企業の寿命が個人の職業人生より短くなる次世代の就業社会。これまでの教育の限界も見えてきています。私たちスクール・トゥ・ワークでは、学校空間で新しい取組を始められているフロントランナーの先生方とお話しながら、新たな「学校から仕事へ」のありかたについて考えていきます。

今回は、埼玉県立川越工業高校定時制の地理歴史科教諭である新井晋太郎氏にお話を伺います。新井先生は民間企業出身というご経験を活かし、ご自身で生徒と向き合いながらキャリア教育コンテンツを開発されており、スクール・トゥ・ワークとのコラボ授業のほか、ベンチャー企業やNPOなどとの様々な外部連携の取組を実践しています。


 
古屋(当団体代表理事):
本日はよろしくお願いいたします。新井先生はいま定時制高校の先生として、キャリア教育の実践を様々に行われていますね。なにが課題だと感じて取り組まれているのですか。
 
新井先生(川越工業高校教諭):
まず、赴任したときにもやもや感を感じたんです。
今年の2月に21歳の卒業後一年目の卒業生が書類を発行するために来校しました。卒業間際まで就活をしていた子で、3年生の時の放課後、体育館にいたところを自分が声をかけたら、いろいろなことを話してくれたんです。それからの付き合いで担任でもなかった自分にいろいろなことを話してくれました。

卒業後一年経っていましたが、「ブラックだ」とか就職した会社に不満も言っていましたがとりあえず続いていたようで安心しました。子どももできたとのこと。ただ、安心は安心なのですが、やはり、いきなり4年生(注:定時制高校は4年制)の就職活動というのはかなり難しいのではないかと思ってしまいます。

彼は就活はギリギリになってしまいましたが、もし彼が、スムーズに能動的にやっていたのであれば、社会人になるときにもっと面白いこともあったのかもしれない。就職を想像できていれば怖くない。お化け屋敷が怖いのは何が起こるのかわからないからだと思っています。
 
古屋
そんな思いを胸に、先生はどんな取組をされていますか。
 
新井先生
昨年11月くらいからなのですが、いろいろなキャリア教育の取組をしています。まず定時制高校出身の大手葬儀会社の支社長の講演を開催しました。さらに中卒でとびの会社の社長をしている方のお話を聞く会も。生徒たちは、仕事の内容自体はそんなに共感はなかったかもしれませんが、言葉が真に迫っていたので響いたようです。

定時制高校はいろいろな競争からあぶれた生徒たちが集まる高校です。定時制には自己肯定感が低い子もたくさんいます。でも学歴というビハインドをはねのけて活躍する人たちの話を聞いて希望が持てたのかもしれないと思いました。

また、大手自動車ディーラーの営業職や整備士、高卒の大手金属加工会社の生産管理の方、日本最大手の証券会社を辞めたフリーランス出張大工の方など、多様な職業人を招き、生徒たちに働き方や生き方について考えてもらう機会を増やしました。スクール・トゥ・ワークとのコラボ授業では、非大卒コミュニティ「BONANZA」に所属する20歳前後の若い社会人に来てもらいました。

若い人とカフェ形式で対話することで、話を聞くだけでない一方通行でない変化が起こっている様子です。みんなに聞いたら「楽しかった」と口をそろえていました。レスポンスの速さで本気度合いがわかります。うちの生徒たちは表現のバリュエーションがあんまりないので、実は「楽しかった」しか表現がないのですが、そのレスポンスの速さが本気度合いを示しています。

また、フリーランスの方やベンチャー企業と組んでさらにいろいろな授業で生徒たちのキャリアを考えていきたいと思っています。
 
古屋
日本は学校に、部活、道徳、給食・食育など、世界で学校が担っていないような機能が集まりすぎているとも言われますが、とはいえ学校は多くの時間を過ごすとても重要な場所です。その学校がそれだけの“きっかけ”を提供してくれたら、とても素敵ですね!新井先生、これからはどんなことをやっていきたいですか?
 
新井先生
いまは多くの高校で、進路指導を担当してくださっている先生はベテランの先生であることが多く、知見・経験ともに豊富でとても素晴らしいと思っています。これから自分たちの世代に移っていくなかでどうしていくか。実は若い先生は高校生の就活のスケジュールがわからない人が結構います。みんな大卒ですから仕方ないですよね。

四年生を担任してはじめて状況がわかるといいますか、先生方は自分が民間企業への就職活動をしていないですし、想像が難しいと思います。この点は、実は教員の初任者研修でもやっていないと思います。絶対に高卒就職を含めたキャリア教育や進路指導の研修をやるべきだと思います。先生のなかに高卒の人はいないのですから、知識だけでも教えるべきですよね。