2020年代の若者キャリアはどうなっていくのか。今回は、高校新卒求人サイト「ジョブドラフト」を運営する株式会社ジンジブをグループ会社に持つ株式会社人と未来グループの佐々木満秀さんと対談します。
古屋:(一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事、以下略)
今日の対談は「2020’sのキャリア論」ということで、佐々木さんから色々とお伺いしたいと思います。
まず、はじめに、佐々木さんはご自身も高卒で就職なさったご経歴を持ち、その後もかなり面白いキャリアを歩まれていると聞いたのですが、お話を聞かせていただけますか?
佐々木:(株式会社人と未来グループ代表取締役、以下略)
当然、職種もいろんなものを経験しました。特に若いころは超短気で、すぐに上司と喧嘩して会社を辞めるタイプでした。
それで23歳まで自分でトラックを買って運転し、運送業をやっていました。
トラックは働けば働くほどお金がもらえるんです。大阪では東京までを1回往復したら10万円もらえるんです。
その時はプライベートでも悩むこともあり、このままいったら将来どうしようかなと考えた時期です。矢沢永吉世代だったんで、将来「成り上がりたい」というのが自分の座右の銘でした。ほぼ寝てなかったんですが、「これ、今やからできるなー」と感じていました。
成り上がりたいのに、このままだと成り下がるよなと思って、成り上がるためにどうしたらいいか考えて、転職活動を始めたんです。
古屋:
23歳から24歳くらいの頃ですか。
佐々木:
23歳です。
今の大卒1年目の時期です。その時に転職活動し始めたんですが、面接で、20数社連続で落とされました。生意気やったり、風貌もあるんですが、当時犯罪者みたいな顔つきをしてましたから。それで、ほぼ落とされました。営業が一番成り上がれると思ったので営業ばかりを受けたんですが。
古屋:
実力主義ですからね。
佐々木:
そうです。月収が完全インセンティブのようなところを、たくさん受けました。たぶん古屋さんの時代ではなくなっていたと思うのですが、教材販売とか、怪しい会社がいっぱいあったんです。
古屋:
小学生の頃はありましたが、今はないと思います。
佐々木:
今はなくなったんですか。昔は小学生が使う図鑑全集みたいなものを売ってて、あれ実は、1セット売ったら100万円くらいするんです。そこも落とされる。
結局そのとき受かったのが不動産の営業でした。それも2か月で喧嘩して辞めるんですが(笑)。
求人広告の営業に就いたときもあり、やっぱ営業って面白いなと思いました。学歴も関係ないし、僕みたいに素行も悪いわ、見た目も悪いような奴が、結果で評価されるというのが面白くて。
その会社では26歳で常務までやらせていただいたんです。その会社の倒産や、父親の病気も重なったことがきっかけになり、21年前に最初の会社である株式会社ピーアンドエフを創業し、ある程度ですがお金持ちになりました。
その後、7年前に色々と考える時期があり、これからの時代において社会に対して何かしたいと思うようになりました。歳いくとそう考えるようになってくるじゃないですか。
ビジネス的に社会性の強いものをやらないといけないと思い、自社でも本当に社員のため、社会のためになっているかということを考えました。当然ビジネスですから収益になることをやらなければならないですし、色々と考えた結果、高卒採用の支援をやりたかったんです。
始めたら始めたで、高卒就職の業界の闇の深さも分かってきて、課題も見えてきました。
僕は、ジンジブという会社の代表でもあるんですが、今は、「高卒採用に命かけたろ!」と考えています。
古屋:
先日も、某新聞のコラムに佐々木さんと私のコラムが一緒に掲載されましたね。
とても素晴らしいなと思いました。
ただ、私のコメントが書かれている欄の上には、学校関係者の就活のあり方の見直しへの反対意見も載っていましたね(笑)。
佐々木:
新しいことをはじめると良く思わない人も必ずできます。
古屋:
高卒就職については法的なルールはほとんど存在しない、しかし高卒就職の世界だけで適用される特殊なルールが存在する、という厄介な状態ですよね。つまり「行政や学校の中だけのルール」が「ルール」になっているんです。「これはルールだ」とビジネスサイドに言ってくるのは完全にお門違い。
元行政官としても正直、多くのケースで公権力側の越権行為が起きていると感じているんですが、それを言い出せないほど、今のやり方を変えたくない人や既得権を持ってしまってる人が多い状況ですので、私も微力ながら一歩一歩この活動を進めて行けないかと思っております。
学校の昔からいた先生方。彼らが見ている幸せな世界があるわけですよね。卒業するときに「先生ありがとう」と言われたり、良い会社に就職できましたと親御さんも言ってくれて、それで卒業していくと言う話をたくさん聞いている方々ですので。そういう世界は確かにあります。
佐々木:
ありますね。
古屋:
当団体に所属している青年は、もともと長野の商業高校の野球部でした。
素行が良かったということもあり、一人一社制の中で、大企業を紹介されて就職しているんです。業界ではだれでも知っているようなBtoB企業ですよ。
その時は、親御さんも含めて良かったと思っていたのかもしれませんが、その後、職場の現状に失望して、なんと半年で辞めたんです。
高校の先生方が見ている世界は、幸せなエンドロールが流れてるところまでなんです。エンドロールが流れ切った後に起こっていることはご存じないと、もっと当事者の話を聞かれた方がいいんじゃないかということを、日々伝えています。
さて、まさに、佐々木社長は、30年前の当事者のお一人だと思いますが、そういう方の話を聞かずに、違う世界の方に行かれた方なんだろうなと思って、今の話を伺っていました。
佐々木:
決定的な違いはゴールですよね。
僕の視点では、ゴールは人生なので、人生全般を考えたファーストキャリアでなければならないと思っています。しかし、内定して就職させることがゴールになってしまっている人が多い。先ほどおっしゃったように、卒業後に何が起こってるかなど、現在表面化されていない課題があるわけです。
古屋:
全くその通りです。
佐々木:
確かに、内定というゴールは数値で表した場合には、98%とかの内定が取れてるので、いい数字が出ているんです。そこはいいと思うんです。
僕もそうですし、今の高校生たちもそうですが、意思決定の問題が大きく関わっていると思ったんです。
高校生は職業観が全くなく、その中で意思決定をしているように見えるけど、今の規制の中での意思決定は、情報がない中でなされており、先生や保護者の後押しがあっての意思決定です。「俺が選んだ」と思っていればいいんですが。
どんな業種で、どんな仕事で、どんなキャリアステージがあって、自分の人生でどういうことをやりたくて、ということに繋がらないんです。
そのゴールには、大手に就職できるという一部の高校生の利点もあります。でも結局、ほとんどが辞めるんです。
ファーストステップで大手に入ることが良いか悪いかもあります。
僕は自分の子どもの教育を考えたら、ベンチャーやブラックに行ってもいいと思っているんです。僕もブラック企業を経験してますし、大手は大手の良さもあるんですが、30代や40代になった時に、どういう仕事経験があって、職業観が生まれるかは大事ですからね。自分で意思決定して安定志向の人もいますし、親の方針で「超ブラック企業にいけ」という僕のような人もいるし、それは自分で選べばいいと思うんです。
離職した時に、失敗を自分の経験に活かせるかどうかというのがあります。高校生は、学校から推薦されて、この仕事は合わなかった、人間関係よくなかった、で辞めるんですが、失敗だとは思わないんです。それを失敗と認識し自己責任で「次は絶対失敗せんとこ」と思わなければならない。
僕は、仕事もいっぱい失敗してるんですが、親に決められたことは一切ないんです。学校の先生にも決められなかったので。素行が悪かったから紹介受けなかっただけなんですが(笑)。だからこそ、自分が考えて、失敗を失敗の経験値として、そこから社会に出て、自分で選んでいくんです。
今の高校就活のあり方で、大学生との決定的な違いは、失敗が活きない。大学生は自分で会社をいっぱい見て、最終的には「俺はベンチャー行く」と言う人もいれば、「大手に行きたい」という人もいる。入ってみて、合わないとか離職するのは同じですが、その後が違うと感じてます。
今のルールの中で、高校生には職業観が無いので、先生からの助言は大事だと思います。今のルールの良さもあるのですが、ただ、あまりにも子ども扱いをされると、高校生が18歳成人になるにあたり、情報過多な時代なのに規制ばかりするような、求人票一枚で3社見るのが精一杯の、高校生の就活では、これはいかんやろと思っています。
古屋:
実際に見に行くとビックリします。それには2つの意味があって、一つには「この時代に紙?」や「この時代にこの情報しかないの?」。もう一つは、「この時代に」ということ自体を知らないことです。高校で就職した約17万人は、そもそも自分たちがまわりから見て結構ありえない状況にある、ということを知らないです。これが大きな問題だと思います。知らないので問題にできないんです。
ここをどうにかできないかなと思っています。
佐々木:
まずは、実態を知ってほしいですね。