ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その4)

2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

前回 ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その3)

古屋
教育の専門家のお二方からお話しをいただいたのですが、生徒さんというか、まさに、高卒で就職した若者たちの話をしたいと思っています。

ハッシャダイさんが事業でもやられているように、就職してからは、中卒、高卒でも全然活躍できるわけですよね。普通に起業して社長も出来るし、何らそこには因果関係が無いとは言いながらも、やはり、周りの良い大学に行っているような人たちと比べて、自分がこれは足りないとか、逆にこれは絶対に有利ではないのかなどを感じることがあるんじゃないかなと私は思っています。これは当事者の勝山さんにぜひ聞いてみたいと思います。

勝山
はい。高校卒で就職した若者たちに足りないものは、色々とあると思うのですが、そのなかでも圧倒的に足りないと感じるのが、知識の土台みたいなものが出来上がっていない部分です。常にトライアンドエラーを繰り返しているという部分は僕自身にもあります。

例えば、講演したり、色々なところで活動したりする時でも、誤字脱字とか本当に小さなことを間違ってしまったりとか。基本中の基本というものが間違ってしまったり、知識みたいなところが足りないのかなと思ったりします。

私は、16歳ぐらいからとび職もやりましたし解体もやりました。工場で働いたりとかもしたので、技能的なものは、すごく身に付いていたと思っています。なので、例えば会社が合わなくて辞めたとしても、そういう技能の部分でお金を稼いだりすることもできるので、一歩を踏み出す力であったり、経験的なものがあるからこそ、足りない知識を少しだけ補えたりする部分があるのではないのかという風に感じています。

4月に、ヤンキーインターンの生徒が24人入ってきたのですが、どういう子たちが多いかと言うと、やはり、ブルーカラーの仕事をしていた子たちが半分くらい。あとの半分は、自衛隊の子とか、先生が3人ぐらいとか、飲食店系の子もいたりする。ブルーカラーの仕事をしていた子だと30万から40万円ぐらいお金が貰える中でヤンキーインターンに来るんですよね。その時の給料は一時的に貰えなくなるので経済的な余裕は無くなるけれども、それでもヤンキーインターンに来て成長したいとか、自分を変えたいと思って東京に挑戦する子たちがものすごく多いんです。

私は最近、高卒で就職した若者たちに会っているのですが、やはり思うのが、一回自分で一歩踏み出して、そこで気付きを得て、学ばないといけないと感じる子は多いですね。なので、特徴で言うと、失敗や経験があるからこそ、一歩踏み出す力みたいなものは圧倒的に持っているのではないかなと思っています。

あとは、先ほど少し説明しましたが、高卒で足りないものは、基本的な基礎知識や、知見みたいな部分かと思います。ヤンキーインターンの子たちも、そこの部分が足りなかったりするので、研修で営業をしてもらい、座学研修の部分で、話すことの基礎や国語を学んでもらっています。要は言葉を知らない子がすごく多いんですよね。

私もそうだったのですが、不良だった時は、すぐに感情的になって、言葉が分からないから手が出てしまうとかありました。それこそ私は東京に来ていろんな人と出会って、教科書とか漫画とか文字とかも全然読めなかったのですが、本を読むことがすごく好きになって、今では月に4冊、5冊読むんですが、そうすることで自分の感情が今どういうことになっているのかということを言葉で説明できるようになってきたんですよね。

言葉で説明できるようになると、自分のやりたいことや想いを言葉で具体化できるようになってくる。具体化できるようになると、それがしっかりイメージできるようにするところをヤンキーインターンで学ばせています。

また、埼玉の教員の方で、上田さんという方が今日来てくださっています。入学式などのタイミングにボランティアでヤンキーインターンの生徒たちに、国語の力で言葉の力を身に付ける授業をやっていただいたり、ラッパーの方に来ていただいて、ラップを通して言葉の力を身に付ける授業をやってもらったりしています。そういう知識的なものをしっかり補えるような研修を入れることによって、技能的な部分ではない、足りない部分を学びなおすということをやっています。

古屋
今、勝山さんがおっしゃったような話は、実は個々の問題というよりも、どちらかと言うと社会にあるシステムの問題もあるんじゃないかと思っています。人間は企業で育っているわけです。特に若者は。その育てるシステムが、大卒に対してはしっかりしたものがあるわけです。要するに座学研修があり、その後のキャリアパスがしっかりと見える化されていて、色々なところに行ったり来たりとジョブローテーションしながら育っていくというようなシステムができているんですよね。

しかし、高卒の子に対しては、企業側も育成システムみたいなものが欠如している。これは実際データとしてあるのですが、座学研修をしましたかということを聞くと、結果が大卒と高卒で全然違うんですよね。では、高卒の子ってどうやって学んでるんですかと聞くと、OJTで学んでいる。これだと学びの構造が全然違うんですよね。なので、さっき勝山さんがおっしゃった中ですごく良いと思ったのは、まさに研修を受ける、要するに机の上での勉強という形で、授業空間の学びのプログラムを提供するのは、実はこの社会にすごい欠けている機能ではないかと。大卒の子たちと高卒の子たちで、差がかなりあると思うんですよね、

逆に言うと実は、高校の子たち用に工夫したプログラムを走らせれば、普通に育つ可能性があるわけですよ。

勝山
そうですね。高卒の子たちも僕もそうなんですが、例えば、大学生と同じような研修を取り入れたとしても、それを学ぶスタンスみたいなものが整っていない子って結構いると思うんですよね。なぜ学ぶのかという部分をあまり理解ができていなくて、その状態で受けさせられたとしても、インプットの質が全然変わってくると思うんですよね。

高卒で多いというか、僕も中卒なんですが、非行に走った子とかで多いのが、とりあえず一回やってみてから気付いて学ぶというケースが多いので、そういう研修を取り入れたり、それこそ一歩踏み出してみる、失敗してもいいから一回やってみたらどうなのかというような、社会的にそういうのがOKと見なされるようになったら、もっと高卒の若者たちが学びたいという意欲が上がっていくというのは感じますよね。

 

古屋
いいですね。もしかすると大卒がまずは情報を得てから行動を促すような方針なのかもしれませんが、高卒の子はそうではなくて行動をさせてから情報を与えるというやり方が、もしかするとフィットするのかもしれないという話ですね。

まさに、この話の中で、企業でどういう風に活用や育成をしていくのか、やはり、高卒の子に対して全く同じやり方ではおそらくフィットしないんじゃないかなという気がすごくしています。そういうお話しを採用して、育成、活用をしようとしている山田さんの方から聞きたいなと思います。

山田
弊社で言うと高卒の人材の育成は完全にOJTでやっています。インサイドセールスの営業をやってもらっているのですが、とりあえずやってみるか、みたいな感じで一回客先行ってみてごらん、みたいな話になってもそんなに抵抗無く本人たちが行くみたいなところは良いな、強味だなと思っております。

活用とか育成について聞かれると何とも言えないのですが、割と営業とかは近いかなと思います。ミスしても何とかなるっていう職種に関しては、活用とか育成っていうのは、先ほども古屋さんの話でもあったと思うんですが、「やらせてみる」みたいなところで育っていくのかなというように考えております。

営業は経験が物を言うところもあると思うので、大卒で営業1年目の23歳と、高卒で5年やった子であれば、単純に5年分のアドバンテージがあるという状況が作れるのかなとは思っております。

ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その3)

2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

前回 ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾 「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その2)

古屋
1つ目のテーマは、現状の課題などのお話を伺いたいと思います。このテーマについては最初に、学校の先生の方からお話をいただきたいと思いますので、新井先生お願いします。

新井
先ほど、お客さんの中に「一人一社制ってそもそも何ですか?」というようにおっしゃった方がいたと思うんですけれども、たぶん教員も同じだと思います。

私が最初に働いた私立高校は、大学進学を目指すような学校だったので、自分が受け持ったクラスには就職希望の子はほぼいなくて、その時は「一人一社制」という言葉は知りませんでした。

私が「一人一社制」を知るようになったのは、定時制高校に来た時です。定時制高校は、ほとんどの子が就職希望です。そうすると、進路指導の準備を始めると「一人一社制」というワードが出てきて、そこで初めて「一人一社制」について調べました。基本的に教員になる方というのは、学歴はほぼ決まっています。高卒だと教員にはなれないので、進路指導をする先生は大卒です。なので、高卒就職の仕組みを知りません。

高卒就職の基本的な流れは、7月1日に求人票が来て、夏休み中に1社から3社ぐらい企業見学をして、9月5日に応募が解禁されます。そして、9月16日から面接がスタート。10月以降になると「一人一社制」の規制が緩まる、そういう流れがあることを自分で調べて知りました。職場に20代の先生が多くいますが、おそらく知らない先生が多いかと思います。知るきっかけは、卒業学年になるとか、卒業学年に近づくとか、もしくは進路指導部という部署に行った時じゃないと分からないのが現状です。

制度としての課題もあるかとは思いますが、やはり教員側の知識の無さは課題として挙げられます。しかし、公立教員なので一応研修もあります。初任者研修と言って、埼玉県の場合は1年目の先生が、毎週水曜日に月2、3回ぐらいセンターに行きます。ですが、僕は東京都で受けているので埼玉では受けたことないんですよね。ただ、話を聞く感じだとキャリア教育の研修をやっていないと思います。恐らく、高卒就職の仕組みとかも知らないままなんじゃないかと思います。

ただ、アクティブラーニングの研修はかなりやっています。埼玉県の方で、ジグソー法という東京大学と研究をしているものがあるのですが、それに関してもかなりやっています。そして、その研修については、1回は絶対に受講しなさいという形になっています。

なので、キャリア教育に関しても必須で研修に組み込むとか、そういうことをしないと先生側が、よく分からないまま指導して、よく分からないまま子供たちが仕事に就いて、ミスマッチが起きてしまう。それが高卒早期離職者の4割と、大卒早期離職者の3割、この1割の差はそのように思っています。

古屋
ありがとうございます。定時制の子たちは、今どういうように仕事を感じていますか?

新井
自分が定時制で働き始めた時に、ベテランの先生たちが言うのが、「うちの子たちはすぐ辞めちゃうんだよ」という話をよくしていました。追跡調査していませんが、8割、9割は3年以内に辞めているという話を聞いて、それは変えないといけないと思い、悩み続けていました。色々な方に情報をいただいて、ハッシャダイさんと連携をさせていただいたりとか、スクール・トゥ・ワークさんと連携をさせていただいたりとか。あとは、埼玉県がNPOと連携して自立支援事業をやっていまして、今日も来てくださっているのですが、そことも連携して色々な社会人の方たちを去年の11月ぐらいから呼んでいます。例えば、中卒から起業したとび職の社長さんとか、定時制高校を卒業した後に、大手の葬儀会社に入って、支社長をやっている人、あとはディーラーの営業の方、整備士の方とか、より身近に感じる職種の方たちなど、色々な方を呼んで話をしてもらっています。そのおかげもあってか、今3年生になって、かなりの子たちが進路を絞れてきています。

例を挙げると、1年生の時に薬剤師になりたいと言っていた子が、母子家庭で、進学は難しいという話がありました。ですが、医療系に興味があるという話をしていて、看護師だったらなれるかもしれないとか、準看から行こうとかの相談をずっとしていたら、あまりやる気はないという話に変わって、本当は何がやりたいのと聞いたら、ゲームまとめサイトのゲームウィズというのがありまして、そこのライターをやりたいと本人が志望を変えたんですよね。大きく進路の方向は変わりましたが、でも、本人もしっかり頑張ろうってなりました。

一応ネットで見たら、バイトなんですけれど結構お給料も貰えるみたいで、とりあえずやりたいことをやってみるということになりました。そこからどんどん突き詰めていったら、農業もやりたいという意向とかも出てきて、逆にチャンスだよ、なり手がいないからすごい可愛がってもらえるよとか、生徒自身が自ら仕事について調べるようにもなりました。

他の生徒では、声優のマネジメントをしたいと言っている子がいまして、声優の芸能事務所を調べてみると、やはり、高卒だと厳しいという話になりました。しかし、専門学校に行くお金も母子家庭だから無いと。大学も難しいとなった時に本人が、今は働いて、とにかくお金を貯めると言いました。そこからキャリアを積んで、転職するのがいいかもしれない。なるべくいい会社に入るために今、一生懸命頑張って成績を上げようとか、厳しい中でも色々な話が出てきました。

もし自分が、何も考えずにいきなり4年生の代の進路指導をしていたら、どうなっていたのかなという危機感を最近まではすごく感じていましたが、今は少しずつ安心しています。

古屋
ありがとうございます。生徒さんもそういう話を聞けると、胸が熱くなるというか、そういう気持ちあるかと思います。先ほども申し上げたとおり、今までの在り方自体を完全に否定してもしょうがない部分もあって、日本のマッチングが非常に上手くいっているというのは世界的に一つの特徴ではありますので。その辺の話も含めて、鈴木補佐がどういうように今の高校生の進路選びについて考えられているのかというのを伺いたいと思っています。

鈴木
だいたいの現場の現状は、新井先生に喋っていただきましたので、全体的なお話しで言いますと、先ほど就職率98.5%と言ったのは、正確には98.1%ですね。実は昭和63年の就職率が98.2%でこの数字が最高だったんですね。これは、ちょうど元号が変わる時に、就職率が相当高くなるというところがあって、昨年度から今年にかけての就職率もたぶん同じような現象が起きるかと。なぜか元号が変わった時に98.2%というような高卒者の就職率が相当高いというか、一番高いと言われているのが就職率であるという現状がございまして。

色々な先生からお話しを聞くと、やはり就職率が良いということは、色々な会社からオファーがたくさん来るということ。そうすると、学校の先生たちはそのオファーを整理するんですけども、追い付かないそうなんですね。

昔は、何社かの中から生徒の成績や授業態度などで選べたものが、あまりにも幅が大きすぎて、生徒の選択の幅が逆に広がりすぎる。何が起こるかと言うと、先生の進路指導が追い付かない。要は、「マッチング」が出来なくなるということなんですよね。実は皆さんが思っている以上に高校の先生は忙しくて、大学生は昔、就職氷河期の時に100社面接とか1,000社面接とかありましたが、高校の先生は生徒が高校1年生の頃から、生徒に対する就職活動というものを始めていて、インターンシップだったり職業体験だったり、いわゆる就活指導というものをずっと進めているんですよね。そしてその集大成が実は就職だというところがあるんです。

ですから、生徒の就職までが学業の一環として、その成果として受けられるというように現場の先生から話を聞いて、なるほどと思いました。

では、文部科学省で何が起こっているかと言うと、昔は詰め込み教育とかゆとり教育とかそういう順繰りがあったのですが、今は社会に出られる子供たちを育てようという形に変わっているんです。

今までは知識としての詰込みだったり、心の調整だったりとか色々やってきたわけですけども。今行っているのは、子供たちが社会に出た時に自分の足で立っていられるような教育をしていくしかないよねということす。

こういう進路指導、進路選びは、学習と本来、直接結びついているというはずなんですけれども、それを超えて就職率が上がって来ていて、そして職種も新しいものに変わってくるものですから、なかなかそこに学校現場が追い付いていかないという現状があるというように聞いております。

そういった意味で、先ほど言ったような「一人一社制」などの課題があります。どこかの地点でブレイクスルーが必要なのかどうなのか、少し考えなきゃならないのかというところに来てると思っております。

非大卒人材の新たな呼称、「早活人材」について

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク

 スクール・トゥ・ワークでは、これまで日本社会において「大卒」との比較によって「非大卒」と呼ばれてきた若い世代の人々を「早活人材」と呼んでいます。これは、学歴や学校歴によって個々人のポテンシャルや力を表現するのではなく、期就職動人材」、「期職業動人材」や「躍人材」といった自分が起こした“アクション”に対する略称として表現したものです。

つまり、「早活人材」とは、「キャリアを早いタイミングで選択した人」という時間軸に重きを置いたものでもあり、若者が主体的にキャリアを選択したといえる名称と考えています。

 

「早活人材」が生きていく職業社会について

この社会、特に職業社会は、大きな変化の時代に入っています。産業構造の大きな変化、人生100年時代の到来、そしてAIや5Gなど革新的技術の登場。こうした社会の中で、「40年同じ会社で働き続ける」、「20年かけて課長を目指す」、「10年下積みする」といったこれまでの日本社会で当たり前だったキャリア形成のプロセスは、すでに若い世代にとって説得力と求心力を失っています

その中で、人生100年時代のキャリア設計は、「学校→会社→引退」という3ステップから、より多くのステップを持つものに変化していくでしょう。誰もが「学校のあとに会社勤めをして引退」という社会は終わったのです。そんな社会で、最も大きな学びのモチベーションはどこから生まれるでしょうか。学校の机の上からでしょうか。働いて生まれる、「もっと学校で勉強しておけば良かった・・・」という気持ちは多くの人が持つ後悔でもあります。そう、働いて初めて大きな学びのモチベーションが生まれるのです。「早活人材」が持つ、「早く職業活動をする」、「早く活躍する」ということは、実はこれからの時代のキャリアづくりのキーポイントでもある、私たちはそう考えています。スクール・トゥ・ワークに関わる多くの「早活人材」からも、「大学で学びたいことがある」、「大学院(!)で研究をしたいことが見つかった」という話を聞くことが多くあります。早活人材は、昭和時代からのレガシーである“3ステップ人生”の次を切り開く可能性を秘めているのです。

 

「早活人材」から始まる、日本のキャリアづくり革命

現在の高校卒業者の就職には大きな問題がたくさんあります。「就職させる」ことがミッションである学校・ハローワークと、「自社で働かせる」ことがミッションの会社の二者では、もはや彼らを支えきることはできません。自分のキャリアを作るということ。自分の人生を振り返って自分のこの先の人生を決めていくということ。十分な支援があれば「早活人材」には、会社も、学校も、親も決められないことを、自分のアクションを土台にして決めていくことができる、そんな潜在力を感じています。

また、日本人の大学進学者のほとんどは20歳前後の就職活動時になってようやく自身のキャリアについて考え始めます。その後の就活を経て、結果として3割の大学生は3年で離職しています。高校で就職するかどうかに関わらず、早くキャリアに関する活動を開始することは、これからの若い世代のキャリアづくりの大きなポイントとなっていくことでしょう。

日本においては長く、学校空間と企業社会が分断されていました。使う言葉も、評価される力も、目指すものも異なる二つの場。この二つを繋ぐ“スクール・トゥ・ワーク(学校から職業へ)”の穴は、企業における新卒一括採用と一斉研修、OJTによる教育システムといった、「企業が若年社会人を受け入れてコストをかけて育成する」という仕組みによって埋められていました。しかし、現代社会においては企業にその余裕はなくなっており、新卒採用よりも中途採用の割合を高めるという方針を打ち出す大企業も現れています。「学校→会社→引退」という仕組みは、制度疲労を起こし崩壊が迫っているのです。

折しも、これまで120万人弱を保っていた日本の18歳人口は、2020年から急激に減少します。若者の数が急減し、キャリアづくりも大きく変わりゆく時代。社会を担う貴重な若者である「早活人材」がどう活きそしてどう活かすのか、もう模範解答を漫然と受け止めていれば良い時期は終わりました。みなで考えなくてはならないときがやってきたのです

 

 

古屋 星斗

一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事 

1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。

自分のためからお客様のための仕事へ

今回は、内装の施工現場と会社の人事の両方の仕事をこなす異色の職業人、鈴木辰弥さんにお話を伺いたいと思います。

木村壮馬(当団体事務局スタッフ、以下省略)
さっそくですが、鈴木さんのキャリアについてお話をお伺いしようと思います。始めに、現在はどういった仕事をされていますか?

鈴木辰弥さん(以下敬称略)
私は株式会社ライフタイムサポートというところで、主に内装の施工などの現場仕事と人事の仕事、この2つを中心にしています。

木村
現場仕事と、人事の会社内で2つの仕事を行っているのはかなり珍しいと思うのですが、具体的にどういった業務をされているのですか?

鈴木
現場の仕事は壁や床の特殊コーティングなどの業務をしています。人事の業務としては、新卒の採用に関する業務を行っています。

株式会社ジンジブさんを通して、人事や採用に関する研修を受けています。その他に、今年新卒が3名入ってきたのですが、次の新卒の方たちに引き継げるように、責任者として教えていたりもしています。

木村
ジンジブさんの人事や採用に関する研修とは、具体的にどのような研修ですか?

鈴木
高校生へのアプローチの方法や、高校生が何を求めているか、企業のどこを見られているかなどを学んでいます。学校訪問の仕方や、訪問後のアプローチの仕方なども細かく教えて下さるので非常に助かります。

木村
そうなんですね。ちなみにライフタイムサポートはどういったきっかけで知られたのでしょうか?

鈴木
ライフタイムサポートを知ったきっかけは、ジョブドラフト(株式会社ジンジブが行っている高校生向け求人媒体)を通じて知りました。自分がやりたい仕事を調べていたらライフタイムサポートが出てきました。

木村
そうなんですね。色々な方にインタビューをしてきた中で気になっているのですが、東京近辺といいますか、1都3県の高校生は、ハローワークから出される求人票よりも、民間の求人媒体などを使うことが多いのですか?

鈴木
そうですね、ハローワークの求人を使っている人もいましたが、やはり、インターネット上で見やすく整理された求人情報の方が使い勝手が良かったので、私はジョブドラフトを使用させていただきました。

木村
ライフタイムサポートを選んだ時は、どういった部分を軸にして選ばれましたか?志望動機を教えてください。

鈴木
ライフタイムサポートへの入社理由として、面接時に社長との面談があるのですが、その時に、社長と話しているうちにライフタイムサポートなら自分の価値観と合う会社だと感じるようになり、この会社に決めました。

木村
社長さんと話をして価値観が合うと感じたということですが、何か印象的だったことはありますか?

鈴木
社長と話をして一番感じたのが、お客様を想う気持ちですね。常に、お客様第一の姿勢で仕事に向かっているのは、話を聞いていてとても印象的でした。あとは、私のことを適切に評価してくれそうだと感じました。

木村
実際に入ってみてギャップなどはありましたか?

鈴木
入社前から、インターンに参加するなどをして業務内容のイメージは掴めていて、自分のやりたいこととマッチしていたので特にギャップと感じるところはありませんでした。また、入社してからすぐに部長と二人での行動とかもあったので、仕事の悩みや不安とかもフラットに打ち明けられる環境で、距離感の近い社風でした。私は、非常に伸び伸びと仕事をやらせてもらっています。

木村
素晴らしい社風ですね。施工と人事の2つの仕事について、どちらの方が楽しいとか、ここにやりがいを感じるというような部分はありますか?

鈴木
現場は忙しいですが、やりがいもあり非常に楽しいです。採用は、高校生に対してどうしたら魅力に感じてもらえるか、どうやったら自社のことを知ってもらえるかなど常に試行錯誤するのも面白いですね。

木村
そうなんですね。
続いて、高校時代と今を比べて仕事に対する価値観は変わりましたか?

鈴木
高校時代は、派遣のアルバイトをしていたのですが、その時に、仕事は自分が遊ぶための労働による対価ぐらいにしか考えていなかったのですが、今はライフタイムサポートで働いて、自分が施工したところを見て喜ぶお客様がいて、そのお客様からお金をいただく。自分の給料になるサイクルが分かりやすく、非常に私の仕事のやりがいになりました。そういった働く際の心境の変化などはありました。

木村
自分中心から、お客様のために働くという気持ちが強くなったということですね。

鈴木
そうですね。

木村
ありがとうございます。では、学生時代の頃のお話をお聞きしたいと思うのですが、学生時代に熱中していたものとかってありますか?

鈴木
自分の通っていた高校が工業高校だったのですが、文化祭が最初に思いつきます。工業高校はモノづくりの高校なので、自分が作ったものをお客様に見てもらう、体験してもらうというのが楽しかったです。仲間と目標に向かって何か一つのものを作り上げるという体験は非常に刺激的で楽しかったです。

木村
素晴らしい経験ですね。
高校の進路選択のタイミングで進学などの選択肢もあったかと思いますが、就職を選んだ基準となったものや当時印象に残っていることがあればお聞かせください。

鈴木
私は、就職希望でした。ですが、3年の初めに高校を辞めたんですよね。そのまま単位を引き継いで通信制の高校に転入しました。その関係もあり、就職活動を始めたのが12月、1月からだったので、残り2、3か月しかなく、その分で進路先の候補がかなり狭まっていました。私は誰かのために働きたい、私の作ったものが誰かに喜ばれるものしたいと思う部分があったので、何社かの選考を受けて、現在のライフタイムサポートに入社しました。

木村
かなりぎりぎりで就職活動を行っていたんですね。今後、働いていく上で一番大切にしたいものとかはありますか?

鈴木
現場に入って、お客様の注文に対して施工をしていくのですが、お客様のニーズでしたり、完成後の満足感など、そういった仕事の一番基礎のところを大事にしたいと思っています。

木村
まさに職人と言いますか、お話の節々でお客様第一の姿勢が鈴木さんから伝わってきますね。いろいろお話を聞かせていただきましたが、ご自身の今後のキャリアプランなどで考えていることはありますか?

鈴木
イメージしていることは、まず、早く一人でお客様の対応をできるようにして、一人で売上を立てられるようにしたいということです。先輩や上司の方は、お客様の対応などは一人で行っていたりしますので、私も早く任されたいと考えいています。

木村
そうなんですね。先ほどの質問と重なる部分はあるかと思いますが、将来のビジョンや10年後の将来像などがあれば教えていただけますか?

鈴木
将来のビジョンとしては、独立して社長になりたいと考えています。私自身仕事を通して、お客様の役に立ちたいというのと、自分が集めた仲間と苦楽を共に過ごして、作り上げたいというのがあるので、施工の現場で活躍できるようになったら独立することを考えています。施工以外でも興味のある分野であれば起業をしたいと考えています。

木村
10年後が非常に楽しみですね。ライフタイムサポートを通して、自分が一番成長したところはどこに感じていますか?

鈴木
考え方が大きく変わりました。学生時代のアルバイトをしていた時は終わりの時間が来るまでどうやって仕事をうまくサボろうかと考えていて、時間になったらすぐ帰ることを考えていましたが、今は、お客様を中心に業務を組み立てて、会社の中でも、どうやったら効率的にできるのかを考えるようになりました。なので時間軸から成果や、こなす業務量に軸を置くようになりました。

木村
アルバイトとかは結構どうやったらサボれるとか、つい考えてしまいますよね(笑)。最後に、高校生たちに対して進路選択や就職活動についてご自身が感じられたことなどメッセージがあればお願いします。

鈴木
私は高校生の時、派遣の仕事やアルバイトが続かなかったり、逃げてしまうことがありました。自分の意見が言いづらい環境だったり、人間関係が上手くいかないことがあると、働いていても辛いことが多いので、一つ言えることとすれば、会社見学の際にその会社の社風や社長の目指すビジョン、価値観などをしっかりと理解することが非常に大事だと思います。

自分を認めてくれる環境があると、伸び伸びと仕事が出来るので、そうすることで成長スピードも変わってくるので、そこは一番大事にしたほうがいいかと思います。

木村
お話の中で非常に会社への愛や現在の仕事が充実しているところが多く伺えて、とても素晴らしいと感じました。本日はありがとうございました。

ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾 「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その2)

2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

前回 ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾 「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その1)

古屋
ここから、パネラーの紹介をします。

米山
経産省の産業人材政策室で、キャリア教育や、企業の労働環境整備などを広く担当している米山と申します。

鈴木
文科省の鈴木と申します。初等中等教育局という幼稚園から高校まで、進路指導の担当をしております。また、いじめ対策や虐待対策も担当をしております。一人一社制に関してはいろいろ調べたという経緯がありますので、よろしくお願いします。

新井
新井晋太郎と申します。現在、埼玉県の川越工業高校の定時制で、地理歴史科と公民科の教員をしております。元々、サラリーマンをやっていましたが、合わなくて辞めました。それからは塾講師をして、大学を3年間通い直して、私立高校に非正規で3年間働いてクビになりました。その後、東京の中学校で3年間働いて、自分がキャリアで悩んだので、キャリア教育をしたいということで、埼玉県の高校を受け直して、今4年目です。今は高校3年生の普通科で担任しています。15人生徒がいまして、1人が大学受験、残り14人は100%高卒就職するっていうことで、すごくキャリア教育に関心があります。よろしくお願いします。

勝山
株式会社ハッシャダイの勝山と申します。ヤンキーインターンができるきっかけとなった元不良と書いてありますが、最近、経歴詐称問題とかで話題になっていて、元不良や中卒ってワードをあまり使いたくないですが、事実として、非行に走っていた時がありました。

実は、ハッシャダイは嫁の兄が経営している会社で、私はその嫁の兄に救ってもらった経緯から京都から東京に出てきております。現在は同じような経験をしてきた少年院の子供たちや、児童養護施設の子たち、高校生に対して自分の人生を自分で選択しようという言葉をテーマにキャリア講演をさせていただいております。よろしくお願いします。

山田
株式会社インフラトップというDMM WEBCAMP というプログラミングスクールを運営している会社で人事をしています。山田と申します。所属としては、親会社のDMM.comの人事に所属をしていて、半常駐ぐらいの形でインフラトップの方にコミットしています。また、DMM.com関連の他のスタートアップ何社かの人事とかも兼任しながらやっているという状況です。

2月にハッシャダイさんから、インターン生1名をご紹介いただいて、今インフラトップで採用して、20歳の男の子が働いているという状況でございます。人事目線や、ビジネス側の視点の方の話とかを今日は求められていると思っているので、その辺の話ができたらと思っております。よろしくお願いいたします。

古屋
私は今回のイベントの主催をさせていただいているスクール・トゥ・ワークの代表理事をしております古屋です。スクール・トゥ・ワークは社外活動的にやっていて、本業ではリクルートワークス研究所というところで、次世代の若者のキャリア形成の研究をしております。本日はよろしくお願いします。

私は、高卒就職というテーマのディスカッションをオープンな場でやるのは、今まで無かったんじゃないかなと思っています。大卒の人たちがキャリアについてトークセッションをするのは、今までいくらでもあったと思うんですよね。しかし、そこに高卒の方が加わっただけでこんなにレアになるのかと感じています。

まず、最初にハッシャダイさんの活動をどんなことをされているのか、勝山さんお願いします。

勝山
今日の会場は弊社の「ハッシャダイカフェ」でもあります。皆さん来ていただいていますので、簡単にハッシャダイの紹介をさせてください。ハッシャダイでは、中卒、高卒の若者たちの選択格差、機会格差を解消するというのを主に事業としてやっています。

ここは、ハッシャダイカフェというところなんですけれど、基本的に24歳以下の若者であればドリンクが全て無料で飲めたり、進路相談ができたりするというところです。教育関係者の方や、教育にまつわる企画であれば基本的にここを無料で貸し出しています。

選択格差、機会格差は若者たちにどのようなものがあるかというと、4つあると思っています。学歴格差、地域格差、情報格差、経済格差。この4つの格差を選択格差と私たちは言っています。中卒、高卒の若者たち、特に地方にいる若者たちは、こういう格差に悩まされているのと、私たち創業メンバーも格差をすごく感じていたということから、これを是正したいという想いで事業をやっています。

私たちはその格差を無くすのに一番重要だと思っているのが移動だと思っています。移動が格差を破壊すると思っていて、その人が変わる要因みたいなものってたくさんあると思うんですけど。私自身も非行に走っていたという話を先ほどしましたが、生まれた環境によって選択できないとかっていう子たちをたくさん見てきたました。周りには少年院に行ったりする子がいっぱいいます。

少年院の子たちとかは、少年院出てから2、3日はすごく良い子というか、普通に更生しているんですけど、一週間たったらまた、同じように再犯繰り返したりする子が結構いるんですよね。この原因は、コミュニティ依存してしまっている若者たちが多いと思っています。タコツボ化って言うんですかね。私自身も、京都から東京に出てきて、家族とか友達に一番言われたのが、顔つき変わったよねとか言われたりするんですよ。若者たちを移動させてあげて、自分たちのコミュニティから抜け出させてあげることで、また、違う文化や、違う当たり前みたいなものに気付いてもらい、自分のやりたいことや新しいことを見つけてもらうということで、事業を行っています。

一つ目が、「ヤンキーインターン」という事業です。都心体験型インターンシップと呼んでいて、地方にいる18歳から24歳の若者たちに食・職・住を全て無償提供して、大卒者と変わらない選択肢を提供するっていうのを基に、ヤンキーインターン事業をやっています。

もう一つが、「トラベルインターン」と呼んでいて、都心体験型インターンシップでは、半年間、シェアハウスに住んでもらって研修するんですけど、心理的にも非常にハードルが高いので、中卒、高卒の中でも意識の高い子たちであったり、一度ブルーカラーの仕事を経験して挫折をしたりとか、すでに変わりたいと思うようになった子たちが来ているんですよね。ですが、そういう子たちってごく少人数で、私たちが本当に変えてあげたいとか、機会提供をしたいと思っている若者たちにはまだ、届けられていないということで、この事業を始めました。「移動就労型遊学事業」と呼んでいて、主に沖縄であったりとか、北海道の観光産業であったりとか。長野県の鯖江と言われる伝統産業みたいなところを就業先として連携させていただいて、若者たちがこれまで自分の力だけではできなかったような移動をさせてあげる。それで、働きながら学ぼうよとか、遊びながら学んでみようよっていうのをコンセプトに、皆に「移動体験」を提供しています。

また、こういうカフェとかでいろいろと勉強会とか、キャリア研究会みたいなものとかをやって、若者たちの進路選択、中卒、高卒学歴の若者たちが進路選択をしっかりできるような環境っていうのを作っていくっていうのを基に事業をやらせていただいております。本日はよろしくお願いします。

古屋
ありがとうございます。早速パネルディスカッションの方に入っていきたいと思いますが。今日は、テーマを5つ用意していて、パネルディスカッションの後とかQAセッションという、インタラクティブなセッションもやりたいと思っています。皆さんも、テーマを見ながらしっかりと言いたいことを整理してもらえればと思っております。もちろんパネラーの皆さんも、テーマを見ながら私が雑談している間に、自分の思考を整理しておいてもらえたらと思っていますので、よろしくお願いします。

 

ハッシャダイ×スクール・トゥ・ワーク公開イベント第1弾 「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」(その1)

2019年4月24日に開催された株式会社ハッシャダイと当団体のコラボイベント「高卒人材の就職に関する有識者トークセッション」の様子をレポートとしてまとめました。

今回のイベントでは、官公庁、学校の現場、ビジネスや非営利セクター等、各界の若手キーパーソンによるパネルディスカッションを通じ、もはや避けては通れない日本社会の大きな課題である「高卒就職」について議論を深めました。「高卒就職」について、公開の場で多面的に議論される機会は極めて稀。来られなかった方にもイベントレポートとしてシェアさせていただきます。なお、発言者名については敬称を省略して表記しております。

勝山
皆さん初めまして。株式会社ハッシャダイの勝山と申します。今日のイベントは、高卒人材の就職に関する有職者トークセッションという堅そうな名前になっています。私は、今日札幌から帰ってきて、大通高校という高校でキャリア講演をして、昨日は「ヤンキー母校へ帰る」の舞台になった北星学園余市高校で生徒たちの進路サポートを行ってきました。今日は高卒人材の就職に関するお話しができるので、非常に楽しみに思っております。

今日は最初に、スクール・トゥ・ワーク代表理事の古屋さんから、これからの高卒人材の就職に関することについて、オープニングトークをしていただこうと思います。オープニングトーク、パネルディスカッション、その後はネットワーキングっていう形で、これからの就職に関することをディスカッションできていったら良いなと思っております。本日は、文科省、経産省、川越工業高校の先生、そして株式会社インフラトップの人事の方に来ていただいております。本日はよろしくお願いします。

では、早速ですけれども、古屋さんからオープニングトークをしていただけたらと思います。よろしくお願いします。

古屋
早速ですが、質問をしたいと思います。今日の朝ご飯がパンだったっていう人、手を挙げてみてもらっていいですか。2つ目の質問。結婚をしているという方は手を挙げていただいていいですか。3つ目の質問。今の仕事がめちゃくちゃ楽しいという方は手を挙げていただいてもいいですか。結構な人数が手を挙げちゃったんでつまらないですね(笑)。4つ目の質問。私は中卒もしくは高卒ですという方、手を挙げていただいていいですか。ありがとうございます。

この4つの質問ってそれぞれ全然関係無いんですよ。でも、高卒と大卒の「スクール・トゥ・ワーク」の在り方、学校から職業への在り方というのは、それこそ全然違うわけです。それは良いとか悪いではなく、単なる違いです。朝ごはんにパンを食べようがご飯を食べようが良いも悪いもないわけです。しかし、高卒と大卒は優劣のように感じられてしまっている。ここが私のすごく大きな問題意識で、今日こういうイベントを開催している理由でもあります。

最初に、私はまだwhyが足りないんじゃないかと思っています。人間のキャリア作りって当然産業構造とか雇用実践とかによって作られていくんですけど、皆さんがおっしゃっている通り、現代の産業構造も雇用実践もめちゃくちゃ変わっているわけじゃないですか。そうすると、キャリア作りが変わるのは当たり前ですよね。当たり前のことってもっと疑わないといけないと思っているんですよ。

ということで、今日はみなさんでキャリアづくりのwhyを考えていきたい。大学生の就活、どんな服装でしますか?

聴講者1
ずばりスーツ。

古屋
ありがとうございます。皆さん、リクルート・スーツでやりますよね。これは当たり前だと思われているじゃないですか。じゃあ、なぜ就活はリクルート・スーツなんですか。

聴講者2
文化と企業の戦略じゃないですか?

古屋
ありがとうございます。模範解答は、マナーとか経済的格差が見えないとか、そういうのが言って欲しかった回答なんですけど。答えは、大学生が「学ラン」を着なくなったからなんですね。リクルート・スーツは企業の戦略で伊勢丹が1977年に売り出したものです。それまでは、大学生は「学ラン」で就活してたんですが、「学ラン」を着なくなってきたんですよ。だから皆、大学の応援団とかの「学ラン」をシェアして就職活動を行っていたので「学ラン」がヨレヨレになってきて、ちょっとダサいみたな事案が発生したんですよね。そこにビジネスチャンスを感じた企業の戦略で、伊勢丹が1977年に売り出しました。だから、実際に40年ぐらい前にそういう発想をしたビジネスパーソンがいたっていうだけのことなんですよね。どんなマナーでも、何かすごい背景があるわけじゃないんです。

では、2つ目、企業から採用される時どうやって選ばれましたか。前に座っている方、採用される時に、どうやって選ばれました?

聴講者3
面接。

古屋
面接ですね。実は、面接という採用方法は世界的に見ると、全然スタンダードではないんですよね。では、なぜ日本は面接で採用するようになったか。基本は、高校生も大学生も一緒なんですけれど、一次面接、二次面接みたいな感じで就職活動をする。なぜ日本は面接の採用がスタンダードかといいますと、ものの本によれば、それは「卒業の前に採用するようになった」からなんですよね。どういうことかと言うと、昔は学業の成績で採用していたんですよ。ですが、1950年代に学生の争奪が激しくなった時、今みたいな学生の青田買いみたいな状況になって、結果として学校の成績が見えなくなったんですよね。3年生とか4年生とかで就職すると学校の成績が決まっていないので、それが見えなくなったために面接でその人物の人柄を見抜いて採用しようっていうふうに転換したんです。実はこれもすごい合理的な理由があるわけじゃないんです。

ここからが本題なんですけれど、高卒と大卒の初任給を知っていますか?これが、差があるんですよね。これなぜあるのかと思いますか。

聴講者4
大卒の人が働く業種が増えると、お金も増える。

古屋
職種が違うということですね。実は就職先の企業規模が大卒の方が大きいっていうのがあるんですけれど。もっとすごい具体的な理由があるんですね。

実は調べてみると、国が決めたからです。国が決めたのは1940年、会社経理令という勅令が出てですね。それで、学歴別の初任給を国が初めて法定化したんですね。それより昔は、学校別とか学部別とか個別で決まっていたんです。同じ早稲田大学の人でも、この人は広告効果があるから200円で採ろうとか、普通の人は40円とかそういう風に決まっていたんですね。

昭和15年10月15日、こういう文章、ちょっと薄れて見えなくなっているのですが。大卒も技術系と事務系に別れていて、初任給が分かれているんです。そこは専門学校みたいなところでもあったんですけれど、下の方に高等女学校とかですね、これを国が決めていたんですよ。こういうのを研究されている学者さんによると、これが戦後の日本的雇用システムの中で、学歴別の初任給の差というのに繋がっていったとされています。

当たり前を疑おうということで、最後にもう一つ。ここにいらっしゃる方は、かなりご存知の方も多いと思いますが、高校生は「一人一社制」というシステムで就職活動をしています。高校生が就職活動をする時に、一社しか応募できない、同時に一社しか選考ができない。良し悪しがある制度ではありますが、そういう話ではなくて。なぜ「一人一社制」なのかという質問です。

聴講者5
なぜですかね。

古屋
文科省の鈴木補佐がいらっしゃっているので、今の制度的な話はぜひお話しを伺いたいと思っています。非常に日本の高校生の就職っていうのは、世界的に稀に見るマッチングというか就職が上手くいっているというように言われていて。就職率自体は98.5%という驚異的な数字を出しているんですね。こんな国は日本しかないんですが、一方でハッシャダイさんが取り組まれているように、やはりそこにミスマッチも起こっているというのが現実です。入社した後、3年で4割が辞めているという数字があるので、「一人一社制」はそういう制度です。

なぜ、この制度が始まったかと言うと、かなり面白い理由があって、簡単に言うと「アメリカに勝つため」なんですよね。第2次世界大戦の総動員体制で、1941年12月に労務調整令というのが出ているんですけれど、国民が高卒の生徒全員を国民職業指導所、今でいう、ハローワークですね。そこで、しっかり就職できるようにしたんですよ。理由はシンプルで、ゼロ戦や銃とかを大量に作らないといけないわけじゃないですか、あれを作るために、最適なところに就職させて、すぐに離職しないように国がしたっていうことですね。だから、一社しか受けられないようにしたんですね。本によれば学校と国による、斡旋体制の確立が戦後の中学と高校に残っていて、2019年の現在も高校においてそのシステムが残っているという風に言われています。歴史をたどれば、本当にそれだけのことなんです。びっくりしますよね。だから、「当たり前のことをもっと疑った方がいい」と思うんですよね。私はそういう考えで活動をしています。