企業の寿命が個人の職業人生より短くなる次世代の就業社会。これまでの教育の限界も見えてきています。私たちスクール・トゥ・ワークでは、学校空間で新しい取組を始められているフロントランナーの先生方とお話しながら、新たな「学校から仕事へ」のありかたについて考えていきます。
今回は、埼玉県立川越工業高校定時制の地理歴史科教諭である新井晋太郎氏にお話を伺います。新井先生は民間企業出身というご経験を活かし、ご自身で生徒と向き合いながらキャリア教育コンテンツを開発されており、スクール・トゥ・ワークとのコラボ授業のほか、ベンチャー企業やNPOなどとの様々な外部連携の取組を実践しています。
新井先生:
実は当校からも、先生がインターンシップするという取組でプロジェクションマッピングのベンチャー企業に送り込もうと思っています。4月に実現します。こうした取組によって就職やキャリアといったことについて、自分の言葉で話せる先生が増えていくといいな、というのが自分のこれからのやりたいことですね。
学校内でも共感が広がっていまして、校長からも「これからの先生はこういうことやらないとね」と言われています。自分も民間企業出身で何回も転職を経験しているので、学校でやっていることと学校出たあとが違いすぎちゃっていないか、といつも思っています。自分がいま勇気をもってできているのは、出会いがあったから。
すでに取り組まれている先生方と知り合えたのが自分の原動力になっています。もちろん、教育の現場を変えるのであれば、学習指導要領を変えて、ということが一番でしょうが、いまの学習指導要領には「キャリア教育は大事です」とは書いてあるんです。これ以上、待っていてもしょうがないので自分でやっているということなんです。
古屋:
先生が行われていることが日本の教育の最前線ですね。ちなみに、スクール・トゥ・ワークとのコラボ授業はいかがでしたか?
新井先生:
いろいろと感想はありますが、若手講師として職業インタビューを受けて頂いた「BONANZA」の子たちは、何と言っても人間的魅力がありますね。出会った定時制の生徒に対して、「何とかしてあげたい」「どうにかできないか」と思えるのが人としてすごいな、と思いました。
例えば、先生であっても、生徒に対して「こいつら何も言うことを聞かないしダメだ」となって、「ひどいクラス」としか思うことができない先生もいるんです。ほかの進学校などでは、「あがめられる先生」だった人が、定時制高校では、「てめえ」とか言われる先生になってアイデンティティが壊れてしまう場合もあります。
私自身も、生徒との距離感や関わり方に悩んだ時期がありました。そんな中で、「BONANZA」の子たちは、共感する、そしてこれからも一緒に話がしたいと思うこと自体がとても大きな人間力だと思いました。
古屋:
一方的な授業や講演ではなく、対話を生み出せたら一番良いと思っています。最後に、生徒さんは今どんなことをしようとしていますか。
新井先生:
幼稚園でのインターンシップをいまやろうとしています。男子生徒だが、母子家庭で、保育士をやりたいとのこと。履歴書を自分で書けないレベルで、遅刻や授業の抜け出し、教員への失言とかでやんちゃしていましたが、「学校生活を真面目に送れない生徒にインターンに行かせる資格はないぞ」、と言ったら、ばたりと遅刻や抜け出し、失言が無くなった。
すごいですよね。入学した頃は、原因不明の腹痛とか頭痛などの欠席も多かったのですが、友達も増えてきて変わりました。また、「農業やりたい」という子もいます。農業のバイトをやってみたいと。やったら変わるのかな、と思って進めています。手に職をつけるために専門学校も希望しているため、埼玉県立の農業大学校の存在も教えたところ、本人は乗り気でした。
しょっちゅう教員や生徒への暴言とかで問題を起こすが、そういう将来やりたいことがわかってきたらどう変わるのかなと。これが今の楽しみですね。「声優をマネジメントする会社で働きたい」という子もいます。確かに、もしかしたらキャリア教育をいろいろと行っていることが後押ししているのかもしれませんね。
みんなに「インターンシップやってみたい?」と聞くと、絶対「やってみたい!」と良い答えが返ってくる。とても充実感があります。
古屋:
そうなんですね!「働くことは楽しい」「やってみたい」という高校生の声。私たちはとても大きな思い誤りをしていたのかもしれませんね。本日はありがとうございました。