執筆者 @schooltowork | 2月 10, 2019 | ブログ, 専門家
世間では注目されてこなかった非大卒人材、特に高卒就職者のキャリアづくり。わたしたちSchool to Workでは、データをもとに各分野の有識者に意見を伺います。
今回は、経済産業省で若者の就職やキャリアに関する政策を企画・実行している産業人材政策室の米山侑志室長補佐に伺いました。
古屋(聞き手、当団体代表理事):
本日はよろしくお願いいたします。私は高校生で就職する方たちは地元に残る比率が非常に高い、というのは高校生就職の大学生などの「就活」との大きな違いだと感じています。この点はいかがでしょうか。
米山氏(経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 室長補佐、以下敬称略):
私は出身が奈良県なのですが、大卒で地元に戻る率は劇的に下がっていますね。大学進学で都市部にいっても昔は結構帰ってきたそうですが、今は戻ってこないと聞いています。私は、それは職種の分断が原因だと思っています。
田舎というのは、帰ってもやる仕事がないんですよね。例えば、もし自分が奈良に帰ろうと思っても、公務員か地銀か、あるいは雇用を多く生んでいる場所という意味でシャープの工場、といった狭い選択肢しかないんですよね。
特に、都市部に進学した大卒の人からみた魅力的な選択肢は少ないと言わざるを得ない。大学に入る段階で、地元での就職という選択肢がすでに頭の外側にあるんですよね。この点が、高卒者と大卒者の進路選択において大きなポイントになっているように考えています。
古屋:
また、業種別でも高校生の就職先は製造業が40%を占めるなど、大卒とは大きく異なります。
米山:
要因の一つとして、進路選択の段階で既に、個人のバイアスがかかっているように感じます。業種別・職種別割合についてその差は、かなり家庭的、地域的、そして個人的な要素が絡み合っているのだろうと。
更に、より広い視点から考えてみましょう。日本の大企業の人事部は、大卒を採用する際に、キャリアをあまり明確にせずに「みんな平等に可能性がある」ということにして、いわゆる「ポテンシャル採用」を行うことが多い。この点が一部の大企業に人気が集中する要因となっています。「なんでもやります」「成長したい」という学生さんですね。
一方で、地元で、給料は高くないけど6時に帰れてワーク・ライフバランスが良いからその仕事を選んだ、という学生さんもいますね。自分は必ずしもそれを否定する必要はないと思っています。ひとつの「道」としてはあり。
例えば高卒の工場勤務はまさに「近いし楽だし」というルートであるというだけだと思います。ただ、現状は後者が主に高卒の人で、前者が大卒、となっている。一方で、前者後者の好みというのは、本来は高卒でも大卒でも変わらず存在していてもおかしくない。実際には、そういう選択に対して、どの程度近しい人、先輩や親などが同じような選択をしているか、ということの影響があると思っています。
古屋:
選択肢としては否定されるものではありませんよね。ただ高卒に関しては4割以上の学生が3年以内で離職し、その後非正規の仕事についていることもあり、人材を使い捨てしている企業があるな、という印象は拭えないです。
私は日本の若手不足はまやかしで、若手人材の無駄遣いをしているだけとも思っています。もっと高卒人材も含め、若手を活かす育成システムをつくっていきたいと思っています。ちなみに、奈良県では若い世代のUターンなどは増えていますか?
米山:
まず、私の周りでは外に出る人が多いですね。小学校の同級生でも、学校で良い成績だった人たちは東京にきています。ただ、大阪にはあまりいっていないのは不思議ですね。
Uターンについては、大卒の人ですと、優秀な友人が奈良県庁にリターンしましたが、それ以外だと医師くらいでしょうか。男女別で見たら違うかもしれないですね。
古屋:
高卒や大卒、という垣根は下がってきているのかもしれません。高卒でデータアナリストの仕事をしている20歳前半の人がいます。隣の席には東大の院卒者が座っているそうです。
でも普通に同じ仕事ができている。若いことは価値で、企業の手で本気で早く育てれば、一人前の人材に育つと思うんです。
最後に、離職率の高さについてはどうお考えですか。
米山:
ゼロになればいいのかというとそうでもないですよね。ライフステージによって、仕事へのスタンス等も変化することは当然あり得ると思いますし、ポジティブな離職というのも相当あると思います。
他方で、あるべき水準っていくつなんだろうっていうのがわからないんです。企業によっても違いますし、適正かどうかってそれぞれなので、具体的に何パーセントですと言い切れない部分があり、難しい問題だと思います。これが学生の就職という問題の難しいポイントですよね。
古屋:
私個人としては、理想は0%なんじゃないかと思ってます。入職マッチングの段階で、インターンシップなどを経て「企業ではなく仕事内容でマッチングできている状況」が一番の理想なのではないかと。もちろん「理想」ですが。
米山:
そうなってくると、そもそも新卒初任給を同じにするなっていう話ですよね。そもそもスタート時点で、本来は学生ごとに能力が全然違ってきていますからね。そして育成。どこも共通して「社内キャリコン」とかやってるんですが、どれだけ早くても40歳からしかやっていないんです。老後を含めた「セカンドキャリア」という意味合いが強い。
しかし本当に必要なのは離職傾向から言うと若手なんです。若手がその入社した企業を軸にどういったキャリアを描くか、のサポートが必要になってきているのではないか、と考えています。
古屋:
次世代の若手のキャリアをどうつくっていくのか、この社会全体が問われていますよね。お忙しいなか、ありがとうございました。
プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり 連載シリーズ
第1回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏)前編
第2回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏)後編
第3回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第2回 経済産業省 米山 侑志 氏)
執筆者 @schooltowork | 2月 6, 2019 | ブログ, 専門家
世間では注目されてこなかった非大卒人材、特に高卒就職者のキャリアづくり。わたしたちSchool to Workでは、データをもとに各分野の有識者に意見を伺います。
今回は、現役官僚の立場でありながら若者のキャリアについて研究や講演活動をされているキャリア教育研究家、RIETIコンサルティングフェローの橋本賢二さんへご意見を伺います。
前回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏) 前編
古屋:
就活は、いろいろ言われてはいますが、社会で自分を見つめ直したり適性を考えたり自分がどう社会に役立つか考える機会にもなっていると言われますものね。高校生はそれすらする時間がないということですね。
橋本:
キャリア教育=進路指導という考え方にとどまっており、高校までの先生のキャリア教育は「進路の指導」の域を超えられていない部分がいまだにあります。さらに言えば、社会全体として高校生までの「子ども」に対して、キャリアに対する意識づけをやって意味があるのか、と思ってしまっている状況があると思っています。
例えば、地元に就職した場合は、地元での働き方やキャリアづくりにコミットしていかないといけないのに、それもできていないということですね。
古屋:
また、高卒就職者を採用している業種に差がありすぎます。情報通信業が圧倒的に少ないですね。
橋本:
20世紀のシステムをそのまま支えてしまっていますね。20世紀の産業構造が、そのままこの数字となって残っているのだと思います。
職種による違いも大きいでしょう。小売業ではマネージャー系と現場という切り口でみると圧倒的に労働集約の現場系に高卒人材が就職していると思います。
また、地元では、大企業の工場で働くって一番かっこいい就職先なんですよね。
古屋:
離職率もそうですが、高卒就職者を社会としてあまりにももったいない活かし方をしているのをどうにかしないといけないと思うのですよね。
同時に高卒が中小企業に多く就職する現状って、本当に若者の力を引き出せてるのかというのを疑問に感じるんですよね。
橋本:
昭和からこれまで、大学を卒業して大企業に就職するというキャリアパスがあまりにも一般的になりすぎて、個人側も企業側も固定観念になりつつありますよね。大企業の採用ですと、「大卒じゃないといけない」「〇〇大卒以上」というような大卒信仰がありますよね。
ただ職種によっては、本来は大卒である必要はないんですよね。本当にスキルとしての大卒に期待があるのは、一部の学生さんだけ。
そして、中小企業は逆に「大卒を取りたくない」という負の分断があると思います。
古屋:
中小企業は大卒者や大学院卒者をとろうとはしているけれど、採用して「はて?」となっているお話をよく聞きます。使いきれていない。そこをうまく支援してあげる機能が必要ですよね。
橋本:
面白い話がありまして、学習意欲が旺盛な中小企業の二代目、三代目には経営系の社会人大学院で学んでいる人が多くいます。そして、そこで学んだ手法を地元で使うと成功するそうです。それくらい、都市と地方の知識差はありますから、地方の中小企業に都市部の企業が行っている採用ノウハウや定着支援は有効に機能すると思います。
古屋:
面白いですね。また、入職経路が固定化されていることも大きな問題だと思っています。高卒で最優秀の人々はすぐGoogleとかに就職して育っていくようなルートがあったらいいですよね。どんどんそういうルートでキャリアを作ればいいと思う。
橋本:
そうなった時は、自分の進路を絞り混む作業が必要ですよね。逆に選択肢が少なくなったりしませんか?
古屋:
初職が、「何を学ぶべきか視野を広げる」機会にもなると思うんですよね。Googleいったら自分は何するのかを調べていかないといけないじゃないですか。本当に自分が社会人としてやっていくために、大学に進学して何を学ばないのかいけないのか、考えるきっかけになると思うんです。
橋本:
真の学び直しですね。それはあるかもしれないですね。
古屋:
先ほどのお話でもありましたが、大きな規模の事業所に限定すると、離職率は高卒と大卒で逆転し、大卒の方が高くなります。「キャリア観」ができてないから離職率が高いのではないのですよね。
橋本:
これは、つまりは企業側が人材を育成できていない、ということに他ならないですよね。継続させるのが人事の仕事であって、それが浸透しないと採用コストも人材育成コストも無駄になります。企業側が人材育成できない現状があって、今の状況が当たり前ではないという認識を持たないといけないですよね。これが今のこの国の現状ですよね。
また、離職率の数字の理想水準は人材戦略によって変わってきます。極論すれば、「人材を使い捨てる」みたいな企業は離職率多くてもいいという考え方で採用するかもしれないですし。選ばれないでしょうけど。
古屋:
日本の企業の採用は最初の数年は「スクール性」があると思っています。最初の数年は学校のようなものだから、どんな仕事をするのかと具体的にわかって入る必要がない。
橋本:
採用がアバウトすぎる現状はおおいにあります。それはお互いにとってもよくないですよね。
古屋:
最後ですが高卒と大卒の初任給の違いについては良く言われています。経済合理性の観点からは、大卒プレミアといいますか、これが「学歴の価値」になるわけです。
橋本:
実は、高卒と大卒の生涯賃金の差は企業規模の就職先の差なのではないか?という仮説をもって統計を調べてみましたが、実際にはこの差を埋めるほどではありませんでしたね。やはりプレミアムはありそうです。
古屋:
ポテンシャルを計測するのは難しいですから学歴で一律になっているのですね。若者がどんどん減っていくなかで、若い世代のポテンシャルを最大限発揮させるための打ち手はまだまだあると思っています。
橋本さん、本日はありがとうございました。
プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり 連載シリーズ
第1回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏)前編
第2回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏)後編
第3回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第2回 経済産業省 米山 侑志 氏)
執筆者 @schooltowork | 2月 3, 2019 | ブログ, 専門家
世間では注目されてこなかった非大卒人材、特に高卒就職者のキャリアづくり。わたしたちSchool to Workでは、データをもとに各分野の有識者に意見を伺います。
今回は、現役官僚の立場でありながら若者のキャリアについて研究や講演活動をされているキャリア教育研究家、RIETIコンサルティングフェローの橋本賢二さんへご意見を伺います。
古屋星斗(聞き手、当団体代表理事):
橋本さん本日はありがとうございます。橋本さんはまさに就職に関する国の人材政策にも携わられていましたね。その観点から伺いたいのですが、20歳代後半の就業者を例としてみると世代人口に占める割合は大学卒・大学院卒が49%、非大卒は51%となっています。数字でみると特に高卒人材は25%と意外と多いとおもったのですが、いかがでしょうか?
橋本賢二氏(キャリア教育研究家、RIETIコンサルティングフェロー。以下敬称略):
私も地方で講演をする機会などありますが、都会でみると大卒が多いと思いがちですが、地方に行くと認識は違います。その意味では、日本全体でみたときには地域差が大きい数字という印象です。
古屋:
都市部は大学進学率が高い一方で、地方は低いということですね。地方にお仕事に行かれることも多いと思いますが、そうした「進学率の差」について実感することはありますか?
橋本:
多々あります。とある県では、県として大学進学率が低いことに非常に問題意識を持っていました。県としては大学進学率をあげたく、旧帝大をはじめとする偏差値の高い大学にいかせたいという思いがやはりあるんです。その思い自体は良くわかります。ただ、大学進学して地元を出て行くと帰ってこない、地元に残ってほしい人材が流出してしまうというジレンマがあって悩ましいようでした。
古屋:
県の教育庁が直接見ているのが高校までで、その高校から大学への部分が最後の出口である、ということも現実としてありますね。私もその県の気持ちは共感できます。
橋本:
そうですね。ただ、「生徒自身のキャリア」という観点で見た時、大学進学実績という数字をあげたところで彼らの将来への責任を果たせているのか。大学に押し込んでいるだけなのでは、ということは感じています。親ももちろん、いい大学に行かせたいということを望んでいる傾向にはあるのですが。
古屋:
何のために大学にいくのか、という「なぜ?」が大切ですよね。
橋本:
そうです。また、親が大学に行かせたくない、と思うケースには、所得的な問題で行かせたくないご家庭の事情もありますよね。地方特有の事情として、家業の担い手がいなくなることなどの事情で行かせたくないというケースはあります。
地方の人材確保という観点では、その背後にいる保護者の事情はまた課題として違ってくる。
学校側も進学実績を気にしていますが、その背景にいる人たちの多様性も大きくなってきているように感じます。
古屋:
ありがとうございます。いま、親御さんの多様性のお話がありましたが、非大卒と一言にいってもかなり多様なことは言うまでもありません。高卒と専門卒も全然違う。専門卒は大学に準じた比較的オープンなマーケットが形成されつつも、学校と就職先が密接な関係を持っているケースが多い。また、高専卒は一種の技術系エリート集団であり半数は大学に編入します。
就職率で見ると高卒の就職率は非常に高く、就職先と学校がパイプとしてつながり機能している現状はある。ただ、高卒就職者の離職率の高さも目立ちますから、「つなぐ」という意味では成功しているとは言い切れないのかと思うのですがいかがでしょうか。
橋本:
早期離職は注目すべきポイントのひとつです。企業の規模別にみると、大学生よりも高校生の方が小規模事業者に就職し、高卒・大卒共に小規模事業者の方が離職率は高いです。なので、小規模事業者/大規模事業者の離職率で比較しなければこの数字は正しくよみとけないですね。
古屋:
その通りですね。1000人以上の事業所ではむしろ高卒の方が大卒よりも離職率が低いという点について私も分析をしています。ただ、大企業へ就職した高卒の人に話を聞くと、「扱いが雑」なのが嫌だったという話が出てきました。名前で呼ばれず「技能さん」と呼ばれるなど。この人手不足のなかで、高卒の人材をもっと活用できないのかと思っているのです。
古屋:
また、県外への就職率が圧倒的に少ないですね。平均すると20%弱しか県外で就職していないのが高卒就職者なんですね。そんなに地元に産業ってあるんでしょうか?
橋本:
これも地方別に見ると面白いと思います。例えば、エリア内移動。九州では福岡の吸収力が高いと言われていますから、比較的九州の他の県は県外就職率が高いですよね。また、岐阜は愛知に、奈良は大阪にとられている構造になっています。
就職口の供給量からみたとき、地元との選択のなかでたまたま大阪や名古屋が魅力的だから、という理由で県外を選んだ可能性があります。
古屋:
県内外よりはエリア内外というように考えたほうがいいということですね。エリアを超えた就活をさせないとそのギャップ埋まらないということですね。県外、エリア外で就職しないおもな理由はなぜなのでしょうか?
橋本:
仕事がなく、情報もなく、県外に行った先輩もいないからではないでしょうか。また、小規模事業所は高卒採用を毎年継続して行っていないケースが多いですから、一度先輩が入った県外の求人がずっと続くわけではない、ということもあるのでしょう。そうすると身近な地元の就職先へのルートのほうが確実に見えてくるのだと思います。
古屋:
入職経路はハローワークや学校経由が8割を超えています。
橋本:
情報の入り口が狭いです。高校生からすると、学校に張り出される求人情報やハローワークの情報しか比較材料となる情報がない状況になっていますよね。
古屋:
たしかに就職率は高いですが、その先にたいして学校がコミットしているわけではもちろんありませんから、キャリアの入り口としては細すぎるのではないでしょうか。
橋本:
高校生は仕事や働くことを考える時間自体が圧倒的に少ないですよね。進学か就職かで、高校の3年間をまるまる考える時間に使えるわけではありませんから。
18年間の人生のなかで、自発的に情報収集をしたり企業を見たりする時間が圧倒的に少ない状況になっているのです。高校生は実はインターン率は高いですが、これはいわゆる「職業体験」なので、仕事や働くことを考える機会にはなっていません。そんななかで就職していくことがギャップの原因となり、離職率を高めるのではないでしょうか。
プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり 連載シリーズ
第1回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏)前編
第2回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第1回 キャリア教育研究家 橋本賢二氏)後編
第3回 プロに聞く、次世代の高卒のキャリアづくり(第2回 経済産業省 米山 侑志 氏)