造業の会社の工場作業員として、半年や一年などの有期で働いています。

いわゆる出稼ぎのような感じで、コンビニなどに置いてある求人情報誌やハローワークの紹介などを通じて応募しているようです。

小松
たしかに出稼ぎについては、沖縄という地域性もありそうですね。私も大学を出て社会人になって15年ですから、アルバイトはだいぶ昔の感覚です。正規・非正規問題について、古屋さん、教えてもらえませんか?

古屋
現在の日本で雇用されている人の4割ほどが非正規雇用者です。非正規という言葉を使う際、何がそもそも「正規」なのかと言われますが、フルタイムの労働契約で契約期間が無期の社員が正規雇用なんでしょうね。

90年代以降、非正規と言われる働き方の人が増えましたが、所得水準が低いだけでなく、結婚や子どもの有無に至るまで、正規と非正規で差が生まれています。

非正規問題はとても大きな問題であり、この場で全体を語ることはできませんが、一つだけ知っておくべきは、”不本意非正規”問題です。非正規にも自分からやりたくて非正規的な仕事をしている人、そうでない人がいます。

景気が悪かったためなど、不本意に非正規労働をしている人のほうが社会が救済するべき優先順位は高いということですね。いわゆる就職氷河期世代にはこの傾向が強いと言われ、結果として団塊JrのJrが生まれなかった問題として日本の人口減少を決定づけましたね。

現代においては正規雇用でも人手が足りないので不本意非正規は減っていると言われます。ただ、個人的には非正規を選択している理由も様々で、好きな時に仕事ができて楽そうなど、先の見通しがない”本意非正規”は将来的に大きな問題を生む可能性があると思っています。

小松
確かにそうですね。パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など働き方の選択肢が増えること自体は良いことだと思います。本来、正規・非正規の問題は、不本意な非正規問題ですね。

また、古屋さんのおっしゃる、好きな時に仕事ができて楽そうなどの理由からの”本意非正規”は危ないですね。これは働き手のリテラシーの問題もあるように思います。楽な代わりにリスクがあるわけで、そのあたりの理解は必要に思います。

正規・非正規という観点では、学歴、男女比、年齢、業界別などのデータはあるのでしょうか?

古屋
残念ながら、総務省「労働力調査」などをみると、学歴が高卒の方のほうが大卒の方よりの非正規の若者が多い結果になっています。しかし男女差が大きく、男性は5%ほどの差ですが、女性は30%ほども離れていたりします。

また、入職時点での景気の影響などで非正規の多い世代はやはりあって、就活が「運ゲー」だと言われる所以になっています。もちろん産業種別によって非正規の方の比率は全然違いますし、求められるスキルレベルも違います。

情報通信分野のように派遣社員で時間単価が6,000円、といったハイパフォーマーがいる分野もあります。正社員だけが必ず最適解、というのはかなり狭い見方とも言えます。キャリアの方向性によって良い働き方や雇われ方は全然変わってきますから。

しかしやはり、安易に楽だから、という選択からは何も産み出さないのは確かですね。正社員のほうが給与や安定性など含め恵まれていることもまた事実ですので。

小松
就活が「運ゲー」とはなかなかな表現ですね。確かに景気動向で雇用の環境は大きく変わりますからね。さて、今回のテーマである「離職した若者はどこへ行くのか」ですが、実際にはどうなんでしょうか? 同年代の若者の代表ということで、先に奥間さんにお伺いしましょうかね?

奥間
そうですね。早期離職した高卒の人たちは、やはり非正規として働いている方がとても多いと思います。本意か不本意かは分かりませんが、彼らはそもそも、始めの就職活動の時点で〝仕事=労働〟という考えで、自身のキャリア設計についてはあまり考えてきていないですし、高校の進路指導の中で限られた選択肢から選んで就職しているので、再度就職するとなった時に、具体的にどう行動したらいいのかが分からないんですよね。

そして、賃金も一時的にですが多くもらえる、正規に比べるとハードルがそれほど高くないアルバイトや派遣などの非正規で働いているんです。景気動向の影響もあると思いますが、これが実際だと思います。

小松
自身のキャリア設計についてあまり考えてきていないから、再度就職する時にどう行動したらいいのか分からない。これは印象的なコメントですね。古屋さんはいかがでしょうか?

古屋
進路指導やキャリアコンサルタントをされている方と話すと、高校を出たときには正規社員の仕事につけても、仕事が面倒になってすぐにやめて派遣やバイトなど気楽な仕事に着く子が心配だ、というようなお話を伺います。

相談相手が身近にいないことも大きな問題になっていると思いますし、キャリアを考えるきっかけがないことも課題だと思います。家庭環境もそうかもしれません。いろいろな原因が絡み合って、高卒で就職する子たちの大きな問題に繋がっていると感じますね。

小松
ありがとうございます。お二人ともに、早期離職した若者たちは、その後、派遣やアルバイトなど非正規雇用になることが多い認識のようです。そして、問題の根っこは、しっかりと自分のキャリアを考えていないことでしょうか。早期離職した若者たちがより良いキャリアを築けるように、やはりキャリア教育が大事ですね!

 

「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
    大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク

非大卒人材のトリセツ(第1回 はじめに)

一般社団法人スクール・トゥ・ワークの監事をしております小松です。私は、普段は、株式会社スーツという時価総額100億円以下の中堅企業・中小企業・小規模事業者など中小企業等に対して経営支援をする、いわゆる経営コンサルティング会社を経営しています。

スーツ社では、友人・知人からは、「通常の経営コンサルティング会社ではありえない」と言われることをしています。それは、高学歴が当たり前の経営コンサルティング業界において、少ないながらも、主に中学校卒、高等学校卒、専門学校卒、高等専門学校卒、短期大学卒や大学中退などの人材と定義される「非大卒人材」のうち高卒人材2名を経営コンサルタントとして採用していることです。

この新連載「非大卒人材のトリセツ」では、これから数回にわたり、1.一般に、経営コンサルタント業界など知的産業と評価される業界に属する社会人の観点から見た「非大卒人材」の特徴、2.どのように同産業において「非大卒人材」を育成すればよいかについて記載したいと考えています。その後、私と、スーツ社に勤務する「非大卒人材」の奥間さんと木村さんの三人で、座談会形式で、「非大卒人材が経営コンサルタントになった」をお送りしたいと思います。

なお、新連載「非大卒人材のトリセツ」では、タイトルで「非大卒人材」、「トリセツ」と記載しておりますが、正確には、スーツ社の奥間さんと木村さんというサンプルケースは「非大卒人材」のうち高卒人材になりますし、 “たった2年”、“たったの2名”の採用・育成の経験でしかありませんので、その点についてご留意・ご理解いただければと存じます。

「非大卒人材のトリセツ」の初回では、本題に入る前に、「非大卒人材」の状況について簡単におさらいをしたいと思います。データは、2018年12月に当団体が発表した「スクール・トゥ・ワーク非大卒人材データ集2018」から引用します。

1.若者における最終学歴別就業人口

若者における最終学歴別就業人口(出典:厚生労働省,「就業構造基本調査」(2017年))によれば、高校卒が25%、専門学校卒が16%、短大卒が5%、中学卒が4%、高専卒が1%となっており、「非大卒人材」が一世代に占める割合は51%と過半数を超えています。

そのため、未曾有の少子高齢化社会を迎え、労働人口が減少することが予想されている我が国において、一世代に過半数以上を占める「非大卒人材」の活躍は重要な論点になっています。

 

2.高卒・大卒の就職先業種別割合

高卒・大卒の就職先業種別割合(出典:文部科学省,「学校基本調査」(2018年度))によれば、高卒の就職先業種別割合は、製造業は40.4%、宿泊業・飲食サービス業は5.5%に対し、情報通信業は1.0%、金融業・保険業は1.1%となっています。グラフをご覧いただくとわかるとおり、高卒・大卒の就職先業種別割合の違いは大きくあります。

現在、「非大卒人材」の過半数以上が、工場であったり、ホテルや飲食店などサービス業の現場であったりで働いています。一般的に言われていることですが、「非大卒人材」が、それらの職場において、役割として主に求められているのは、“単純労働力としての担い手”です。残念ながら、そこで働く人の個性やスキルが特に着目されているのではなく、“業務をまわす”ために人手が必要なのです。

今後、「非大卒人材」が社会でより一層の活躍をしていくにあたり、スーツ社の属する経営コンサルタント業もそうですが、前述の情報通信業や金融業・保険業など知的産業への「非大卒人材」の就職者数の増加は一つのポイントになってくることが予想されます。

今後、「非大卒人材」が、知的産業など様々な業界で活躍するためには、まだまだ問題は山積みです。当団体が設立以来、継続して指摘してきている高校生の就職活動における「一人一社制」など制度や手続きの変更であったり、就職する中学生や高校生たちのキャリアそのものの考え方を変えたりしなければならないでしょう。そして、もう一つ重要になってくるのは、企業側の「非大卒人材」を採用する受け入れ体制の整備や「非大卒人材」そのものへの理解度の向上です。

この新連載「非大卒人材のトリセツ」を通じて、少しでも多くの企業の経営者や採用担当者に「非大卒人材」に興味をもってもらえるようになればと思います。私自身も会社経営をしておりますので、採用時のミスマッチによる損失については十分に理解しています。この連載を通じて、少しでも「非大卒人材」採用時のミスマッチを減らせればと思います。また、まだ「非大卒人材」を雇ったことのない会社については、予め持っているであろう「非大卒人材」への偏見を捨てるきっかけになればと思います。

私は2年間にわたり「非大卒人材」を採用してみて、「非大卒人材」が大卒・大学院卒と同じように、様々な業界において、十分に活躍できると確信しています。ぜひともこの新連載「非大卒人材のトリセツ」を通じて、皆様に新しい気づきをご提供できればと思います。楽しんで読んでいってもらえればと思います。

小松 裕介
プロ経営者 株式会社スーツ 代表取締役
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社を7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。
2018年9月に一般社団法人スクール・トゥ・ワーク設立と同時に監事に就任。

 

「非大卒人材のトリセツ」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 非大卒人材の可能性
第3回 非大卒人材の育成方法 前編

 

変わる?学校から仕事への第一歩 (第5回 「七・五・三」現象)

一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。

前回 変わる?学校から仕事への第一歩(第4回高卒の就職率)

「七・五・三」現象・・・入社後3年で中卒は7割、高卒は5割、大卒は3割辞める!

小松
第5回のテーマは「七・五・三」現象です。この若手の離職率が高いのが日本の特徴ですが、ここにスクール・トゥ・ワークを議論しなければならない理由があると思います。古屋さん、改めて「七・五・三」現象についてご説明をお願いします!

古屋
はい。日本の「学校から職業社会へ」を考える際の最大のポイントの一つが、この「七・五・三」に代表される若者の早期離職問題ですね。「七・五・三」とは新卒の3年以内離職率を指します。

これが中卒、高卒、大卒で差があるという話を一言でいうと七・五・三になるんですね。つまり中卒は3年で7割、高卒は5割、大卒は3割辞めるということです。2000年過ぎから一般的に言われるようになったのですが、現在でも概ねこの傾向は続いています。

小松
いやぁ、随分たくさん辞めますね(苦笑)。奥間さんの周囲はいかがでしょうか?

奥間
僕の周りでも高卒で就職した人は半分以上が3年以内で離職しています。最初の会社を辞めてからは、アルバイトや派遣社員などの非正規雇用の形で働いている方が多いように感じます。

小松
古屋さん、統計的にはどのような状況でしょうか?3年で辞めた人がその後どこに行ったか。データはありますか?

古屋
実はこの点のデータは整っていません。厚労省の統計も沈黙しています。一方でお話を聞くと、物流拠点でピッキングをしていたり、食品加工のお仕事をしていたり、飲食店で働いていたり、とスキルの必要ない軽作業に従事しているケースが見られます。

こういった仕事はテクノロジーによって比較的早期に置き換わる考えられますから、日本の限られた人手を活かす観点でいうとかなり「もったいない」状態ですね。

小松
そうですね。少子高齢化社会の日本では若者は貴重ですからね。もったいないと思います。 前回、古屋さんは、この「七・五・三」問題は教育関係で知らない人はいないと思うとおっしゃっていましたが、学校や行政関係者で、この問題を解決するような動きはないのでしょうか?

古屋
非常に難しい質問です。行政では内閣府の青少年白書をはじめ、「七・五・三」問題の言葉を使って日本の早期離職が特殊な状況にあることを提起しています。

一方で、政策的支援は若者自立挑戦プラン以来、マッチングに関する支援がメインで、定着に対する大きな対策は行われていないと言えます。この理由の一つは「マッチングは公的サービスで、その後の定着は企業の責任で」という考えが根底にあります。

つまり、離職は企業と個人の関係の問題であり、そのため、むしろ企業における人材定着支援はビジネスとしては大きな分野になっているのです

もう一つの理由は、日本のスクール・トゥ・ワークシステムそのものにあります。日本の学生は具体的な職業体験を経ずに直接一つの企業とマッチングします。

このありかた自体が「こんなはずじゃ・・・」といったミスマッチを生みやすい構造にありますし、一定程度辞めていくのは個人的にはむしろ若者の労働マーケットが健全であることを示していると思います。

問題は、単に「多くの若者がミスマッチなところに就職している」ことではなく、その背景にある「若者にキャリアや職業について考える機会を提供できていないために、材料なき選択になっている」という点ではないでしょうか。

小松
おっしゃるとおり、この問題は原因が一つではない複雑な問題のように思います。「マッチングは公的サービスで、その後の定着は企業の責任で」という考え方については、まさにその考え方の結果が、この現状なのかなと思います。

高卒就職者の就職率は98.1%と驚異的に高いものの、4割ほどの高卒就職者が3年以内に離職しているわけです。そのまま考えれば、高校卒業後の3年後を基準に考えると、約6割の就職率なわけです。

ここの橋渡し、スクール・トゥ・ワークに問題意識を持たないとこの数字は改善されないのだと思います。 あと、古屋さんのおっしゃるとおり、若者のキャリア観の醸成は必須でしょうね。ここは私たち、スクール・トゥ・ワークががんばりましょう(笑)。

 

「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
    大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク

変わる?学校から仕事への第一歩 (第4回 高卒の就職率)

一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。

前回 変わる?学校から仕事への第一歩 (第3回 高校生の就職制度)

高卒の就職率

小松
第4回のテーマは高卒の就職率です。前回、古屋さんから、「学校の先生方は目の前の生徒たちをブランクなく就職させるというミッションがある」とありましたが、高卒の就職率はどのような状況なのでしょうか?

それでは、今回も古屋さんから教えていただきましょう。

古屋
高卒就職者の就職率は2018年3月卒者で、驚きの98.1%となっており、一部を除いて正規社員の職についています。この数字自体は1991年以来の高水準ですが、景気が悪い時でも80%台後半の高い就職率に留まっています。

”高卒でブランクなく就職する”、という意味では、今の就職指導は間違いなく素晴らしい水準にありますね。

小松
好景気ということもあって凄い数字ですね。確かにこの数字だけ見ると、一見問題ないように思えてしまいますね。ちなみに、高卒就職者のその後の離職率はどうなっているのでしょうか?

古屋
「七五三」という言葉があります。これは最終学歴別の3年以内離職率を表す言葉で、今から10年ほど前に内閣府が白書で使うほど一般的に使われました。そのころは高卒は5割ほど離職していたのですが、現在は少々下がって4割ほどの高卒就職者が3年以内に離職しています。

若手の離職率が高いのは日本全体の傾向ですが、それにしても高いです。

小松
私の会社に就職した奥間さんは大事に扱わないといけませんね(笑)。奥間さんは今、22歳ですが、周囲の友人らはどのような状態でしょうか?

奥間
僕の友人でも高卒で就職した人たちの中には、入社1年も経たずに離職している人がたくさんいます。今でも続いている人の方が少ないように感じます。 離職理由のほとんどが、「思っていた仕事と違かった」です。

小松
「思っていた仕事と違かった」をもう少し深掘りさせてもらえませんか。高校の時に聞いた話や認識していた話と実際に働いてみたら話が違ったということでしょうか?奥間さんは友人らの話を聞いて、どこに原因があるとお考えですか?

奥間
はい。認識していた話と大きく違ったということです。学校の進路室を通して就職をした彼らですが、就職先についてよく知らない状態で就職している人がほとんどでした。進路室にある求人票が全てという感じです。

もちろん本人たちにもそれぞれ原因があることではありますが、一人一社制なども含めて自由度の少ない中での就職活動は、目の前の内定をとるためにしかなく、彼ら自身がキャリア設計についてよく考えて就職活動をすることを阻んでいるのではないかなと思っています。

小松
そうなんですね。よく知らない状態で就職していたら、思っていた仕事とは違いますよね。古屋さん、高校生の就職活動では、インターンシップなどはあまり活発ではないのでしょうか?

今の大学生は、大学1年生のときからインターン活動をしているイメージがありますが。

古屋
実は、高校生に対するインターンは行っている会社は結構あるんです。ただ、その会社に就職予定の生徒さんに対して行う形式が多いので、大学生に対するインターンシップとは少しイメージが違うかもしれませんね。

あとは就業体験を行っている会社、プロジェクト・ベースド・ラーニングを行っている会社、など高校生向けのプログラムはたくさん提供されていますが、受けられる生徒はひと握りに限定されています。

大学生や専門学校向けと比べると、”誰でも応募できる”という「アクセス性」がかなり小さいことが問題なんです。

小松
やはり大学生の就職活動と比較して、高校生の就職活動は情報が限定されているイメージですね。お話をお伺いしていて、一番の疑問は、高卒就職者の就職率は98.1%と驚異的に高いものの、4割ほどの高卒就職者が3年以内に離職しているわけです。

そのまま考えれば、高校卒業後の3年後を基準に考えると、約6割の就職率なわけです。これに疑問を覚えている行政関係者や学校の先生はいらっしゃらないのでしょうか?

古屋
この質問は非常に難しい問題を含んでいます。早期離職問題、「七五三」問題は政府やメディアでもたびたび取り上げられ、教育関係で知らない人はいないと思います。

日本の就職システムは学生から仕事への移行に必ずしも「スキル」や「専門性」を必要としないことに特徴があります。私は日本の最初の仕事の3年間はインターンシップだと思っています。

職業経験を経由しないマッチングは当然ミスマッチを生みますし、むしろそれが健全です。不景気になると早期離職率が低下する傾向がわかっていますが、これは若者が「この仕事より自分に向いた仕事がわかったけど、いま辞めても転職できない。

だからやる気はないけどこのままいよう」と思うため低下するのです。そして、社会経験をしないうちから、いきなり自分にとって良い仕事に就くのはかなり難しいですよね。

ですから、学校にいるうちに、まず考えるべきなのは「自分が将来仕事で何をしたいか」「そのために今なにをすれば良いか」ですね。この点を真剣に考えたうえで偶然の出会いを楽しむ。こういった機会を作り出すことができるよう、一緒に考えたいと思っています。

小松
そうですね。学校から仕事へ。まさにスクール・トゥ・ワークが論点で、学校にいるうちからキャリアについて考える必要がありそうです。

「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ

第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
    大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク