現在、東京電力の人材企画部門で活躍している佐藤彰さん。大手電力会社という”お堅い企業”に所属されていますが、実はいくつもの社会人コミュニティを創設し、社外にも幅広いネットワークを持つ人材でもあります。さてそんな佐藤さんは高校卒業後、東京電力に入りました。どんなキャリアを歩んできたのでしょうか。なぜ安定した企業を飛び出て、活動しようと思ったのでしょうか。今回はインタビュー後編になります。

古屋
その行動力はどこからくるのでしょうか。

佐藤
仕事観はとにかくまず行動してみる、小さいことからでいい。自分もこれまでの会社のキャリアのなかで着々と視野が広がってきただけなんです。

窓口対応の時は目の前の一人のお客様、総務にいたころは事業所にいる社員約1,300人、本社労務人事になってからは約3万人の全社員、さらには家族も含めれば20万人の人生を背負う。

このようにはじめは小さなことから少しずつ広がり、どんどんかかわる人が増えています。

古屋
ここまでお仕事のキャリアを伺いましたが、一方で佐藤さんはいろいろな社外活動をされていらっしゃいますよね。これはきっかけはあったのでしょうか。

佐藤
働き方改革の担当となってから様々な研修や講演を聞きに行く機会が増えました。その時に、ユニリーバの島田さんの勤務制度(WAA!)説明会の最初の数分、島田さんからの「働き方改革は生き方改革」の一言、これが大きなきっかけですね。

それまでは、自分は「東電の人」だった。この会社をどのようによくしていくかでした。でもその言葉の瞬間から「東電」から「人生」に視野がぱっと開けました。

いまから2年と少しくらい前ですね。その後すぐにその方のやっているコミュニティに参加しました。そこで一番驚いたのは、こういう取組に、社外の人がこんなに集まるんだ、という気づきですね。

そのコミュニティに参加して9か月ほど経過したときに、ある月のセッションで自分の取組をプレゼンする機会をいただきました。実は社外の方に、フリーの場で「自分の名前」でプレゼンしたのは始めてだったんです。

その経験自体も貴重だったのですが、さらに参加された方から多くの共感をいただき、自分のやってきたことが「会社」という枠内だけでなく社会にも評価されるんだ、と感じれてすごくうれしかったですね。

そして、その時に一緒にプレゼンしていた方と、その後の名刺交換の時に「一緒に異業種交流会しましょう」と軽い感じで話がすすみ、それが16社以上200名規模の大交流会に。

他社と何かするのって難しいことだと思ってましたが、名刺交換の軽いやり取りがこんなに素敵なアクションに結び付くことは衝撃でしたね。こんな簡単に会社と会社が手をつなげるんだなぁとすごく感動しました。

そこから私自身もそうしたきっかけを作っていきたいと昨年からコミュニティを自ら立ち上げるようになり、気づいたら5つのコミュニティを立ち上げていて、全部足すと総勢800人くらいになっています。

古屋
他社の説明会を聞いた、というその一回の小さなきっかけが、佐藤さんの膨らみきったキャリアの風船を爆発させたんですね。これからのキャリアづくりについてはどうしていきたいですか?

佐藤
視野が人生に広がったことで、その分キャリアに関する悩みも大きくなりますよね(笑)。

きっとこのままいっても、会社で充実したキャリアパスが用意され、高卒のロールモデルとして学歴関係なく上がっていけるんだと、そんな全社員に希望を与える存在になる例を作れるかもしれないし、きっと会社はそうしたいんだろうなと感じていました。

でも自分は、カーナビが大通りを示してくると、もっといいショートカットルートがあるんじゃないかと、自分で見つけたナナメの細い道をいきたくなっちゃうんです(笑)。

あとは、一度きりの人生「ああしてればよかった」なんてつまらないことを言って死にたくはない。知りたい、やってみたいという好奇心があれば行ってみたい、そんな気持ちからこの春に転職するということを決意しました。

もしかしたらいったん落ち込むかもしれない。でもそこから上がっていくのが自分だと思っています。大体今までも新しいことばかりで、最初の半年は毎回地獄。いったん沈んでそこからグーっと盛り上がってそしてまた新しいところにいってまたへこむ。

心電図みたいですね。新しいことをすることでやはり谷に落ちていくという経験がでてきます。でもこの谷を経験しないと、この谷に恐怖で足がすくむということになった瞬間、惰性になっていくという恐怖感があります。

だから、あえて安定を手放した。もしこれで思いっきりへこむことになってもそれもまぁいいかと。食事だってたまに辛い物や苦い物、酸っぱい物を食べたくなるじゃないですか。

そういったものが食事を充実させる。人生もそういったスパイスがあるから充実するものだと思っています。

古屋
16年ご活躍された環境を自ら手放し、どんなフィールドでチャレンジする予定ですか。

佐藤:数万人の大企業の回し方というのをやってきましたので、今度は数十人・数百人の会社に行きたいです。自分は東電のキャリアにおいて、学歴も何もない中で人を巻き込むために大切にしてきた言葉があります。

それは踊る大捜査線の和久さんの「正しいことしたけりゃ偉くなれ」という言葉。どんなに理想を語ろうと、人を動かすにはそれを信じさせるに足る実績が必要。

なので、今回のキャリアチェンジでは、今までの枠の中から飛び出してチャレンジしたいですね。「規模が大きい・仕組みは整備済み・大きな案件をじっくり」から、「規模が小さいからスピード感重視・仕組みは未整備のカオス」みたいな経験ができるベンチャーなどで自分がどんな価値を作れるのか挑戦し、大企業のキャリア、ベンチャーのキャリアの両面からしっかりと実績を積んで信頼されるような人になり、もっと多くの方を巻き込んでいけるような、頼りにされるような存在になっていきたいと思ってます。

自分は3年後・4年後の先を考えずに来ました。数年後の目標を立てるのはいいですけど、どんな目標にしようかと考えて落ち込んでたり、目標に近づかないからへこんだりって方多くないですか?

そんな落ち込むようなことになる目標って・・・という思いもあり。それに数年後どうなっているか分からないし、生きているかすら分からない。年功序列も大っ嫌い。

数年後にキャリアアップするからって、そんな抗えない年次で可能性にキャップをはめられて、その間死んじゃったら何一つそのキャリアアップの計画は意味がない。

生きているのは過去でも未来でもなく、「今この瞬間だけ」。今この瞬間をワクワクすることが大事でその連続が日々となる。だから先のことは自分にも分からないんです。

5年後の佐藤はどうなっているか?この日々が続いていったらどんな自分になっているんでしょうね。それは自分自身が一番楽しみにしています(笑)。

古屋
高校でのアルバイト、窓口対応、総務、工事管理、事故対応、原子力損害賠償、人事、そして社外のコミュニティ。佐藤さんが駆け抜けたキャリアのひとつひとつがあって、次のキャリアを輝かせていますね。

未来のキャリアもわくわくするようなものになることを応援しています!

 

佐藤彰さんインタビュー記事一覧

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