執筆者 @schooltowork | 4月 14, 2019 | ブログ, メッセージ
一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。
前回 変わる?学校から仕事への第一歩(第11回 初任給の格差)
小松:
全12回にわたり「変わる?学校から仕事への第一歩」をお送りしてきましたが、読者の皆さんはお楽しみいただけたでしょうか?
最終回ですので、緩い座談会をさらに緩くして、お届けしましょうか(笑)。まずはお二人に座談会の感想をお伺いしましょうか?
奥間:
僕は非大卒人材の当事者として座談会に参加させてもらいましたが、普段なかなか振り返ることがなかった学生時代や上京したてのときを振り返ることでき、また、専門家である古屋さんの意見や実際のデータを使って色んな角度から非大卒の課題を考えることができとても充実したものになったと思います。
古屋:
非大卒、中でも高卒就職の分野について、これだけまとまった議論を、当事者を交えて行ったことは間違いなく日本史上初でしょう。教育の分野は、たとえ就職活動のような外部との関わりのある話であっても、当事者不在になりやすい傾向があります。その一点でとても楽しくお話させていただきました。ありがとうございました!
小松:
そうですね。私もとても楽しかったです。お二人のお話もそれぞれ面白かったのですが、何と言っても、日常生活では見えていない話が満載だったように思います。
大卒と非大卒というコミュニティの「分断」
小松:
アメリカがトランプ大統領になってから「分断」という言葉がやたら使われるようになった気がしますが、日本社会においても、大卒と非大卒には「分断」があるように思いますね。今回の座談会でいろいろなことをテーマに話をしてきましたが、この大卒と非大卒の「分断」という点は、お二人はどのように感じていますか?
古屋:
この前、英国在住の友人と話をした際に、「EU離脱について、”こいつは何派”なんだ、と会話で探り合う雰囲気がある」と聞きました。隣人、同僚、友人知人。何派だから、という理由で会話ができなくなってしまうというのが最も恐れるべき「分断」です。
その分断はEU離脱後も治りがたい古傷として英国を苦しめることでしょう。コミュニティ同士が対立することで、イノベーションも健全な競争も生まれず社会は活力を急激に失ってしまいます。 幸運なことに日本社会は世界でも珍しいほど、安定した社会を継続できています。
新時代を迎える日本社会を分断するとすれば、「学歴」や「地方と都市部」といった現状すでに露呈しつつある要素です。学校-職業移行に良い変化を与えることで、少しでも分断された世界が交じり合うようにしていきたいですね。
小松:
そうですね。日本は世界と比べると「分断」は極めて小さいように思います。とはいえ、今回の座談会を通じてみて、こんなにも非大卒人材について知らなかったのかと驚かされるばかりか、自分の判断基準は自分の属するコミュニティに引っ張られるなと思いました。
古屋さんのおっしゃるとおりで、スクール・トゥ・ワークの活動を通じて、分断を回避できるようにしたいですね。非大卒人材でもある奥間さんはいかがでしょうか?
奥間:
正直なところ、僕はこれまではあまり学歴や環境による「分断」を意識したことがありませんでした。しかし、今回の座談会を通じて、自分の過去を振り返ったり統計データを見たりしたことで、「分断」されていたからこそそれに気づかず、気づかないからこそ分断の溝は深まっているのかなと感じました。
小松:
おっしゃるとおりで、気づかない、知らないということは「分断」は進んでいるのかもしれませんね。そういった意味では、この対談は貴重な情報ソースになるかもしれません。
このシリーズを通して、ほんの少しだとは思いますが、学校関係者、行政担当者、企業の人事担当者や学者の皆さんなどに、新しい切り口を提供できたのではないかと思います。
若者へのキャリア教育はどうあるべきか
小松:
これらの現状を踏まえて、当団体の主な活動である若者へのキャリア教育はどうあるべきだと思いますか?
古屋:
私たちの最終目標は「18歳の進路選択をもっと面白くする」ことだと思っています。今の日本の大人は高校生大して偏差値ピラミッドを登るルートしか示すことができていません。
しかし、これだけ産業構造がめまぐるしく変化する時代、このルートを登ることの価値が大きく低下していることは明らかです。
私たちは高校生の段階で、身近なものごとから自分のしごと人生を考えてもらうことで、キャリアの最初の第一歩を踏み出すタイミングを早めようと思っています。
このタイミングが早ければ、今、登っているルートについて早く修正するチャンスがあり、失敗もできる。日本人は一度きりの人生を、もっと楽しくエキサイティングにできる、そのための早期選択を促すようなキャリア教育を行っていきたいですね。
小松:
「18歳の進路選択をもっと面白くする」!ワクワクしますね(笑)。
奥間:
そうですね。僕自身、少し前までは高校生として進路選択を迫られる立場でしたが、卒業が近くなって慌てて自分の進路を探し始めたけど、進学や就職に関する情報を全然持っていなくて、とりあえず先生や親に進められた企業に就職した後すぐに離職をしていく知人を何人も見ました。それこそ一度きりの人生なのにすごくもったいないなと思います。
古屋さんがおっしゃる「18歳の進路選択をもっと面白くする」ためにも、スクール・トゥ・ワークのキャリア教育は、一方通行で自己満足なだけの授業を行うのではなく、僕たち非大卒人材の当事者が講師として話し、一緒に考えることで早い段階で学生達のキャリアを意識するキッカケづくりの場であるべきだと考えています。
小松:
当事者ならではのコメント。ありがとうございます。座談会でお送りしてきた非大卒、特に高校就職の問題ですが、時代の流れによる制度疲労が主な原因だと思います。
時代の流れが本当に早くなってると思います。そのため、日本全体、いやもしかしたら世界全体でも似たような制度疲労が頻発しているように思います。そんな時代の中では「昔から続いているから」という理由だけでは不十分で、未来のほうを向いて、自分たちの頭で考えることが求められていますね。
さて、長々とお送りしてきた座談会ですが、最後に、スクール・トゥ・ワークの代表理事である古屋さんにまとめていただきましょうかね。お願いします。
古屋:
お二人ともありがとうございました!こんな話があります。2000年に日本人が「日本はもう成長できない」と愚痴ると、外国人から「まだ日本はカードを一枚残しているじゃないか。”女性”というカードを」と言われました。
2010年に日本人が愚痴ると、まわりから「シニアというカードを切っていないよ」と言われました。日本の就業社会は、まだもちろん課題は多いものの、この20年で女性・シニアという二大カードを切り、就業率が大幅に上昇しています。そしてこの4月からは”第三のカード”、外国人受け入れの大幅拡大も始まりましたね。
このように、これまで女性・シニア・外国人という切り札をどんどん切ってきた日本社会ですが、最後のカードが非大卒、特に年間20万人弱の高卒の就業者ではないかと思うのです。灯台下暗しで、私は日本の若者こそが日本の就業社会の「最後の埋蔵金」になりえると思っています。
そして、今のキャリアづくりは全然当たり前ではありません。今の常識は未来の非常識、私たちはもっと面白い社会を作れるはずです。一緒に取り組んでまいりましょう!ありがとうございました!
「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ
第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク
執筆者 @schooltowork | 3月 28, 2019 | ブログ, メッセージ
一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。
前回 変わる?学校から仕事への第一歩(第10回 就職先企業の規模)
大卒・非大卒の新卒の初任給
同じ仕事でも初任給に差が…
小松:
第11回のテーマは「初任給の格差」です。それこそアラフォーの私には、初任給は遠い昔の話のように思いますが、お二人はいかがでしょう?初任給で親孝行をしたり、何か買ったものがあったりとかありますか(笑)?
古屋:
私も遠い昔ですが、最初のボーナスで母親にプレゼントを贈ったことを覚えていますね。学生時代はお金が無かったので、最初の給料は借金の返済にまわしました。
奥間:
僕は初任給では、親に少しお金を送っていたくらいで、あとは生活や学生の時の教育ローンの返済に消えましたね。特に何かを買ったとかはないです。
小松:
ありがとうございます。2人の初任給にはあまり感動のストーリーはありませんでしたね(笑)。さて、大卒と高卒では初任給はいかがでしょうか。古屋先生ご説明をお願いします。
古屋:
一般に初任給は大卒の方が高いです。直近のデータでは大卒は20万6,700円、高校卒は16万5,100円となっています。ただ正直なところ研修等により新人時代は、学歴を問わず同じ事業所の同じ仕事をすることも多いため、その場合はこの差には合理的な理由はなくなります。
むしろこの差は「入職する企業の規模の差や業種の違い」が学歴ごとに大きく存在すること、によって生まれている面があるでしょう。高卒就職者のほうが中小企業への入職比率が高いのです。また、同様の傾向が男女の違いでも存在し、女性の方が初任給が低いですがこれも同じような理由によるのではないかと考えられます。
小松:
同一労働同一賃金の概念からは程遠いですね。急に賃金体系は変えられないということかと思います。ちなみに地域差はいかがでしょうか?
古屋:
確かに例えば最低賃金も県でかなり差がありますよね。沖縄と東京では、同じコンビニの仕事でも、沖縄が時給800円のところ東京は1,100円、という感じです。8時間のバイトで2,400円も差がつくわけですから大きい。
そして初任給ももちろん地域差は大きいです。沖縄の大卒は17万5,200円、東京の大卒は21万4,900円となっています。こんなに差があるんですね。
小松:
凄いですね!私は東京でキャリアがはじまっているので、この地域差には驚いてしまいます。なかなか日本人だと給与の話はあけすけに話さないかもしれませんが、奥間さんは、地元の友人と話をするときに、給与の話になったりしますか?
奥間:
地元の友人などとはよく給与の話になりますね。古屋さんのご説明どおりで、地方と東京では最低賃金も大きく差があり、特に沖縄はその中でも最低賃金が低いので、東京で働いている僕に対してすごく興味深々で給与の話を聞いてきます(笑)。
小松:
やはり他人の給与は気になりますからね。
初任給のあるべき姿はどういうものなのでしょうか?やはり同一労働同一賃金ですか?
古屋:
日本では企業内で学歴に応じた一律の初任給が一般的でしたがようやく変わりつつあります。分かりやすい例では、ITエンジニアなどのスキルを持った学生に対して初任給としては高額の、例えば1,000万円などの年収を提示する例が広く出てきています。
また、エリア総合職などの学歴の中で職種を細分化し、それに応じて初任給を細分化する会社も一般的になってきていますね。私は最終的には学生を一括りで採用するのではなく、ロング・インターンシップなどを経由して一人一人の学生を職種指定で採用し、その職種に応じた給与設定をするという職種別初任給が今後の一つの到達点なのではないかと思っています。
小松:
そうですね。職種別初任給は凄い世界ですね!ますます若者たちはキャリアについて考えなければならないですね。私たちもキャリア教育を通じて若者を応援し、初任給の格差是正に貢献したいですね。
「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ
第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク
執筆者 @schooltowork | 3月 24, 2019 | ブログ, メッセージ
「非大卒人材のトリセツ」の第3回は、「非大卒人材の育成方法」について記載したいと思います。少し長くなってしまったので、総論・各論に分けて、前編・後編でお送りします。
前回 非大卒人材のトリセツ(第2回 非大卒人材の可能性)
前回の「非大卒人材の可能性」では、1.若さ ~ 若者の4年間を有効活用できる ~、2.柔軟な対応力を長所として挙げさせてもらいました。また、「長所は短所の裏返し」とも言われるように、これらの長所の裏返しとして、非大卒人材の短所でもある知識不足についても指摘させてもらいました。
これらについては、会社の経営者や人事部の方からすれば、非大卒人材に関わらず、学歴は関係なく若手社員全般の特徴と似ていると感じた方も多いのではないかと思います。私も同様に感じていて、非大卒人材の場合は、大卒人材と比較して、その程度が大きい・激しいだけだと考えています。そのため、ますます就職した会社の育成方法が重要になってくると思います。
私が経営する経営コンサルティング会社のスーツ社では、高卒人材2名を採用しています。今回はスーツ社において、どのように彼らを育成しているのかをご紹介したいと思います。なお、初回に記載したとおり、 “たった2年”、“たったの2名”の採用・育成の経験でしかありませんので、その点についてご留意・ご理解いただければと存じます。
1.正しい現状認識
スーツ社の非大卒人材の育成で1番気を付けている点は、正しい現状認識をさせることです。
私は、非大卒人材に限らず、若手社員は、皆やる気にあふれて会社に就職してくると考えています。しかし、時間の経過とともに、どうしても自分の仕事や職場環境を客観視することができなくなってしまい、入社時には充実していたやる気の低下とともに、若手社員の多くが、会社の文化に必要以上に染まりすぎてしまう、「自分は悪くない。悪いのは上司や会社!」など被害者意識を持ってしまう、自らの可能性に自分で限界を設定してしまうなど、個人の主体性が乏しくなってしまうと考えています。
しかし、正しい現状認識があって、やる気さえあれば、主体性を失うこともありませんし、可能性は無限大に拡がります。
特に非大卒人材は、大卒人材以上に多様なバックグラウンドを持ち、教育年数も短いため一般に知識量が不足しており、スポンジのように吸収するかわりに、染まりやすい特徴があります。また、知識不足から視野も狭くなりがちであり、大人社会と接する機会の少なさから視点も低いため、とにかく客観性を持たせなければなりません。
スーツ社の場合は経営コンサルティング会社のため、非大卒人材の彼ら二人も、日常の業務においては、クライアント企業の社長にアドバイスをする立場にあり、公認会計士や弁護士などの専門家、金融機関・投資家や大企業の幹部と打ち合わせをすることも多々あります。
こういった日常業務を客観的に捉えさせることで、自分の置かれている状況を把握できるように促すのです。ビジネススキルが足りているか、仕事に対するプロフェッショナリズムはあるか、自己成長の定義ができているか、社会性の獲得はできているかなど様々な点を多角的に考えさせるのです。
スーツ社では、この客観性を担保するために、異業種交流会やベンチャー交流会などへの参加を積極的に奨励しています。彼らが人的ネットワークを築くという目的もありますが、何よりも自分の仕事や職場環境を客観視してもらいたいと考えています。
また、自分の比較の対象を、同年代のトップ層に置くように助言をしています。例えば、彼らの年齢ではまだ公認会計士や弁護士の有資格者はいませんので、難関資格の取得を目指している受験生たちの努力などと比較するようにさせています。
2.ポジティブな職業観の確立
スーツ社の非大卒人材の育成で2番目に気を付けている点は、以下のようなポジティブな職業観の確立です。
これは当団体の問題意識でもありますが、非大卒人材の多くの職業観は、学生時代のアルバイトの延長線上にあることが多いと考えています。つまりは、労働の対価という報酬を得るために、決して面白いとは思えない労働をして、自分の時間を切り売りするというような職業観です。
この非大卒人材の多くが持っている職業観を、大きく2つ変えなければならないと考えています。仕事そのものの捉え方を、ネガティブからポジティブに変化させなければなりません。
まず、仕事は生活のためにやむなくする「労働」ではなく、仕事は、他者や社会に貢献することができ、自己実現することができる、なおかつ、報酬までもらうことができる「仕事」であるという考えを知ってもらう必要があると考えています。
次に、近視眼的な考えを変えさせなければなりません。彼らには投資の概念を教える必要があると考えています。投資の概念とは、時間とお金を投資して、お金や幸せなどのリターンを極大化するという考え方です。人生100年時代において、20歳の若者は、少なくとも50年は働く可能性が高いと言われています。それならば、とにかく早いうちに、自己のスキルアップを図って、労働生産性を高めたほうが、仕事も楽しくできるし、報酬も高くもらえる可能性が高いのではないかという事実を教えます。では、どのように自己のスキルアップをするか。それは時間をかけて、本を買って勉強したり、お金をかけて、学校に通ったりすることで、スキルアップすることができることを教えます。
非大卒人材の職業観を、「労働」から「仕事」へ変化させ、そして、1時間あたりの「労働」からそれこそ50年あたりの「仕事」へ変化させて、ネガティブからポジティブに変えることが必要だと思います。
小松 裕介
プロ経営者 株式会社スーツ 代表取締役
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社を7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。
2018年9月に一般社団法人スクール・トゥ・ワーク設立と同時に監事に就任。
「非大卒人材のトリセツ」連載シリーズ
第1回 はじめに
第2回 非大卒人材の可能性
第3回 非大卒人材の育成方法 前編
執筆者 @schooltowork | 3月 20, 2019 | ブログ, メッセージ
一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。
前回 変わる?学校から仕事への第一歩 (第9回 地域格差)
高卒・大卒の大手企業就職者の離職率
就職先企業の規模
小松:
あっという間に第10回になってしまいました。それにしても、いろいろな論点がありますね。第10回のテーマは「就職先企業の規模」です。規模といっても、売上規模と社員数などいろいろありますが、まず、いわゆる大企業、中小企業などの定義を教えてもらいましょうか?
古屋:
小松さんのお話のとおり、実は統一された定義はありませんが、一般的には従業員規模で考えられることが多いようです。100人以上、もしくは300人以上を大企業とする場合が多いですね。個人的には5,000人以上企業の採用や育成行動が顕著に異なる場合が多いので「超大手企業」と言ったりしています。
小松:
そうなんですね。スーツ社は10人以下ですし、私が社長をしていた上場会社ですら正社員は120名程度でしたから、大企業はやはり大きいですね!大卒や高卒の就職活動においては、就職先の規模について差はあるのでしょうか?
古屋:
実は極めて大きな差があります。大卒者で1,000人以上の事業所に入社する人は32.5%、一方で高卒では17.8%とほぼ半減します。この差をどう考えるかです。なぜ高卒の方が小規模な会社に就職する傾向が強いのか。
また、大企業では早期離職者は少ない傾向にありますから、私は「高卒者が離職率が高い」という現象は、実は「高卒者は小さな会社への入職者が多い」ことでしかないのではないか、と思っています。
小松:
それは逆かもしれませんよ。高卒者の多くは、「小さな会社への就職の選択肢しかない」ということかもしれませんね。本シリーズでも話をしてきましたが、地域を移動して就職する人は18.8%しかいないわけですから、大企業の多くが東京に集中しているからという理由もあるかもしれません。
ちなみに、奥間さんは、なぜ中小企業のスーツ社に就職されたのでしょうか?就職活動の際に、会社の規模はどのように考えていましたか?
奥間:
僕が就職先を探していた時は会社の規模についてはあまり考えたことがありませんでしたが、小規模の会社のほうが厳しい環境に身をおけるように感じていて魅力的には感じていました。
ただ、大企業という選択肢がそもそもなかったのは事実かもしれません。誰もが知っているような大企業は大学卒業が最低ラインでしか入れないものだと思っていました。
小松:
厳しい環境に身を置きたいとは、なかなか意識高い系な回答ですね(笑)。
奥間:
元がのんびりとした性格なので環境を変える必要があると思ってです(笑)。
小松:
奥間さんの学生時代の友人は大企業に行った方はいらっしゃいますか?
奥間:
学生時代の友人では、多くはないですが大企業で働いている人も何名かいます。知っている限りでは地元沖縄の大企業などがほとんどです。
小松:
その方たちは17.8%の中の人たちですね。基本的には、高卒就職においても、大企業を希望する人が多かったですか?
奥間:
多かったですね。やはり誰もが名前を聞いたことあるような会社の方が家族も周りの人も安心してくれるし、小さい会社に比べて給与や労働環境も高水準で安定しているというイメージが強かったので、就職できるのであれば大企業へ行きたいという人が多かった印象です。
小松:
そこはやはり大卒と同じですね。大企業や中小企業の特徴などは就職する際に教えてもらえるものなのでしょうか?
古屋:
現在の学生さんの大企業志向は各種データから明らかですし、大学や高校のキャリアセンター・進路指導でも、実績作りにもなる大企業や有名企業を勧める傾向が一般的にあると聞いています。
この会社に行けと先生に「はめ込まれた」と、とある高校卒の方は言っていました。ただ、大企業と中小企業の違いというよりは、もっと基礎的な働くことに対する準備ができていない、というのが実態ではないでしょうか。
小松:
本人の希望を超えて、先生に「はめ込まれた」となるとなかなか問題ですね(苦笑)。大企業や中小企業の長所・短所は、それこそ社会人でそこそこの年齢になっても判断がつきませんし、それこそ人それぞれ、会社も様々といったように思います。
そのように考えると、おっしゃるとおり、もっと基礎的な働くことに対する準備や、私たちが繰り返し言っているキャリア教育をしっかりしなければならないというような話になりそうですね!
「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ
第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク
執筆者 @schooltowork | 3月 11, 2019 | ブログ, メッセージ
一般社団法人スクール・トゥ・ワークの設立を記念して、当団体の活動の目的と背景を知ってもらうために、当団体の代表理事の古屋さん、監事の小松さんと事務局スタッフで非大卒人材の奥間さんと、座談会形式で、「変わる?学校から仕事への第一歩」の連載をお送りしています。
前回 変わる学校から仕事への第一歩(第8回 ハローワークの役割)
就職活動における「地域格差」
小松:
第9回のテーマは「地域格差」です。古屋さんは岐阜県出身、奥間さんは沖縄県出身ですが、地域格差についてはどのようにお考えですか?
奥間:
そうですね。地域格差の中でも僕が一番実感しているのは情報格差ですね。特に地方と都市部の間での差はかなり深刻だと思っていて、上京する前と今では、普通に生活しているだけでも情報量の差を感じています。そのため非大卒の就職活動においても大きな情報格差があると思っています。
小松:
面白いですね。これだけメディアが発達して、インターネットの時代になっても、地域によって未だに情報格差があるのは意外です。
古屋:
人はみな何かのコミュニティに所属していますよね。その中で情報を交換して自身の知識や経験を蓄積していくわけです。コミュニティが違えば、得られる知識や知識を得るきっかけも異なります。
特に「きっかけとなるような出会いのちょっとした差」が、インターネットの時代になったことによってその後とてつもなく大きな差になることもあります。実はネットの発達によって、情報格差、知識格差は広がり易くなったといえるのではないでしょうか。
人口が密集し経済活動も活発な都市部のコミュニティには、博物館や科学館、仕事体験を提供するようなイベント、面白い働き方をする大人、見た目も考え方も違う外国人などなどと触れあう可能性のある「子ども」も「大人」もいます。
きっかけを生み出す情報の化学反応の比は地方とは比べものになりません。私も岐阜県出身ですが、振り返えると今のキャリアがあるのは、小学5年生で入った補習塾に、たまたまいた東京帰りの先生の一言がきっかけでした。
この一言がなかったら間違いなくいまここにおりませんから、ちょっとしたきっかけが生み出すキャリア、そして、そのきっかけを生み出すコミュニティの重要性を痛感します。
小松:
ちなみに、東京帰りの先生が古屋さんに言った一言って何ですか?
古屋:
「君は才能があるから、もっとすごい塾にいったら、もっとモテるかもよ」みたいな感じで言われました(笑)。
小松:
なんか軽いですね(笑)。話を戻すと、「たまたまいた」これは重要なワードですね。キャリアは「たまたま」で変わる。あと、おっしゃるとおりかもしれませんね。インターネットの登場によって、格差は広がっているかもしれません。
さて、いつもと同じように、非大卒人材のキャリアという観点に絞って、地域格差について教えてもらいましょう。古屋先生、お願いします(笑)!
古屋:
85%の高校生が県内に就職している。これが意味するのは、ほとんどの高校生が「生まれた県の産業構造によって職業人生が左右されている」という事実です。
さて、私の地元の岐阜県は、お隣愛知県に世界的な自動車企業があることもあって、製造業が強い地域です。しかし日本にはこうした根強い産業基盤を持たない地域もあります。企業の選択肢もぐっと狭まります。
その選択肢の狭さが、生まれた場所によって決まってしまうのです。人生100年時代やSociety5.0の時代に、地域の格差をそのまま21世紀を生きる生徒に背負わせるような仕組み。本当にこのままで良いのでしょうか。
小松:
85%が県内で就職は驚きですね。私は普段は経営コンサルタントをしていますが、やはりヒト・モノ・カネと同列で語られますが、ヒトは圧倒的に動かない(笑)。人は土地に縛られる。これが動かしがたい事実だと思います。
資料を見ると、九州の各県の県外の就職が高いようですが、これは福岡に行ってるんですかね?同じく、東北は仙台ですかね?
古屋:
そうですね、エリア内移動ですね。キャリア教育研究家の橋本さんもおっしゃっていますが、九州・東北は福岡・仙台まで移動することは比較的多いようです。
小松:
なぜ地域にみんな留まるのでしょうか?理由に関する調査などはあるのでしょうか?
古屋:
高卒者に対するまとまった就職意向調査は行われていませんが、選択肢がそもそもないですので出ようがないということだと思います。ファイルに閉じられた10数枚の求人票から選ぶ、という世界ですので。
小松:
たしかにそうですね。東京にいると日本の中心があたかも東京にあるように考えてしまいますが、本来あるべき姿は、地元かもしれません。もし若者たちの目の前に選択肢がたくさんあることが顕在化したら、地元から出ていくようになるのでしょうかね?
古屋:
たしかに顕在化されれば地元から出る若者は増えると思います。目の前の選択肢が増えるということは、例えば、何もやりたいことがなくとりあえず就職していく人も、就職活動の中で聞いたこともなかった仕事を知ったり、興味を持つ機会が増えたりします。
やはり都心にはたくさんの仕事が集まっているので自然と県外就職も増えるのではないかと思います。
小松:
逆にもしかすると、案外、地元の良さも考え直すかもしれませんね。選択肢がちゃんとあって、それぞれがキャリアについて真剣に考えることは、地方と都市部について考えることにも繋がるかもしれません。
教育であったり行政であったりは、就職活動において地域間の移動が少ない点について、何か問題意識は持っているのでしょうか?
古屋:
実は、なかなか悩ましい問題です。地方創生という政策キャンペーンがあります。これは東京一極集中状態から人材面でも脱却をはかろうということで、UターンやIターンを推進しています。その意味では地方からの人材移動の逆のような政策とも言えます。
ただ、私は一度若者が情報も人も企業も多い都会に出ること、そしてその若者がノウハウやネットワークを地元に持ち帰ることこそが真の地方創生に繋がると思っています。欧州のサッカーチームに行った日本人選手が日本のチームに戻ってきてそのチームを盛り上げるように、です。
小松:
確かに人材の流動性が高まることで、情報の偏在もなくなりますし、新しいコラボレーションも生まれます。最終的に都市部に出て就職するかどうかはどうあれ、少なくとも就職活動の選択肢に、地域を越えた選択肢も考えてもらいたいですね!
「変わる?学校から仕事への第一歩」連載シリーズ
第1回 はじめに
第2回 大卒人材と非大卒人材の分断 前編
大卒人材と非大卒人材の分断 後編
第3回 高校生の就職制度
第4回 高卒の就職率
第5回 「七・五・三」現象
第6回 離職した若者はどこへ行くのか
第7回 現在のキャリア教育
第8回 ハローワークの役割
第9回 地域格差
第10回 就職先企業の規模
第11回 初任給の格差
第12回 スクール・トゥ・ワーク
執筆者 @schooltowork | 3月 6, 2019 | ブログ, メッセージ
「非大卒人材のトリセツ」の第2回は、「非大卒人材の可能性」について記載したいと思います。
前回 非大卒人材のトリセツ(第1回 はじめに)
初回に記載をさせてもらったとおり、私が経営する経営コンサルティング会社のスーツ社では、主に中学校卒、高等学校卒、専門学校卒、高等専門学校卒、短期大学卒や大学中退などの人材と定義される「非大卒人材」のうち高卒人材2名を経営コンサルタントとして採用しています。
高学歴が当たり前の経営コンサルティング業界において、なぜ当社が非大卒人材を採用しているかというと、決して非大卒人材の就職や若者キャリアの社会的課題の解決に貢献したいという高尚な理由からではなく、経営者として、彼らに可能性を感じているから採用しています。
私も、普段こそ自分もクライアント企業にアドバイスをする経営コンサルタントですが、自社においては経営者(中小企業のオヤジ)ですから、そこは冷静に、合理的に考えて意思決定をしています。
以下に、私の考える非大卒人材の可能性を2つ記載します。
1.若さ ~ 若者の4年間を有効活用できる ~
非大卒人材の可能性が「若さ」ならば、大卒就職者も十分に若いのではないかというご指摘を受けるかもしれません。大卒就職者よりも、さらに若いのが非大卒人材です。
高卒就職者の1年以内及び3年以内の離職率(出典:厚生労働省,“新規学卒者の離職状況”)によれば、高卒就職者については、3年以内で4割近い人が離職しています。そのため、18歳~21歳の若い非大卒人材が、毎年大量に求人マーケットに放出されていることになります。
「若さ」は、2で後述する「柔軟な対応力」も含め、大きな可能性です。
私も長年にわたり企業再生などの仕事をしてきていますが、スタッフが若いというだけで、明るく元気で、前向きで、「柔軟な対応力」があってと、社会や会社を動かす原動力になり得ると考えています。
高校卒業時点では、非大卒人材は大学受験の勉強をしていないためか、総じて、大卒就職者のほうが非大卒人材よりも、社会人として必要な基礎的なスキル(四則計算、読み・書きなどのコミュニケーション基礎力や一般教養など)が高いと思われます。しかし、大学卒業時点では、企業が非大卒人材に対して本気になって教育を施して、企業での実務経験を積ませ、座学でも勉強を促せば、私は非大卒人材も大卒就職者に負けないスキルが身につくと考えています。
非大卒人材を雇う経営者が考えるべき点は、大卒就職者が通う大学の4年間と比較して、非大卒人材が働く4年間のほうが、社会人としての付加価値をつけることができるかどうかではないかと思います。
例えば、当社の非大卒人材2名は、奥間さんが現在22歳、木村さんが19歳です。奥間さんは、上場準備の仕事をしたり、大手企業らで構成されるコンソーシアムの事務局をしたり貴重な経験を積んでいます。木村さんは、特に案件に恵まれ、資本業務提携や敵対的買収防衛の仕事をするなどしています。当社では、彼ら2名に対して、人生の幅を広げるため、座学での勉強も推奨しており、資格学校に通う授業料も負担しています。
彼らには、スーツ社では、お給料をもらいながら、経営の最前線をOJTで経験でき、座学も学ぶことができると伝えています。また、非大卒人材のコミュニティではなかなか触れることのない、偏差値上位の大学に通う大卒就職者の有するスキルや仕事に対するメンタリティの情報を伝えて、自発的にスキルアップを図らせるようにしています。
2.柔軟な対応力
「若さ」の中でも特筆すべきは「柔軟な対応力」だと考えています。
どうしても人間は自分の置かれている環境に影響を受けます。才能がありポテンシャルのある人材であっても、知らなければ、そもそも選択肢を選ぶことすらできず、世界へ羽ばたいて活躍することはできません。
前述のとおり、総じて、非大卒人材は、大卒就職者と比較して、社会人として必要な基礎的なスキルが低いと思われます。しかし、逆を言えば、知識不足、もっと極端な言い方をすれば無知だからこそ、スポンジのような「柔軟な対応力」があるのです。
昨今の私の理解ですが、非大卒人材の一部は、高校卒業時点で、少し視野が狭かったりのんびりしていたりしていただけの方もいるように思います。ちなみに当社の非大卒人材の奥間さんは沖縄出身で性格ものんびりしていますし、木村さんは高校球児で高校時代は野球ばかりしていたそうです。
非大卒人材であっても、環境を整備して、社会人として活躍するために必要な情報をしっかりと伝えれば、柔軟に対応して、立派に成長していくものです。
特に当社では、非大卒人材2名に対して、(それこそ、私からもたらされる情報も疑うぐらい)とにかく自分の頭で考えるように、視野を広く持つように、最前線で活躍している人の話を聞くようにと話をしています。
もしかすると非大卒人材に限らず、若者が無知だから、情報を恣意的にコントロールして、自社に適した人材を創りたいという経営者は多いかもしれません。しかし、それは本当の意味で社員の成長にはなりません。
面白いエピソードがあります。前述のとおり、当社の非大卒人材2名は、いきなり経営の最前線に放り込まれました。お正月休みに地元に帰って、家族や友人に、自分の仕事の近況について話をしたところ、「悪い会社に騙されているのではないか?」、「嘘をつくようになってしまったのではないか?」といぶかしがられたそうです。
環境が変われば人は変わるのです。特に若い非大卒人材は「柔軟な対応力」を有しています。
「非大卒人材のトリセツ」連載シリーズ
第1回 はじめに
第2回 非大卒人材の可能性
第3回 非大卒人材の育成方法 前編
小松 裕介
プロ経営者 株式会社スーツ 代表取締役
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社を7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。
2018年9月に一般社団法人スクール・トゥ・ワーク設立と同時に監事に就任。