2021年1月20日19時から、Zoomを使用して、スクール・トゥ・ワーク主催「卒後の状況から高校生の就職を考える」が開催しました。

今回のオンラインセミナーには、メディア各社に加え、行政関係者、民間企業、学校教職員の方々を含め、40名以上の参加をいただきました。終了後のアンケートでは回答頂いた17名中なんと17名全員から「満足(5点満点中5点)」と回答をいただきました。

冒頭に、代表理事の古屋から本日の趣旨の説明やテーマの発議がありました。

「早活人材」の説明や、2021年の高校就職の状況の概況と、今が高校就職の転機であることについて話がありました。

また、高校卒就職後の大規模な状況調査のデータを基に、就職後の高校生の働き方、卒後のキャリアから高校就職のあり方、そして企業の高校生採用についての考察を行いました。

特に以下の4点についてデータをもとに語られました。

■高校就職者は「比べて選ぶ」ことが就職の仕組み的にできていない場合も多いため、2・3社比べて選択することで定着率やその後のキャリア状況が好転している。

■一人一社制自体というより、実は選考以前のプロセスに大きな問題がある。「一社だけしか選考を受けないため、一社だけを調べる」という指導をするのではなく、準備の段階で多くの会社に触れることで大きな効果が見られる。

■「勉強したくないから就職」等と決めつけをせず、高校生の就職意欲を理解し、支援することが重要である。また、企業側も高校生の意欲に応える教育投資ができているかを見直す必要がある。

■現状、採用企業はハローワークや先生と相談をして採用活動を進めているが、採用企業の半数近くは高校生と直接話せないことに課題意識を持っている。「一緒に働く人を選ぶ」仕組みを構築することが必要である。

講演を踏まえ、原 薫氏(株式会社メタルヒート取締役)、山下 峻氏(星槎国際高等学校 立川センター長)、田中 竜介氏(国際労働機関(ILO)プログラムオフィサー)の3名によるパネルディスカッションが行われました。

実際に高校生採用を行っている企業、生徒の就職支援を行っている学校、国際的に若年者雇用政策の検討や提言を行っている機関という、通常本音で語りあう機会のない3つの多様な観点から、高校就職の支援方法や今後の課題などの議論が行われました。

まず、「冒頭の講演を聞き一番心に残ったポイント」の共有として、田中氏からは「高校生の立場から、学んで選ぶという実感が重要であることがわかった」、山下氏からは「こうだろうという感覚をデータで可視化されたことで、進路指導に自信がついた」といった感想をいただきました。

また、原氏からは「早期離職者が非正規雇用者になる割合は3割とあるが、愛知県では景気が良い時のほうが非正規雇用になる方が多いと感じる。期間工などの額面の給料の高い仕事が増えるためだ」と現場での体験を踏まえた感想共有も。高校生は限定された情報のなかで就職先を決めている、という点について山下氏からは自校の取組として「学校行事の中で企業説明会に行く機会を作り、人生観や生き方を考え、選べるようになるための機会を設けている」と紹介もありました。

次に、キャリア形成にも様々な課題がある中で、「高校生の就職のアップデートすべき点」について議論を行いました。

原氏は、採用をする立場として、「ハローワークから学校に企業の印象を伝え、先生から生徒におすすめをするという間接的なやりとりをなくし、大人ではなく生徒自身と直接企業が話し選択するための機会を設けてほしい」との採用企業としての切実な思いが語られました。

山下氏は教員の目線から、「子どもたちの要望を聞きながら情報選択を行っているが、生徒が選択するための情報の取り方を見定めなければならない」という声もありました。

田中氏からは、世界での議論として「ディーセントワークの理念にあるように、仕事を自由に選択できる環境を作りつつ、完全雇用すなわち働きたいと思える人が働ける環境を整えるといったバランスをとることが重要。また、セカンドチャンスを望む人に生涯学習の機会を届けるなど、どれだけ平等な機会を持てるように支援するかを考えたい。」という意見があり、改めて現在の仕組みの良いところを残しつつ、アップデートが必要な部分もあるということ、そして「選ぶ」というキーワードの重要性を強く感じました。

最後に、コロナショックの中で懸念される点についての議論を行いました。

山下氏からは、「就職については、業種によって昨年より早く採用を終えている業種、スーパー・小売などもある。また、家庭の状況により進学が難しい家庭への対策を組むことが重要。固定概念に囚われず、コロナの中でも学校でできることを考えたい」という意見がありました。

原氏は、「大学卒採用が先行して行われるため、高校卒採用枠が激減する、あるいはなくなる製造業が増えることを懸念している。自動車業界にかかわらず景気が悪化しているため、地域の多くの企業が昨年よりも採用枠を減らす可能性が高い。また、愛知県でいうと車の生産の自動化により、部品工場の採用枠自体が減っているという構造的な問題にも直面しつつある」という話がありました。高校生の就職先が、製造業から大きく変化していないこともあり、高校就職の危機を感じさせられるコメントでした。

最後に田中氏からは、「公的な職業訓練がなされるような製造分野はオートメーションで代替可能な分野が多く、国際的にも危機感が高まっている。問題解決能力や、イノベーションを生み出す力などの仕事の未来の変化に耐えうる教育機会が高校生にも与えられる必要がある。ただもちろん、日本にはイノベーティブな中小企業が多くあるため、こうした企業を知ってもらうことやマッチングが重要になってくる。今後の社会で非常に重要になる若者という財産を公的な支援で救い、マッチング機能を強化して様々な情報にアクセスできるようにする必要がある。」との問題提起と意見がありました。

このように様々な問題が山積している中でも、若者が自ら企業を「比べて選ぶ」ことができるような体制ができているかを見直し、必要な支援や情報を届けることが重要であることを、改めて感じる議論でした。

その後の質疑応答やネットワーキングも大いに盛り上がり、終了後1時間以上にわたりグループに分かれて意見交換や議論が行われました。

 

【当日の感想(一部)】

◎データや統計など参考になるものが多く、数字を根拠に社会で変えていくべきことを客観的に伝えられる可能性が見えた有意義なものでした。全国の教育関係者の方に見てもらいたい数字だと思います。また色んな関係者の方がいてお話しできたことで学びの機会が多く得られ、新たに考えるべきキャリア教育のやり方を検討しようと思います。いつもありがとうございます。

◎ILOの田中さんのご登壇もとても新鮮で、世界の潮流をふまえたマクロの視点から「日本の高校生就職」をどう捉えることができるのか、示唆に富んだ内容だったと思います。

◎貴重な機会をいただき感謝します。別件で途中退席となりましたが、データに裏付けされた内容で非常に説得性がありました。社会や産業構造の変化がコロナ禍もあり特に顕著になってくることが必至です。その中で非大卒(早活)人材の現状等を知り、課題等も理解できました。研究会を通して感じたことは、当該高卒就職者の社会関係資本(つながり)格差もあるのではないかということ、同質性が高い仲間内という要因も関係しているのではないか。そして受け入れる企業側についても、最初の配属先や職種、そしてキャリアパス等の工夫も必要ではないかということです。このままではますます分断が加速していくようで何とかしないといけないと思いつつも、具体的な対策が思いつかないもどかしさを感じております。0-15才人口が減少していく日本において、この課題認識及び解決は大変重要です。

◎パネルディスカッションまでしか参加できませんでしたが、データとして客観的に示していただけたことで、生徒や教員への伝え方に自信を持てそうです。とはいえ、教員に伝えてもすぐにこれまでの慣例から外れることは難しいかと思いますので、探究の時間やインターンシップの事前事後学習等で生徒に向けて話していくことで、教員にも間接的に伝えていければと考えています。そして、私自身ものアンコンシャスバイアスを取り除く必要があると改めて感じました。

 

スクール・トゥ・ワークでは今後も早活人材のキャリア支援とともに、関連する情報発信や研究会等の開催を行ってまいります。